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第22話 勘違いじゃなければ……②

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「結婚したいお相手が出来たとしても、もしもその方が貴族であった場合、結婚の許可を得るのは、まあ難しいでしょうからね。」
「どなたか、心にとめている方がいらっしゃるのですか?その方が貴族のご令嬢ということですか?」
「……気になる方は、1人、いらっしゃいますよ。」

「まあ。それは皆さんお知りになられたら悲しみますわね。令嬢も御婦人方も、フィッツェンハーゲン侯爵令息の配偶者になられる方が、どんな方であるのか、気になって仕方がない筈ですわ。きっと素敵な方なのでしょうね。いつか紹介して下さいましね。」
「──あなたは?」

「え?」
「あなたは、どうですか?
 気になりますか?
 ──私がどなたを、好きなのか。」
「え?ええ、まあ。」
 フィッツェンハーゲン侯爵令息が、流し目でじっと見つめてくるものだから、なんだかドギマギしてしまう。

「ロイエンタール伯爵夫人は、どんなお相手なら、私に合うと思いますか?」
 フィッツェンハーゲン侯爵令息が、ふっと微笑みながらたずねてくる。
「そうですね。どんな方でも、フィッツェンハーゲン侯爵令息が心から素敵な方だと思われれば、それが一番合うのではないでしょうか。夫となる方に爵位がないことを、気にするご令嬢ばかりではないと思いますわ。」

「ロイエンタール伯爵夫人もそうですか?」
「……私は、毎日私との会話を楽しんで下さる方であるのなら、爵位なんてものはないほうがいいくらいです。 
 正直、近々夫とは離婚して自立の道を選ぶつもりなのです。そうなったら、今度はそんな他愛もない会話を楽しめる方と、出会えたら嬉しいと思っています。」

「──離婚?……それで家具を?」
「ええ。実は……。」
 それを聞いたフィッツェンハーゲン侯爵令息は、顎に手をあてて何やら明後日の方向を向いて思案をし始めた。話の流れとはいえ、あまり親しくもない方に聞かせるような話ではなかったわね。急に重たい話をしてしまったわ。せっかくこんな素敵なお店につれて来て下さったのに。

「すみません、忘れて下さい。」
「──なぜですか?」
「その……。こんな楽しい場所でするような話でもありませんし、まだお会いして2度目の方にお話しするようなことでもありませんでしたので。」
「そうですね。まだ2回目でしたね。」
「はい……。」

「私たちは、もう少しお互いを知る時間が必要だとは思いませんか?」
「え?」
「──少なくとも私は今、あなたのことをもっとよく知りたいと思っているのですが、あなたはどうですか?」
「それは、その、どういう……。」

「今私が最も知りたいことは、あなたがロイエンタール伯爵夫人でなくなったあとに、爵位も何もない男に結婚を申し込まれた場合、どのようにお感じになられるのかということです。」
 フィッツェンハーゲン侯爵令息が、またたきもせずに、目の奥をじっと見つめてくる。
 ……なんと答えるのが正解なの?

 私が困っていると、少し急ぎ過ぎてしまいましたね。家具を見て回りましょうか、と、優しい笑顔で言ってくれた。
 私は隣に立って、家具の説明をしてくれながら歩く、フィッツェンハーゲン侯爵令息のことが気になって、会話があまり頭に入って来なかったのだった。

「──よろしければ、隣の店も見てみませんか?化粧品店なのですが。」
 一通り家具を見終わったあとで、店の外に出た時に、フィッツェンハーゲン侯爵令息がそう提案してくれる。
「ぜひ、拝見したいですわ!」
 私は思わずそう答えた。

 実はここに入る前からずっと気になっていたのよね。可愛らしい外観の建物で、なんのお店なのか気になっていたのよ。
 化粧品店だったのね、どうりで女性が好む外観なわけだわ。柱が黒で、レンガと木で出来たつくりで、正面の半分がまっ青で、大半が白の塗りの壁に、青い壁の部分の金色の窓枠が、遠くからでもとてもよく目立つ。

 おまけに店の周囲だけじゃなく、白い壁の部分に植物を植えているだなんて。なんて斬新なデザインなのかしら!今までこんな外観のお店は見たことがないわ。とても可愛い!
 店の外観といえば、木の色かレンガの色だけで、まれに塗りの壁の店もあるけれど、白かクリーム色に限定されていて、置いている花が彩りに差をつける程度なのに。

 お店の外観を担当した業者の方は、ずいぶんと前衛的な考えをお持ちの方のようね。
 中に入ると、中もとても素敵だった。カウンターがあって、お化粧を試したり、商品をゆっくり選ぶ為なのか、黒いテーブルの前に黒い足の椅子が何脚か置かれている。
 内装の壁も、青と白と金色に塗り分けられていて、柱が黒で統一されていた。

「気にいっていただけましたか?」
「はい、とても!」
 私はさっそく化粧品を見て回った。手に取りやすいように、棚に陳列されているものもあるというのが、貴族にも平民にも手に取りやすくていいのではないかしら、と思えた。 

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