養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!(続く)
陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中
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第7話 専属従者がいない理由①
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私は再びウキウキとした気持ちで、クローゼットから画材一式を取り出すと、新しい絵を描き始めることにした。
描くのはただの絵なんかじゃない。
私の明るい未来なんだ!
まだ確約されたわけじゃないけれど、自立という目標に向かって、私は全力で絵に取り組んだのだった。
残り3枚の絵を1日かけて描きあげると、私はようやくベッドメイクして貰えたベッドで、心地よい眠りについたのだった。
翌朝、朝食の席で、私はイザークに外出したいことを告げた。
「新しいキャンバスを購入しに行きたいのですが、出かけてもよろしいでしょうか?」
そう言うと、イザークは少し驚いたような表情を見せた。
「──もう描き終わったのか?」
「お試しで、とても小さなキャンバスだったので、完成してしまって。筆がのっているので、新しいのが欲しいと思っております。」
「今日はそれでも構わないが、あまり伯爵夫人が一人で直接買いに行くのはどうもな。出入りの商人を新しく見繕ってやろう。」
「ありがとうございます。」
私は一応お礼を言ったが、内心迷惑だなと感じていた。アンがいなくなってからというもの、私専属の従者を付けられないのをいいことに、自由に工房に出入り出来たのに。
そもそもアンは既にいないというのに、何故私に新しい従者や護衛をつけようとはしないのか?私はイザークは今の今まで、私の身の回りの世話を、家令が誰かに頼んでいるだろうと思い込んでいるのだ、と思っていた。
家令はイザークに指示されない限り、そんなことはしないから、専属従者なり護衛がつかないものなのだと思っていたから。
だけど、アンがいないことで、私には専属の従者がいなくて、元々護衛がいないから、私が外出時は1人で行動を余儀なくされていることを、イザークは把握していたのだ。
専属の従者の給与は当然通常のメイドよりも高いものだ。なぜなら常に近くにいて、緊急時には24時間対応することもあるから。
もちろん契約書の問題と本人の了承も必要だから、今いるメイドたちのいずれかに、専属になれと命令すれば済むという話ではないけれど、やりたい人間を募って契約書を書き換えるか、新しく人を雇えば済む話なのだ。
私がイザークを伴わない社交に、従者も従えずに参加したりしようものなら、他の貴族たちにヒソヒソ噂されることになるのに。
……ああ、そうか。私が社交をしないからだわ。人前に出ることがないのだから、従者も必要ないというわけね。日頃の世話係を増やす目的だけで、私の為に余計な人件費をこれ以上使いたくないということ。
ごくたまにのお茶会参加程度のことであれば、その都度今いるメイドをつければいい。
そうなると、メイドがお茶会に参加している貴族たちの顔と名前を覚えることが出来ないし、気が回らないことになるけれど、新人だからということにでもしてしまえばいい。
……本当に大切にされていないのね、私。
今更のことだけれど、イザークに対するモヤモヤとした感情がつのるばかりだった。
それに毎回工房長に描きあげた絵を見せる約束なのに、これでは今後工房に行かれないではないか。私の絵を工房長が気に入ってくれた場合は、新しい色の絵の具を貸して貰えることになっている。いずれはすべて買い取るつもりでいるけれど、魔石の粉末入りの絵の具は高級品だ。
今は使ってみたい色を試すには、工房長の言葉に甘えるしかないというのに。
確かに今ある色の絵の具を混ぜても他の色は作れるが、あくまでも単純な色調表現としての色で、むしろ他の色と混ぜることで、アデリナブルーは輝きが死ぬこともある。
魔石独自の発色は、どうしても本来の色の絵の具を手に入れないと出すことが出来ないのだ。あの朝露で輝いた若葉のような緑色なんて、魔石の粉末入りの絵の具にしか出せないものだ。他のどんな工房の絵の具にも、出すことの出来ない色。
単純に絵の具の発色の美しさでも、魔石の粉末入りの絵の具は人気なのだ。
私は内心、どうにかして今後も工房に行く方法を考えたが、基本的にイザークが一度駄目だと言ったものをひるがえすことはない。私は絶望的な気分だった。
……。そうだわ!!
「……でしたら、アンの夫のヨハンに頼んでもよろしいでしょうか?」
「──ヨハンに?」
「はい、私が現在使用しております画材は、もともと私がアンの家に出産祝いに向かった際に、アンの知人より借り受けたものになるのです。ヨハンを介せば新しい画材を1つ2つ手に入れるくらい容易いかと。」
「なるほどな。そういうことならヨハンに頼むのがいいだろう。」
ヨハンはもともとロイエンタール伯爵家の出入り商人である小売業者兼農家なのだ。
新しい商人を探すよりも、出入り商人であるヨハンに、私やメイドがちょっとしたお使いを頼むのはいつものことだし、その方が話が早くて何より自然だ。
私がどんな目的でヨハンに頼むつもりだとしても、イザークがそれを知ることはない。
ロイエンタール伯爵は、妻やメイドを介さずに、直接出入りの商人と口をきくことはないのだから。アンの夫であるヨハンとは、日頃からアンの様子を聞いたりして、私が伯爵家で会話をする数少ない人物だ。
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描くのはただの絵なんかじゃない。
私の明るい未来なんだ!
まだ確約されたわけじゃないけれど、自立という目標に向かって、私は全力で絵に取り組んだのだった。
残り3枚の絵を1日かけて描きあげると、私はようやくベッドメイクして貰えたベッドで、心地よい眠りについたのだった。
翌朝、朝食の席で、私はイザークに外出したいことを告げた。
「新しいキャンバスを購入しに行きたいのですが、出かけてもよろしいでしょうか?」
そう言うと、イザークは少し驚いたような表情を見せた。
「──もう描き終わったのか?」
「お試しで、とても小さなキャンバスだったので、完成してしまって。筆がのっているので、新しいのが欲しいと思っております。」
「今日はそれでも構わないが、あまり伯爵夫人が一人で直接買いに行くのはどうもな。出入りの商人を新しく見繕ってやろう。」
「ありがとうございます。」
私は一応お礼を言ったが、内心迷惑だなと感じていた。アンがいなくなってからというもの、私専属の従者を付けられないのをいいことに、自由に工房に出入り出来たのに。
そもそもアンは既にいないというのに、何故私に新しい従者や護衛をつけようとはしないのか?私はイザークは今の今まで、私の身の回りの世話を、家令が誰かに頼んでいるだろうと思い込んでいるのだ、と思っていた。
家令はイザークに指示されない限り、そんなことはしないから、専属従者なり護衛がつかないものなのだと思っていたから。
だけど、アンがいないことで、私には専属の従者がいなくて、元々護衛がいないから、私が外出時は1人で行動を余儀なくされていることを、イザークは把握していたのだ。
専属の従者の給与は当然通常のメイドよりも高いものだ。なぜなら常に近くにいて、緊急時には24時間対応することもあるから。
もちろん契約書の問題と本人の了承も必要だから、今いるメイドたちのいずれかに、専属になれと命令すれば済むという話ではないけれど、やりたい人間を募って契約書を書き換えるか、新しく人を雇えば済む話なのだ。
私がイザークを伴わない社交に、従者も従えずに参加したりしようものなら、他の貴族たちにヒソヒソ噂されることになるのに。
……ああ、そうか。私が社交をしないからだわ。人前に出ることがないのだから、従者も必要ないというわけね。日頃の世話係を増やす目的だけで、私の為に余計な人件費をこれ以上使いたくないということ。
ごくたまにのお茶会参加程度のことであれば、その都度今いるメイドをつければいい。
そうなると、メイドがお茶会に参加している貴族たちの顔と名前を覚えることが出来ないし、気が回らないことになるけれど、新人だからということにでもしてしまえばいい。
……本当に大切にされていないのね、私。
今更のことだけれど、イザークに対するモヤモヤとした感情がつのるばかりだった。
それに毎回工房長に描きあげた絵を見せる約束なのに、これでは今後工房に行かれないではないか。私の絵を工房長が気に入ってくれた場合は、新しい色の絵の具を貸して貰えることになっている。いずれはすべて買い取るつもりでいるけれど、魔石の粉末入りの絵の具は高級品だ。
今は使ってみたい色を試すには、工房長の言葉に甘えるしかないというのに。
確かに今ある色の絵の具を混ぜても他の色は作れるが、あくまでも単純な色調表現としての色で、むしろ他の色と混ぜることで、アデリナブルーは輝きが死ぬこともある。
魔石独自の発色は、どうしても本来の色の絵の具を手に入れないと出すことが出来ないのだ。あの朝露で輝いた若葉のような緑色なんて、魔石の粉末入りの絵の具にしか出せないものだ。他のどんな工房の絵の具にも、出すことの出来ない色。
単純に絵の具の発色の美しさでも、魔石の粉末入りの絵の具は人気なのだ。
私は内心、どうにかして今後も工房に行く方法を考えたが、基本的にイザークが一度駄目だと言ったものをひるがえすことはない。私は絶望的な気分だった。
……。そうだわ!!
「……でしたら、アンの夫のヨハンに頼んでもよろしいでしょうか?」
「──ヨハンに?」
「はい、私が現在使用しております画材は、もともと私がアンの家に出産祝いに向かった際に、アンの知人より借り受けたものになるのです。ヨハンを介せば新しい画材を1つ2つ手に入れるくらい容易いかと。」
「なるほどな。そういうことならヨハンに頼むのがいいだろう。」
ヨハンはもともとロイエンタール伯爵家の出入り商人である小売業者兼農家なのだ。
新しい商人を探すよりも、出入り商人であるヨハンに、私やメイドがちょっとしたお使いを頼むのはいつものことだし、その方が話が早くて何より自然だ。
私がどんな目的でヨハンに頼むつもりだとしても、イザークがそれを知ることはない。
ロイエンタール伯爵は、妻やメイドを介さずに、直接出入りの商人と口をきくことはないのだから。アンの夫であるヨハンとは、日頃からアンの様子を聞いたりして、私が伯爵家で会話をする数少ない人物だ。
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