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第23話 化粧品店の美しい店員②
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「……ふうん?そうなの。」
エアニーさんが思わせぶりにクスリと笑うと、私のことをじっと見つめてくる。
「あの……、なにか……?」
私に向けられた視線に戸惑って尋ねる。
「ついにあの店に女性を連れて行ったのね。一緒に家具を選びたい方が出来るまでは、女性と行くつもりはないと言っていたのよ?
あなた、ずいぶんと特別なのね。」
「──!?」
私はその言葉に真っ赤になってしまい、後ろにいるフィッツェンハーゲン侯爵令息を振り返れなくなってしまった。
「──?どうかなさいましたか?」
いつまでも戻って来ない私に、フィッツェンハーゲン侯爵令息がこちらに近寄ってきて私の顔を覗き込む。
「……この方に何か言ったのかい?」
「あら、別に何も悪いことは言ってはいないわ。ただ、素敵な方ねと思っただけよ。」
訝しむフィッツェンハーゲン侯爵令息に、エアニーさんが両手のひらを上に向けて肩をすくめてみせた。本当ですか?と尋ねるフィッツェンハーゲン侯爵令息に、私は、少しお話ししていただけですとしか言えなかった。
「本当に素敵なお店ですね、外装も内装も商品のデザインも、どれも心惹かれますし、何より店員の方が素晴らしいです。お隣の家具屋といい、フィッツェンハーゲン侯爵令息はこんなお店をたくさんご存知なのですね。」
「……ここは私の店なんですけどね。」
フィッツェンハーゲン侯爵令息は、そう言ってイタズラっぽく笑ったのだった。
「──そうなのですか!?
……申し訳ありません。大きな声を出してしまいました。」
はしたなかったわ。少女のようにはしゃいだ気分で店内を回っていたのが良くなかったのよ。フィッツェンハーゲン侯爵令息に、学生時代の友人相手のような接し方をしてしまうだなんて。私は恥ずかしくなって、両手で口元をおさえた。
「いえ、構いませんよ、他にお客様もいらっしゃらないことですしね。」
そう言ってフィッツェンハーゲン侯爵令息は柔らかく微笑んで下さった。
休憩で少し出ていただけなので、このまま店に残りますと言うフィッツェンハーゲン侯爵令息に別れを告げて、私はほてる頬をおさえながら、ロイエンタール伯爵家に戻る馬車に揺られたのだった。
次の日、私はバルテル侯爵家主催の写生大会に参加していた。お誘いを受けてからというもの、とても楽しみにしていたのよね!
アデリナ嬢もいらしているし、新しく絵を描く仲間がたくさん出来るということもそうだけれど、王立図書館で絵を描いて思ったことだけど、外で絵を描くのは、とても自由でのびやかな気持ちになれて素敵だわ。
上級貴族婦人たちがたくさん集まる社交の場ということもあり、イザークも気持ちよく私を送り出してくれたしね。
椅子やイーゼルを各自持ち込むということで、皆さんそれぞれ2人以上の従者と、荷物を運ぶ馬車を連れて来ている。私も侍従長が前回のメイドの他にもう一人と、荷運び用の馬車を付けてくれたので、用意されたイーゼルの前の椅子に座って絵を描き始めた。
「良いお天気になりましたね。」
「ええ。本当に良かったですわ。」
絵を習い始めたという御婦人方は、当然売れっ子魔法絵師である、アデリナ嬢とはくらべるべくもなかったけれど、まだ見せられるようなものではありませんのよ、と口々に言いながらも、それぞれ楽しそうに絵を描いていていて、私も気が楽に絵を描けた。
今日はバルテル侯爵夫人がパトロンをしているヴィリも来ていて、講師としてみんなにアドバイスをしてくれていたから、みんなはそれも楽しみにしていたようだった。
日頃絵師について習っているとはいえ、現役の人気絵師に教えていただける機会はそうはないものね。ヴィリは独自にやっている手法なんかも気さくに教えてくれていた。
私もヴィリに植物の生き生きとした艶の出し方を教えて貰って、それを再現出来た時はとても嬉しかった。私を含め、みんな魔石の粉末入りの絵の具を使っている。当然アデリナ・ブルーを全員が持っていた。
それを見たアデリナ嬢が、私の空の描き方をお教え致しましょうか?と言って下さったので、全員一気に色めき立った。
「あの……、僕も見せていただいても?」
と、ヴィリがおずおずと声をかける。
「もちろんですわ?どうぞ?」
アデリナ嬢がたおやかに微笑んだ。
仕事の上ではもちろんライバルなのでしょうけれど、同じ仕事で絵を描く人間として、アデリナ嬢のあの独特の配色は、気になるところでしょうからね。
アデリナ嬢はアデリナブルーを基調に、何色も色を塗り重ねては刷いて、複雑なグラデーションを生み出す描き方だった。
「果実の赤が単色ではないように、空の青さも一色ではないんですよね。」
それはそれはとても丁寧に、空と雲だけに時間をかけてゆく。後ろで眺める私たちは、ただただ、ため息を漏らしたのだった。
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エアニーさんが思わせぶりにクスリと笑うと、私のことをじっと見つめてくる。
「あの……、なにか……?」
私に向けられた視線に戸惑って尋ねる。
「ついにあの店に女性を連れて行ったのね。一緒に家具を選びたい方が出来るまでは、女性と行くつもりはないと言っていたのよ?
あなた、ずいぶんと特別なのね。」
「──!?」
私はその言葉に真っ赤になってしまい、後ろにいるフィッツェンハーゲン侯爵令息を振り返れなくなってしまった。
「──?どうかなさいましたか?」
いつまでも戻って来ない私に、フィッツェンハーゲン侯爵令息がこちらに近寄ってきて私の顔を覗き込む。
「……この方に何か言ったのかい?」
「あら、別に何も悪いことは言ってはいないわ。ただ、素敵な方ねと思っただけよ。」
訝しむフィッツェンハーゲン侯爵令息に、エアニーさんが両手のひらを上に向けて肩をすくめてみせた。本当ですか?と尋ねるフィッツェンハーゲン侯爵令息に、私は、少しお話ししていただけですとしか言えなかった。
「本当に素敵なお店ですね、外装も内装も商品のデザインも、どれも心惹かれますし、何より店員の方が素晴らしいです。お隣の家具屋といい、フィッツェンハーゲン侯爵令息はこんなお店をたくさんご存知なのですね。」
「……ここは私の店なんですけどね。」
フィッツェンハーゲン侯爵令息は、そう言ってイタズラっぽく笑ったのだった。
「──そうなのですか!?
……申し訳ありません。大きな声を出してしまいました。」
はしたなかったわ。少女のようにはしゃいだ気分で店内を回っていたのが良くなかったのよ。フィッツェンハーゲン侯爵令息に、学生時代の友人相手のような接し方をしてしまうだなんて。私は恥ずかしくなって、両手で口元をおさえた。
「いえ、構いませんよ、他にお客様もいらっしゃらないことですしね。」
そう言ってフィッツェンハーゲン侯爵令息は柔らかく微笑んで下さった。
休憩で少し出ていただけなので、このまま店に残りますと言うフィッツェンハーゲン侯爵令息に別れを告げて、私はほてる頬をおさえながら、ロイエンタール伯爵家に戻る馬車に揺られたのだった。
次の日、私はバルテル侯爵家主催の写生大会に参加していた。お誘いを受けてからというもの、とても楽しみにしていたのよね!
アデリナ嬢もいらしているし、新しく絵を描く仲間がたくさん出来るということもそうだけれど、王立図書館で絵を描いて思ったことだけど、外で絵を描くのは、とても自由でのびやかな気持ちになれて素敵だわ。
上級貴族婦人たちがたくさん集まる社交の場ということもあり、イザークも気持ちよく私を送り出してくれたしね。
椅子やイーゼルを各自持ち込むということで、皆さんそれぞれ2人以上の従者と、荷物を運ぶ馬車を連れて来ている。私も侍従長が前回のメイドの他にもう一人と、荷運び用の馬車を付けてくれたので、用意されたイーゼルの前の椅子に座って絵を描き始めた。
「良いお天気になりましたね。」
「ええ。本当に良かったですわ。」
絵を習い始めたという御婦人方は、当然売れっ子魔法絵師である、アデリナ嬢とはくらべるべくもなかったけれど、まだ見せられるようなものではありませんのよ、と口々に言いながらも、それぞれ楽しそうに絵を描いていていて、私も気が楽に絵を描けた。
今日はバルテル侯爵夫人がパトロンをしているヴィリも来ていて、講師としてみんなにアドバイスをしてくれていたから、みんなはそれも楽しみにしていたようだった。
日頃絵師について習っているとはいえ、現役の人気絵師に教えていただける機会はそうはないものね。ヴィリは独自にやっている手法なんかも気さくに教えてくれていた。
私もヴィリに植物の生き生きとした艶の出し方を教えて貰って、それを再現出来た時はとても嬉しかった。私を含め、みんな魔石の粉末入りの絵の具を使っている。当然アデリナ・ブルーを全員が持っていた。
それを見たアデリナ嬢が、私の空の描き方をお教え致しましょうか?と言って下さったので、全員一気に色めき立った。
「あの……、僕も見せていただいても?」
と、ヴィリがおずおずと声をかける。
「もちろんですわ?どうぞ?」
アデリナ嬢がたおやかに微笑んだ。
仕事の上ではもちろんライバルなのでしょうけれど、同じ仕事で絵を描く人間として、アデリナ嬢のあの独特の配色は、気になるところでしょうからね。
アデリナ嬢はアデリナブルーを基調に、何色も色を塗り重ねては刷いて、複雑なグラデーションを生み出す描き方だった。
「果実の赤が単色ではないように、空の青さも一色ではないんですよね。」
それはそれはとても丁寧に、空と雲だけに時間をかけてゆく。後ろで眺める私たちは、ただただ、ため息を漏らしたのだった。
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