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第14話 王弟の子息の魔塔の賢者②

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 やったわ!やはり私の絵は魔法絵師のスキル持ちと同じものということだった。
 私の魔法絵を買った人は、魔法絵師でなくても召喚魔法を使えるということだ。私の魔法絵なら絵そのものが拙くとも、高値で売れることだろう。私は明るい未来が確定したことに、あふれる喜びが止まらなかった。

「──ところで今日は、他にも描いた絵をお持ちになられたとか?」
「あ、はい。これがその絵です。」
 私は木箱に入れていた、壁掛け時計の絵を木箱から出してウンガー卿に差し出した。
「なんでも時間が巻き戻る魔法だとか。」

「はい、こちらも効果を鑑定していただきたくて持って参りました。」
「かしこまりました、お預かりします。」
 そう言ってウンガー卿は絵を受け取ったのだが、むき出しのまま乱暴に袋におさめたことがちょっと嫌だな、と感じた。

「そこでですね、確認したいのですが、婦人は今後自分の描いたものをお売りになられる予定はありますか?その……商売として。」
「はい、そのつもりですが。」
「でしたら、魔物の絵を描いてみるつもりはありませんか?」
 とウンガー卿が提案してきた。

「──魔物の絵、ですか?」
「はい。今回認められた魔法絵の効果は召喚です。本来の魔法絵のスキル持ちは、魔物を絵に描いて召喚し、使役します。それと同じことが出来る魔法絵師が求められているということです。この国には魔法絵のスキル持ちがいませんので、わざわざ他国より招聘している程なのです。」

「それは聞いたことがありますね。魔法絵師が生まれた際に、魔法絵のスキル持ちと同じことが出来ないと知って、当初はかなりがっかりされたとか……。今でこそ芸術品として認められていますが。」

「ええ、そうなのですよ。あなたが魔物の絵を描いて召喚出来れば、魔法絵のスキル持ちでなくとも、魔物を召喚することが出来る。騎士団はかなり助かるでしょうね。外国から招いた魔法絵のスキル持ちに、大きな顔をされて困っているようですから。」
「そうなんですか?」

「ええ。まだ若い女性なのですがね。乱暴者で困っているそうです。この国には珍しい赤毛の女性なので、見かけたらすぐにわかるかも知れませんね。新しい魔法絵師が誕生するたびに、召喚絵が描ける人間が現れていないか、毎回確認されているのですよ。魔物の召喚絵が描けるとなれば、騎士団、場合によっては国の後ろ盾がつくことでしょう。」

 それは魅力的な誘いだった。なんの後ろ盾もない私からすれば、騎士団、場合によっては国の後ろ盾がつくというのは、離婚に向けて大きなアドバンテージとなるだろう。
「わかりました。どうにかして魔物の絵を描こうと思います。私でお役に立てるのであれば……。」
 ウンガー卿は、うんうんとうなずき、
「それであれば、毎回あなたの絵に、魔塔が保証書類をつける提案をいたします。」

「魔塔が保証書類を?」
「あなたの描く絵が召喚魔法の効果のある絵だという証明書、いわば鑑定書ですね。
 これがあるとないとでは、販売価格が大きく異なることでしょう。」
 確かに、それはそうね。本当なら、今手元にあるこの書類をたくさん欲しいもの。

「そのかわり、あなたの絵が売れた場合は手数料を頂戴いたします。絵が売れる都度発行することになりますから、売れなければ作りません。魔塔も研究費用が必要なので、こうして高値で売れそうな魔法絵を描かれる人には、こういう提案を致しております。
 まあ、売れそうもない方には、保証書なんてつけても意味がありませんからね。」

「そういうことでしたら、ぜひお願い致しますわ。私は魔法絵師として自立したいと思っているのです。」
「ではこちらの契約書をよくお読みくださった上でサインをお願い致します。契約魔法専用のインクを使用しておりますので、ご注意下さいね。必ずよくお読み下さい……。」

 そう言ってウンガー卿が手渡した契約書を読み込んだ。書類にはかなり細かい取り決めがあった。保証書類作成の手数料は売却価格の5%、作成には8日かかる為、それ以前に絵の売却価格を受け取らないこと、保証書類をつけない場合はその限りではないこと。

 保証書類の受け渡しは、絵の作成者、または代理人として保証された者が直接魔塔に受け取りに来ること、絵の作成者が魔塔に出入りする為の魔道具は無償で作成するが、代理人用が必要になる場合は、有償で別途作成を受け付ける、などが書かれていた。

 特にこちらに不利な内容は書かれていないようね。私は契約魔法用のペンをウンガー卿から受け取ると、名前のところに私のサインをしようとした。──次の瞬間、誰かにペンを持った私の右手首が掴まれた。
「そこまでだ。──ウンガー。」

 私の隣でソファーに腰掛けている金髪の男性は、女性職員やウンガー卿と同じ服装ながら、腕についている腕輪型の魔道具の魔石の色が違っていた。そしてなぜか右手に日付のみのカレンダーの絵を持っている。
「ファルケンベルク!!なぜここに!?
 明日まで出張の筈では!?」 

 ウンガー卿が慌ててソファーから立ち上がる。──ファルケンベルクですって!?
 それはこの国の王の名だ。魔塔には王弟の息子であるフェルディナンド・フォン・ファルケンベルク様が勤めていると伺っている。
 つまりこの方が王弟のご子息であらせられる、フェルディナンド様なの!?

「私は君の上司であり、かつ父は公爵でもある。──君が呼び捨てをしていい立場の人間ではないということは分かるな?」
 フェルディナンド様は冷たくウンガー卿を睨むと、
「その絵を渡せ。」
 と言った。

 ウンガー卿は腕輪の魔石を押すと、一瞬姿が目の前から消え──痛っ!!という言葉とともに、空中に再び現れて床に墜落した。
「私の魔道具は魔法阻害が使えることを忘れたのか。外から中に入るのは難しくとも、中から外に出ることは簡単、そう思っているのであれば大間違いだと言わせて貰おう。」
 一体何が起こったの!?

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