養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!(続く)
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
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第3話 お試し絵画教室②
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とミリアムさんがニッコリと微笑む。私もアンも嬉しくなってしまい、つられてニッコリと微笑んだ。久しぶりに穏やかで優しい時間を過ごせている気持ちになった。
お試しだから、他の人たちも使っている、使いかけの絵の具なのだけれど、やはりというか、アデリナブルーが1番たくさん使われていて、かなり少なくなっていた。みんなとりあえず使ってみたいのだろう。
本当はザジーの背景は彫像と壁だけれど、私は背景に空をイメージして、アデリナブルーをキャンバスに乗せた。
その瞬間、世界がブワッと開けたような気がした。私の周囲を空に覆い尽くされるような、そんな感覚が体を包み込む。
私は夢中で次々と色をキャンバスに乗せていった。置いた色を乾いたきれいな筆で刷くのが絵の描き方らしい。
愛らしい子猫が陽だまりの中でうたた寝をしている。曖昧でぼやけた線は、だけれど子猫の柔かそうな毛皮を表現するかのように、フワリとキャンバスの上に広がった。
アデリナ・アーベレのような写実的な絵は私には無理だった。それでもちゃんと子猫と分かる絵が描けたことに、私はいたく満足すると、輝いた眼差しで自分の絵を見つめた。
「──絵は、楽しいですか?」
突然背後から男性の優しい声がする。
「工房長!」
ミリアムさんの声に振り返って後ろを見上げると、ミリアムさんと同じ制服を着た、私の祖父くらいの年齢の白髪交じりの男性が、優しい眼差しでこちらを見下ろしていた。
「……あ、はい。
楽しいです。とても……。」
私の言葉に工房長と呼ばれた男性は、うんうんと嬉しそうにうなずいた。
「あなたは以前、特別に絵を習ったことはおありですか?」
工房長が私にたずねてくる。
「いえ……。特には……。」
初対面の人に気さくに話しかけられることに慣れていない私は、そのことにとてもまごついてしまい、うまく言葉が返せなかった。
普段社交らしい社交をしたことのない私のおぼつかない態度を見て、仕立てのよい服を着ているとは思っても、まさか貴族だとは思っていないのだろう。
貴族同士ですら、名乗られもしないのに自分より上の立場の人間相手に、自分から話しかけるなんてことはご法度だ。ましてや平民のほうから話しかけるなど、無礼扱いされて処分されかねない事柄だからだ。
私は気にしなかったけれど、そばで見ていたアンがハラハラしながら心配そうに見つめている。従者がいたら大変だったわね。
「とても興味深い絵を描かれますね。」
「……ありがとうございます。」
「いかがですか?こちらでは工房だけでなく絵画教室もやっております。今はあまり空きはないのですが、もし通われるおつもりでしたら、枠をお取りいたしますよ?」
工房長がそう言って私に微笑んだ。
ああ。勧誘の為に褒めてくれていたのね。
絵画教室に通うとなると、当然この店で画材を購入することになるわ。絵画教室のお金と画材費用で2重に儲けようという魂胆なのね。初めて描いた絵を褒められれば、嬉しくて教室に通い出す人も多いことでしょうね。
……私のほうにだけ声をかけたのは、私の服装だけが仕立てがよいからなのだわ。
ここの絵画教室の費用がいくらなのかは分からないけれど、アデリナブルーを唯一作り出す工房だもの。アデリナ・アーベレの名声も相まって、多少お高くても通おうとする貴族や商人もたくさんいることだろう。
「せっかくですけれど、夫に聞いてみませんとなんとも……。ごめんなさい。」
私の自由になるお金は少ない。とてもそんなお高い絵画教室に通うなんて無理だろう。
ましてや習い事にさくお金なんてものを、イザークが許してくれるとは思えない。
お金にならないことに、価値を見い出せない人なのだから。
この頃の私は、まわりの誰もが敵に見えていた。強くなれない自分すらも責めて、心がすさんでいたように思う。
だから慈愛の微笑みをたたえた工房長の言葉ですらも、素直に受け取ることが出来なかった。そんな人間不信丸出しの私に、彼は思ってもみない提案をしてきたのだ。
「……そうでしたか、それは残念です。
それであれば、よろしければ、こちらの画廊にこの絵を飾らせていただけませんか?」
「え?」
私は工房長の申し出の意図が分からず、思わずキョトンとして工房長の顔を見上げた。
「ああ、もちろん、教室に参加された記念にお持ち帰りになられてもよろしいのですが、もしも引き取らせていただけるのであれば、お礼にこの絵の具をいくつかと、筆のセットと、小さいキャンバスをいつくか差し上げましょう。」
そう言って工房長は教室の隅に置いてあった、絵の具と筆の入った木の箱と、小さな真っ白いキャンバスを5つ、それと小さなイーゼルを私に差し出して来た。
おそらくは予備か、ううん、わざわざ木箱にキレイに揃えられて入っていたから、気に入って購入したい人の為のものだろう。
36色の色とりどりの美しい絵の具たち。アデリナブルーも当然入っていた。魔石の粉末入りの絵の具だから、当然1つ1つがとてもお高い筈だ。それが36色もですって!?
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お試しだから、他の人たちも使っている、使いかけの絵の具なのだけれど、やはりというか、アデリナブルーが1番たくさん使われていて、かなり少なくなっていた。みんなとりあえず使ってみたいのだろう。
本当はザジーの背景は彫像と壁だけれど、私は背景に空をイメージして、アデリナブルーをキャンバスに乗せた。
その瞬間、世界がブワッと開けたような気がした。私の周囲を空に覆い尽くされるような、そんな感覚が体を包み込む。
私は夢中で次々と色をキャンバスに乗せていった。置いた色を乾いたきれいな筆で刷くのが絵の描き方らしい。
愛らしい子猫が陽だまりの中でうたた寝をしている。曖昧でぼやけた線は、だけれど子猫の柔かそうな毛皮を表現するかのように、フワリとキャンバスの上に広がった。
アデリナ・アーベレのような写実的な絵は私には無理だった。それでもちゃんと子猫と分かる絵が描けたことに、私はいたく満足すると、輝いた眼差しで自分の絵を見つめた。
「──絵は、楽しいですか?」
突然背後から男性の優しい声がする。
「工房長!」
ミリアムさんの声に振り返って後ろを見上げると、ミリアムさんと同じ制服を着た、私の祖父くらいの年齢の白髪交じりの男性が、優しい眼差しでこちらを見下ろしていた。
「……あ、はい。
楽しいです。とても……。」
私の言葉に工房長と呼ばれた男性は、うんうんと嬉しそうにうなずいた。
「あなたは以前、特別に絵を習ったことはおありですか?」
工房長が私にたずねてくる。
「いえ……。特には……。」
初対面の人に気さくに話しかけられることに慣れていない私は、そのことにとてもまごついてしまい、うまく言葉が返せなかった。
普段社交らしい社交をしたことのない私のおぼつかない態度を見て、仕立てのよい服を着ているとは思っても、まさか貴族だとは思っていないのだろう。
貴族同士ですら、名乗られもしないのに自分より上の立場の人間相手に、自分から話しかけるなんてことはご法度だ。ましてや平民のほうから話しかけるなど、無礼扱いされて処分されかねない事柄だからだ。
私は気にしなかったけれど、そばで見ていたアンがハラハラしながら心配そうに見つめている。従者がいたら大変だったわね。
「とても興味深い絵を描かれますね。」
「……ありがとうございます。」
「いかがですか?こちらでは工房だけでなく絵画教室もやっております。今はあまり空きはないのですが、もし通われるおつもりでしたら、枠をお取りいたしますよ?」
工房長がそう言って私に微笑んだ。
ああ。勧誘の為に褒めてくれていたのね。
絵画教室に通うとなると、当然この店で画材を購入することになるわ。絵画教室のお金と画材費用で2重に儲けようという魂胆なのね。初めて描いた絵を褒められれば、嬉しくて教室に通い出す人も多いことでしょうね。
……私のほうにだけ声をかけたのは、私の服装だけが仕立てがよいからなのだわ。
ここの絵画教室の費用がいくらなのかは分からないけれど、アデリナブルーを唯一作り出す工房だもの。アデリナ・アーベレの名声も相まって、多少お高くても通おうとする貴族や商人もたくさんいることだろう。
「せっかくですけれど、夫に聞いてみませんとなんとも……。ごめんなさい。」
私の自由になるお金は少ない。とてもそんなお高い絵画教室に通うなんて無理だろう。
ましてや習い事にさくお金なんてものを、イザークが許してくれるとは思えない。
お金にならないことに、価値を見い出せない人なのだから。
この頃の私は、まわりの誰もが敵に見えていた。強くなれない自分すらも責めて、心がすさんでいたように思う。
だから慈愛の微笑みをたたえた工房長の言葉ですらも、素直に受け取ることが出来なかった。そんな人間不信丸出しの私に、彼は思ってもみない提案をしてきたのだ。
「……そうでしたか、それは残念です。
それであれば、よろしければ、こちらの画廊にこの絵を飾らせていただけませんか?」
「え?」
私は工房長の申し出の意図が分からず、思わずキョトンとして工房長の顔を見上げた。
「ああ、もちろん、教室に参加された記念にお持ち帰りになられてもよろしいのですが、もしも引き取らせていただけるのであれば、お礼にこの絵の具をいくつかと、筆のセットと、小さいキャンバスをいつくか差し上げましょう。」
そう言って工房長は教室の隅に置いてあった、絵の具と筆の入った木の箱と、小さな真っ白いキャンバスを5つ、それと小さなイーゼルを私に差し出して来た。
おそらくは予備か、ううん、わざわざ木箱にキレイに揃えられて入っていたから、気に入って購入したい人の為のものだろう。
36色の色とりどりの美しい絵の具たち。アデリナブルーも当然入っていた。魔石の粉末入りの絵の具だから、当然1つ1つがとてもお高い筈だ。それが36色もですって!?
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2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)
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