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第27話 変わってしまった婚約者
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後日私の予知夢通りにヨシク山は崩れ、事前にアドリアン王子が手をうったことで、そこに巻き込まれて死ぬ人はいなかった。
私の星読みの聖女としての力を、王さまは高く評価してくれた。だけど奇跡は必ずおこせるものという認識があるせいで、私の不安定な予知にはつけいる隙が多い。
またハーネット令嬢が、嘘の事件を起こして、それを予知として進言し、自分こそが星読みの聖女であると、主張してくるかと思っていたのだけれど、彼女は静かだった。
拍子抜けしたまま、今後の対策についてアドリアン王子と話し合おうと声をかけると、なぜだかとてもそっけなかった。
「すまないが、忙しくてね。」
申し訳なさそうな表情の中の、小さな違和感。私に対する冷ややかな視線。
まるで私でない人を見ているみたいだ。
普段のアドリアン王子なら、甘い目線で見つめてきたり、本当に残念そうにしてくる。
まるで──まるでそう、親戚だから無下には出来ない、興味のない女の子に言い寄られているかのような、そんな感じ。
アイシラ嬢たちと作ったクッキーを渡そうとすると、一瞬眉をひそめられた。
「アドリアン王子!行きましょう!」
そこに笑顔でアドリアン王子の腕に絡みつく、ハーネット令嬢。私は軽く突き飛ばされて、ハンカチに包んだクッキーが散らばる。
アドリアン王子はそれを一瞥したのち、拾ってくれることも、地面にしゃがみ込んだ私に手を貸すこともなく立ち去ってしまった。
「あの方、生徒会に入られたんですってよ。
ミュレールさんたってのお願いだったとか自慢していましたわ。」
「ついにあの方もなの?怖い女……。」
ヒソヒソ話をする女生徒たちのかたわら、私の心臓がドキリとはねる。聞いてない。
ハーネット令嬢を生徒会に誘ったなんて、聞いてない。私に話さない筈がないもの。
ザワザワする。胸がザワザワする。なにが起きているの?私の知らないところで、なにか嫌なものが動き出している気がした。
それからアドリアン王子は私を避けるようになった。一緒のランチも毎日の送り迎えもなくなってしまって、代わりに当然のように彼の横にいるのがハーネット令嬢になった。
日を追うごとに私に冷たくなるアドリアン王子。ハーネット令嬢が横にいないタイミングで、ようやくアドリアン王子を捕まえて、話をしようと声をかけた。
「アドリアン王子!」
「なに?」
アドリアン王子が眉間にシワを寄せる。
こんな表情、初めて会った時だってしなかった。私は心臓を冷たい何かにギュッと掴まれたような気持ちになる。
なんとか声を振り絞り、
「あの……。聞いてません。」
「なにが?」
「ハーネット令嬢が、生徒会に入ることを、です。アドリアン王子がぜひにと誘ったと伺いました。」
「ああ……。そうだけれど、それがなに?
君に言う必要はないよね?」
アドリアン王子が、ハーネット令嬢に向けたことのある目線を私に向ける。
思わずギクッとした。泣かないようにするので精いっぱいだった。なにが……。いったいなにが起きているの……?そしてアドリアン王子は、そのまま立ち去ってしまった。
女生徒たちが、私を哀れなものを見る目で見てくる。他の方たちの婚約者たちも、この目で見られてきたんだ。私は俯いてギュッと拳を握りしめて、痛む胸に押し当てた。
「どうなさったの?ラーバント令嬢……。」
顔を上げると、イェールランド令嬢たちが心配そうに私を見つめていた。
「イェールランド令嬢……。」
我慢していた涙が溢れそうになってくる。
「そう……。ついにあなたもなの……。」
イェールランド令嬢が、そっと私を抱きしめて、優しく背中をさすってくれた。
「ひどい方。本当にひどい方ね……。」
優しいその声に、声を殺して泣いた。
消沈した私は、帰宅後、王妃さまから呼び出しを受けて、翌日王宮に招かれていた。
「かなり落ち込んでいるようね。」
眉を下げた王妃さまは優しく微笑んだ。
「アドリアンの状態は聞き及んでいます。あなたにはこのことは予想外で、とても心配でしょうけど、私はこの結果を読んでいたの。だから打開策はあるから心配しないで。」
「どういうことでしょうか?」
王妃さまの言葉に、私は思わず下げていた目線を、パッと上げて王妃さまを見た。
「アドリアンから聞く限り、あなたは3つのルートしか、夢に見ていないのよね?」
「はい、いつも3つのいずれかについて、夢に見ることが多いです。」
「あなたがそれをやってないのか、思い出せないだけなのかはわからないけど、星姫2には、4つ目のルートが存在するの。」
「4つ目のルート?」
「星姫シリーズには、攻略対象者と結ばれる以外の、ノーマルエンドが存在するのよ。
星姫1は魔道具師。元の世界で言うところの発明家ね。魔道具師として活躍して名を残し、王宮に招かれて、王太子や王さまたちの前で、宮廷専属にしてもらうの。
星姫3は聖女。星読みの聖女として、世界を股にかける活躍をするわ。
──そして星姫2は魔女。
魔女として開花した後で、宮廷魔道士として活躍するのよ。」
「ハーネット令嬢が、それを目指しているということでしょうか?」
彼女は宮廷魔道士になろうとしているの?
「いいえ。当然その過程で手にするものを狙っているんでしょうね。」
「その過程で手にするもの?」
「逆ハーエンドの為には、魔女になることをいったんは目指す必要があるのよ。
魔女になる為には、突発的に現れる、占いの館の魔女に弟子入りする必要があるの。」
「占い師に、弟子入り?」
「星姫2では、攻略対象者に出会える場所やデートスポットに移動すると、そこでランダムに占いの館が現れることがあるのよ。」
占いの館……。この間町で見たやつだ!
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援を押していただけたら幸いです。
私の星読みの聖女としての力を、王さまは高く評価してくれた。だけど奇跡は必ずおこせるものという認識があるせいで、私の不安定な予知にはつけいる隙が多い。
またハーネット令嬢が、嘘の事件を起こして、それを予知として進言し、自分こそが星読みの聖女であると、主張してくるかと思っていたのだけれど、彼女は静かだった。
拍子抜けしたまま、今後の対策についてアドリアン王子と話し合おうと声をかけると、なぜだかとてもそっけなかった。
「すまないが、忙しくてね。」
申し訳なさそうな表情の中の、小さな違和感。私に対する冷ややかな視線。
まるで私でない人を見ているみたいだ。
普段のアドリアン王子なら、甘い目線で見つめてきたり、本当に残念そうにしてくる。
まるで──まるでそう、親戚だから無下には出来ない、興味のない女の子に言い寄られているかのような、そんな感じ。
アイシラ嬢たちと作ったクッキーを渡そうとすると、一瞬眉をひそめられた。
「アドリアン王子!行きましょう!」
そこに笑顔でアドリアン王子の腕に絡みつく、ハーネット令嬢。私は軽く突き飛ばされて、ハンカチに包んだクッキーが散らばる。
アドリアン王子はそれを一瞥したのち、拾ってくれることも、地面にしゃがみ込んだ私に手を貸すこともなく立ち去ってしまった。
「あの方、生徒会に入られたんですってよ。
ミュレールさんたってのお願いだったとか自慢していましたわ。」
「ついにあの方もなの?怖い女……。」
ヒソヒソ話をする女生徒たちのかたわら、私の心臓がドキリとはねる。聞いてない。
ハーネット令嬢を生徒会に誘ったなんて、聞いてない。私に話さない筈がないもの。
ザワザワする。胸がザワザワする。なにが起きているの?私の知らないところで、なにか嫌なものが動き出している気がした。
それからアドリアン王子は私を避けるようになった。一緒のランチも毎日の送り迎えもなくなってしまって、代わりに当然のように彼の横にいるのがハーネット令嬢になった。
日を追うごとに私に冷たくなるアドリアン王子。ハーネット令嬢が横にいないタイミングで、ようやくアドリアン王子を捕まえて、話をしようと声をかけた。
「アドリアン王子!」
「なに?」
アドリアン王子が眉間にシワを寄せる。
こんな表情、初めて会った時だってしなかった。私は心臓を冷たい何かにギュッと掴まれたような気持ちになる。
なんとか声を振り絞り、
「あの……。聞いてません。」
「なにが?」
「ハーネット令嬢が、生徒会に入ることを、です。アドリアン王子がぜひにと誘ったと伺いました。」
「ああ……。そうだけれど、それがなに?
君に言う必要はないよね?」
アドリアン王子が、ハーネット令嬢に向けたことのある目線を私に向ける。
思わずギクッとした。泣かないようにするので精いっぱいだった。なにが……。いったいなにが起きているの……?そしてアドリアン王子は、そのまま立ち去ってしまった。
女生徒たちが、私を哀れなものを見る目で見てくる。他の方たちの婚約者たちも、この目で見られてきたんだ。私は俯いてギュッと拳を握りしめて、痛む胸に押し当てた。
「どうなさったの?ラーバント令嬢……。」
顔を上げると、イェールランド令嬢たちが心配そうに私を見つめていた。
「イェールランド令嬢……。」
我慢していた涙が溢れそうになってくる。
「そう……。ついにあなたもなの……。」
イェールランド令嬢が、そっと私を抱きしめて、優しく背中をさすってくれた。
「ひどい方。本当にひどい方ね……。」
優しいその声に、声を殺して泣いた。
消沈した私は、帰宅後、王妃さまから呼び出しを受けて、翌日王宮に招かれていた。
「かなり落ち込んでいるようね。」
眉を下げた王妃さまは優しく微笑んだ。
「アドリアンの状態は聞き及んでいます。あなたにはこのことは予想外で、とても心配でしょうけど、私はこの結果を読んでいたの。だから打開策はあるから心配しないで。」
「どういうことでしょうか?」
王妃さまの言葉に、私は思わず下げていた目線を、パッと上げて王妃さまを見た。
「アドリアンから聞く限り、あなたは3つのルートしか、夢に見ていないのよね?」
「はい、いつも3つのいずれかについて、夢に見ることが多いです。」
「あなたがそれをやってないのか、思い出せないだけなのかはわからないけど、星姫2には、4つ目のルートが存在するの。」
「4つ目のルート?」
「星姫シリーズには、攻略対象者と結ばれる以外の、ノーマルエンドが存在するのよ。
星姫1は魔道具師。元の世界で言うところの発明家ね。魔道具師として活躍して名を残し、王宮に招かれて、王太子や王さまたちの前で、宮廷専属にしてもらうの。
星姫3は聖女。星読みの聖女として、世界を股にかける活躍をするわ。
──そして星姫2は魔女。
魔女として開花した後で、宮廷魔道士として活躍するのよ。」
「ハーネット令嬢が、それを目指しているということでしょうか?」
彼女は宮廷魔道士になろうとしているの?
「いいえ。当然その過程で手にするものを狙っているんでしょうね。」
「その過程で手にするもの?」
「逆ハーエンドの為には、魔女になることをいったんは目指す必要があるのよ。
魔女になる為には、突発的に現れる、占いの館の魔女に弟子入りする必要があるの。」
「占い師に、弟子入り?」
「星姫2では、攻略対象者に出会える場所やデートスポットに移動すると、そこでランダムに占いの館が現れることがあるのよ。」
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