33 / 44
第33話 狙われた聖女
しおりを挟む
護身の為に、王子たちはどちらも鍛えているから、普通の男子生徒よりも力は強い筈だけど、それにしても凄い力……!
「ふん、エーリカには劣る女だが、子どもはたくさん産めそうだ。そんなところも気に入ったのかも知れないな。」
私の腰を撫でながら失礼なことを言ってくる。王族に嫁ぐからには、後継者を産めるかどうかは大切だろうけど、だからって腰を撫でて判断するとか聞いたことないんだけど?
……というか、気持ち悪い!
アドリアン王子のお兄さんとはいえ、いやお兄さんだからこそ、気持ち悪いよ!
弟の妻になる女性の腰を撫でるとか!
トリスタン王太子殿下の左腕が、私の腰をガッチリホールドして、振りほどくことが出来ない。私の手首を掴んでいた右腕が、フッと離れると、私の後頭部を掴んできた。
「正直君のような女に触れるのは本意ではないが、仮にも相思相愛だった婚約者が他の男に汚されれば、さすがに弟も目を覚ますだろう。今大切にすべきなのがどちらなのか。」
「なにを……!離してください!」
「光栄に思うがいい、王太子である私が相手をしてやろうというのだから。」
相手!?相手って!?
「まあ、それで君たちの婚約がそのまま継続されるのかは、私の知ったことではないが。
少なくとも汚れた女が聖女と呼ばれることはないだろうな。」
背筋がゾッとした。この人、ハーネット令嬢の関心を引く為なら、なんだってする気なんだ。だけど今のアドリアン王子が、私に何かされたからって態度が変わる筈もない。
だってハーネット令嬢に操られているも同然なんだから。トリスタン王太子殿下がそうなように、アドリアン王子もおかしくされてしまっているのだから。
私がどんな目にあわされたって……。
そう思って思わず泣きそうになり、グッと唇の内側を噛んでこらえた。
「エーリカも、彼女を取り戻す為だとわかれば、許してくれるだろう。君という偽者が現れたことで、随分と苦しんでいたしな。」
自分に酔っているように独り言を言う。
「知りませんよ、そんなこと言われても。」
「……わかっているのか?君が嘘をついたせいで、父も、母も、弟も、彼女を信じてくれないと、エーリカは泣いていたんだぞ。」
この人はどこまでも、ハーネット令嬢の言うことだけを信じるのね。
「……嘘をついているのは彼女のほうです。
私が本物だわ。」
「まだそんなことを言うのか!やはりエーリカの言った通りだったな。君は一度痛い目を見ないとわからないらしい。」
「……まさかこれも、ハーネット令嬢にそそのかされたんですか?私がハーネット令嬢を苦しめるから、私を傷つけろって?」
「エーリカはそんなことは言わない。
彼女は高潔な人だからな。」
違う。たぶんこの人は誘導されたんだ。他の婚約者の令嬢の時みたいに。
「どうしてわからないんですか!?あなたたちみんな、彼女に騙されてるんですよ!?男の人たちが全員、ハーネット令嬢の肩を持つのがおかしいってわからないんですか!?」
「おかしいのはお前だ!二度とエーリカの前にも弟の前にも出れないようにしてやる!」
そう言って、トリスタン王太子殿下は掴んだ私の後頭部を無理やり引き寄せる。
──キスされる!
貴族の令嬢としては、人に知られなくともそれだけで死を選ぶ人もいるくらい、婚約者以外に触れられるというのは恥ずべき行為。
冗談じゃないわ……!
できる限り頭を後ろに反らして、唇を口内に引っ込めたけど、私に出来る抵抗なんてそんなものだ。駄目……、泣きたくない!
次の瞬間、ドスッと音がして、近くに何かが落ちてきたような衝撃に、私たちのいるベンチの置かれた地面が少し揺れた。上から何か降って来た?少し風を感じた気がする。
「アドリアン王子!」
「なんて危ないことをなさるんですか!
ここは2階ですよ!?」
頭の上から女の子の叫び声が──あれは、エーリカ・ハーネット令嬢?
続いて叫んだ男性の声は恐らく、ルイ・ランベール侯爵令息だ。
だけど、どうして頭の上から?そっか、ここは生徒会室の真下のベンチだ。今、エーリカ・ハーネット令嬢は、生徒会に入っているんだから、この場にいてもおかしくはない。
おかしくはないけど──いやおかしいな。
エミリアとランチをしていた時も、生徒会室にいたアドリアン王子たちに、真下のベンチの声は聞こえても、ベンチにいた私たちに生徒会室の声が聞こえたことなんてない。
だって防音魔法がかかっているのだから、聞こえたらおかしいのだ。それこそ生徒会室の窓から、身を乗り出しでもしない限りは。
「その手を今すぐ離せ、──兄上。」
怒りをにじませたような低い声。動かせない頭で目だけをそちらに向けると、2階の生徒会室の窓から飛び出して来たらしい、アドリアン王子がこちらを睨んでいた。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援を押していただけたら幸いです。
「ふん、エーリカには劣る女だが、子どもはたくさん産めそうだ。そんなところも気に入ったのかも知れないな。」
私の腰を撫でながら失礼なことを言ってくる。王族に嫁ぐからには、後継者を産めるかどうかは大切だろうけど、だからって腰を撫でて判断するとか聞いたことないんだけど?
……というか、気持ち悪い!
アドリアン王子のお兄さんとはいえ、いやお兄さんだからこそ、気持ち悪いよ!
弟の妻になる女性の腰を撫でるとか!
トリスタン王太子殿下の左腕が、私の腰をガッチリホールドして、振りほどくことが出来ない。私の手首を掴んでいた右腕が、フッと離れると、私の後頭部を掴んできた。
「正直君のような女に触れるのは本意ではないが、仮にも相思相愛だった婚約者が他の男に汚されれば、さすがに弟も目を覚ますだろう。今大切にすべきなのがどちらなのか。」
「なにを……!離してください!」
「光栄に思うがいい、王太子である私が相手をしてやろうというのだから。」
相手!?相手って!?
「まあ、それで君たちの婚約がそのまま継続されるのかは、私の知ったことではないが。
少なくとも汚れた女が聖女と呼ばれることはないだろうな。」
背筋がゾッとした。この人、ハーネット令嬢の関心を引く為なら、なんだってする気なんだ。だけど今のアドリアン王子が、私に何かされたからって態度が変わる筈もない。
だってハーネット令嬢に操られているも同然なんだから。トリスタン王太子殿下がそうなように、アドリアン王子もおかしくされてしまっているのだから。
私がどんな目にあわされたって……。
そう思って思わず泣きそうになり、グッと唇の内側を噛んでこらえた。
「エーリカも、彼女を取り戻す為だとわかれば、許してくれるだろう。君という偽者が現れたことで、随分と苦しんでいたしな。」
自分に酔っているように独り言を言う。
「知りませんよ、そんなこと言われても。」
「……わかっているのか?君が嘘をついたせいで、父も、母も、弟も、彼女を信じてくれないと、エーリカは泣いていたんだぞ。」
この人はどこまでも、ハーネット令嬢の言うことだけを信じるのね。
「……嘘をついているのは彼女のほうです。
私が本物だわ。」
「まだそんなことを言うのか!やはりエーリカの言った通りだったな。君は一度痛い目を見ないとわからないらしい。」
「……まさかこれも、ハーネット令嬢にそそのかされたんですか?私がハーネット令嬢を苦しめるから、私を傷つけろって?」
「エーリカはそんなことは言わない。
彼女は高潔な人だからな。」
違う。たぶんこの人は誘導されたんだ。他の婚約者の令嬢の時みたいに。
「どうしてわからないんですか!?あなたたちみんな、彼女に騙されてるんですよ!?男の人たちが全員、ハーネット令嬢の肩を持つのがおかしいってわからないんですか!?」
「おかしいのはお前だ!二度とエーリカの前にも弟の前にも出れないようにしてやる!」
そう言って、トリスタン王太子殿下は掴んだ私の後頭部を無理やり引き寄せる。
──キスされる!
貴族の令嬢としては、人に知られなくともそれだけで死を選ぶ人もいるくらい、婚約者以外に触れられるというのは恥ずべき行為。
冗談じゃないわ……!
できる限り頭を後ろに反らして、唇を口内に引っ込めたけど、私に出来る抵抗なんてそんなものだ。駄目……、泣きたくない!
次の瞬間、ドスッと音がして、近くに何かが落ちてきたような衝撃に、私たちのいるベンチの置かれた地面が少し揺れた。上から何か降って来た?少し風を感じた気がする。
「アドリアン王子!」
「なんて危ないことをなさるんですか!
ここは2階ですよ!?」
頭の上から女の子の叫び声が──あれは、エーリカ・ハーネット令嬢?
続いて叫んだ男性の声は恐らく、ルイ・ランベール侯爵令息だ。
だけど、どうして頭の上から?そっか、ここは生徒会室の真下のベンチだ。今、エーリカ・ハーネット令嬢は、生徒会に入っているんだから、この場にいてもおかしくはない。
おかしくはないけど──いやおかしいな。
エミリアとランチをしていた時も、生徒会室にいたアドリアン王子たちに、真下のベンチの声は聞こえても、ベンチにいた私たちに生徒会室の声が聞こえたことなんてない。
だって防音魔法がかかっているのだから、聞こえたらおかしいのだ。それこそ生徒会室の窓から、身を乗り出しでもしない限りは。
「その手を今すぐ離せ、──兄上。」
怒りをにじませたような低い声。動かせない頭で目だけをそちらに向けると、2階の生徒会室の窓から飛び出して来たらしい、アドリアン王子がこちらを睨んでいた。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援を押していただけたら幸いです。
375
お気に入りに追加
727
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故
ラララキヲ
ファンタジー
ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。
娘の名前はルーニー。
とても可愛い外見をしていた。
彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。
彼女は前世の記憶を持っていたのだ。
そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。
格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。
しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。
乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。
“悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。
怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。
そして物語は動き出した…………──
※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。
※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。
◇テンプレ乙女ゲームの世界。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げる予定です。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
原産地が同じでも結果が違ったお話
よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。
視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
気が付けば悪役令嬢
karon
ファンタジー
交通事故で死んでしまった私、赤ん坊からやり直し、小学校に入学した日に乙女ゲームの悪役令嬢になっていることを自覚する。
あきらかに勘違いのヒロインとヒロインの親友役のモブと二人ヒロインの暴走を抑えようとするが、高校の卒業式の日、とんでもないどんでん返しが。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生ヒロインは乙女ゲームを始めなかった。
よもぎ
ファンタジー
転生ヒロインがマトモな感性してる世界と、シナリオの強制力がある世界を混ぜたらどうなるの?という疑問への自分なりのアンサーです。転生ヒロインに近い視点でお話が進みます。激しい山場はございません。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる