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第15話 未来からの助け②

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 私は魔塔の馬車でロイエンタール伯爵邸に戻る道中、ずっとフワフワした気分だった。
 私の描いた壁掛け時計の絵にかけられた魔法が、判定──魔法の再現性確認、及び術式把握の実験をするらしい──で効果を実証されたなら、新たな魔法の使用権利を毎月支払って貰えるのだという。大勢の人たちに公開する代わりに、使用権を徴収する。これも大切な魔塔の仕事の1つなのだそうだ。

 私、これで自立出来るんだわ……。
 そう思うと、喜びが溢れて止まらない。
 私はウキウキとロイエンタール伯爵邸に戻ると、メイクを落として貰うと新しい絵にとりかかり、お風呂に入ってメイドにタップリ磨いて貰ってから、久しぶりに穏やかな気持ちで就寝したのだった。

 次の日、私は工房長に会いに、工房に向かうことにした。近くなのだし、ついでにアンにも会いたいわね。私が家を出るかも知れないことも報告しなくちゃ。もしも引っ越すのであれば、アンの近くに住めないかしら?まったくの知り合いのいない土地はさすがに寂しいものね。ついでに家も探してみよう。

 ロイエンタール伯爵家の馬車で工房につくと、絵の具の代金の支払いの為にまいったのですが、工房長を呼んでいただけますか?とカウンターの従業員に頼んだ。
 しばらくすると奥から工房長がやって来てくれた。あの日のままの穏やかで優しい笑顔が、私を見るなり目を細めてこちらを見た。

 家族以外でこんなにも優しい目で見てくださる方なんて、アンとアンの母親以来だわ。
 お試し絵画教室で出会ったミリアムさんもとても優しい親しみを感じる笑顔の方だけれど、工房長の眼差しはなんというか、孫を心配する祖父のようというか、初めて出会った人という印象をはじめから持たなかった。

 間違いなく初対面の筈なのに、なぜこんなにも優しい目で見てくれるのだろうか?
 もちろん嫌な気持ちなどする筈もない。むしろとても会いたかった人に会えたような、そんな気持ちがしてホッとするのを感じる。
「お久しぶりです。ようやくお会いできましたね。いらしていただけてとても嬉しいですよ。あれから絵の方はいかがですか?」

「はい。楽しく毎日絵を描いております。
 それと私の描いた絵が、魔法絵として魔塔に認められることになりました。……全部、私に絵の具を貸して下さった、工房長のおかげです。私の絵が魔法絵だと、ひょっとしてはじめから気付かれていたのですか?」

 私はかねてからの疑問を工房長にぶつけてみた。なぜ私にあんなにも、絵を描くことをすすめてくれたのかが、不思議だったから。
「……ひとつは、あなたの絵がとても気に入ったからです。きちんと習った人には出せない色使いや構図、描いている人の心がにじみ出ているかのような優しい線に、この人にはもっと絵を楽しんで欲しいと思いました。」

 そんな風に思って下さっていたなんて。私のような拙い絵でも、工房長のように絵を見慣れた人には、そんなことまで分かってしまうのね。それはとても嬉しい言葉だった。
「──それと、それとは反対に、あなたの目がとても寂しそうでいらしたから、でしょうか。どこか救いを求めているかのような。」
 工房長の言葉にドキリとする。

「絵は人の心をなぐさめてくれるものです。
 ……あなたには絵が必要だと、私は勝手に思ってしまいました。だからどうしても、あなたに絵を描いて欲しかったのです。」
 魔石の粉末入りをお渡ししたのは、魔法絵を描くことが出来ると感じたからですけれどね、と言った。どこか孫を心配する祖父のような、工房長の眼差しの理由が分かった。

「……そうだったのですね……。
 でも、その通りです。私は救いを求めていました。そして工房長の目論見通り、私は絵に救って貰うことが出来ました。
 ──もしも私の絵が魔法絵でなかったとしても、私は一生絵を描き続けたと思います。あの日私に絵の具を貸して下さって、本当にありがとうございました。」

 私は改めて工房長にお礼を言うと、いつかお金をためてすべての絵の具を買い取らせて貰うつもりだということ、今お借りしている分は買い取らせていただきたいと話した。
 工房長は笑顔でお金を受け取ったあとで、
「──今日は何をお持ちになりますか?」
 と、魔石の粉末入りの絵の具の入った、木箱の蓋を開けて見せてくれた。私が買った分の絵の具の場所がぽっかりあいている。

 私は新たに描いていた絵を4つ、袋から取り出して工房長にお見せした。絵を見せたら貸してくれるという約束だったものね。
 だいぶ楽しんで描いているのが伝わってきますね。それにこの短期間で技術もだいぶ向上しておいでだ、と微笑んでくれた。工房長は絵の具を5つ貸してくれた。私はついでに絵を持ち運ぶ為の木箱もいくつか購入した。

 帰りは木箱に入れて絵を持ち帰る為だ。キャンバスはさすがに重たいので、代金だけ支払っておいて、後日アンの夫のヨハンに届けて貰えるよう頼んで欲しいとお願いした。
 工房長もヨハンの野菜を購入していて、日頃から付き合いがあるらしく、ああ、ヨハンさんね、とすぐにうなずいてくれた。

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