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第40話 暴かれた秘密③

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 私とヴィリは、また機会を見つけて会うことを約束し、アーベレ公爵家の馬車でアーベレ公爵家へといったん戻り、ロイエンタール伯爵家の馬車で自宅へと戻ったのだった。

 自宅に戻ると、私は、疲れたでしょう、お風呂を用意してあります、という若いメイドの言葉に従って、外出着の着替えを手伝ってもらい、まずはお風呂に入ることにした。

 確かに今日はあちこち馬車で移動して疲れたものね。結局使わなかった自分の絵の具を洋服ダンスに戻して、メイドに手伝ってもらいながらお風呂に入った。

 なぜか、私を風呂に呼びに来た若いメイドではなく、別のメイドが手伝ってくれたことに、一瞬疑問符を浮かべたが、他の仕事を言いつけられるのはよくあることだ。

 馬車に乗るというのは本当に疲れるわ。地面が石畳でも、土がむき出しでも、ガタガタと揺れてお尻と腰が痛くなるのよ。それを背筋を伸ばして、なんてことないすました顔をして、座っていなくてはならないのだから。

 風呂から上がり着替えを済ませ、夕食の準備を待っていると、家令が私を呼びに来た。
 イザークが既に戻っていて、私を呼んでいるのだと言う。私は思わずドキッとする。

 1人でヴィリの家に行ったことが、知られてしまったのかしら。独身男性の家に1人で行くことはあまり褒められたことではないけれど……。仕事だったのだから仕方がない。

 そう思っていたけれど、まるで違った。
 イザークはなぜだか上機嫌だったのだ。
 なんだろう?と私は思った。だけどイザークの口から出た言葉は、私を酷く驚かせた。

「君は私に嘘をついたな。」
 イザークは、私が執務室内に入るなり、そう言った。私はヴィリの件だと思っていたから、まだ平然とした表情をしていた。

「嘘、とは……。」
 そもそもイザークに、アーベレ公爵家に行くことも、ヴィリの家に行くことも伝えていないのだから、嘘にはあたらない筈だけど。

「だが私は寛大だ。この先二度とこのようなことが起きないようにするにはどうすればよいか考えた。君は社交にも積極的になったようだ。アーベレ公爵家に行ったそうだな。」

「はい……。本日アデリナ嬢よりご招待を受けて、アーベレ公爵家に行って参りました。
 お茶会をして絵を描いてきました。」
 それを聞いたイザークがうんうんと頷く。

「──これを君にやろう。」
 宝石を入れる用の小箱を引き出しから取り出すと、それを私に差し出して来た。
「あけてみるがいい。」

「はあ……、ありがとうございます……?」
 宝石箱を開けてみると、中には巨大な真っ赤な石のついたペンダントが入っていた。

 なぜ急に宝石なの?パーティーに参加する時用の伯爵夫人用の宝石類は、イザークが鍵を持っている場所に厳重に保管されている。

 義母は自分だけの宝石を持っているけど、私は自分だけの宝石を持っていない。
 あくまでもロイエンタール伯爵家のものを借りているというだけ。だからということ?

「私だけの宝石、ということでしょうか?」
「そうだ。積極的に社交をするようになったようだからな。これからはもっと必要になるだろう。いくらでも買って構わない。」

 イザークはなぜか終始上機嫌だった。アーベレ公爵家に行ったことがそんなにも嬉しかったのだろうか。帰宅してから知った筈なのに宝石まで?なぜここまで上機嫌なの?

「──だから絵はもう描かなくていい。」
「……はい?」
 私は嫌な予感に足首から血の気が引いた。

「……私は絵の具は今回購入するもので最後にしろと言った。だが君はまた新しい絵の具を買ったな?メイドが報告してきたぞ。」
 呆れたようにイザークが言った。

 ──あの子だわ!無理やり馬車に乗り込もうとして来た、イザークを狙っている若いメイド。疲れているでしょうと私を風呂に誘ったあの子が、私の弱点を探っていたんだわ!

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