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第25話 悪役令嬢たちの誘い
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今日は近々スペルミシア学園主催のバザーがある為、準備の為に家庭科室に来ていた。
女生徒はクッキー作り担当と、刺繍制作担当に分かれて作業をするのだ。
これはバザーの為といいつつも、意中の男性にプレゼントを堂々と贈れる恋愛イベントでもあるので、みんな楽しげに集まって、おしゃべりしながら作業をするのである。
親友のエミリアは刺繍制作担当へ、私は刺繍は苦手なのでクッキー作り担当へと、毎回別れてしまうのが少しさみしいのだけど。
エミリアの刺繍は本当に評判だから、なんなら前回のバザーの時点で予約が入るくらいなのよね。だからスペルミシア学園としてもエミリアを刺繍制作担当から外せないのだ。
貴族令嬢は自宅じゃ厨房になんて入れてもらえないから、こんな時か調理クラブにでも入らない限りは、一緒にお菓子作りなんて出来ないのに。刺繍なら家でもさせるのに……と思ってしまう私を誰が責められようか。
家庭科室に入った瞬間、
「あ……。」
「あ……。」
何人かの令嬢たちと目があった。
アイシラ・イェールランド公爵令嬢、ルルーシェ・スヴェンソン侯爵令嬢、ケリーニャ・アウグスタント侯爵令嬢、マリアンヌ・アインズゴーン侯爵令嬢だった。
なるほど、ハーネット令嬢は、今回は刺繍制作担当に回ったのね、と私は理解した。
ミュレール先生が手を回したのだ。
ハーネット令嬢に嫌がらせをしている4人だと思われている彼女たちは、ハーネット令嬢から引き離す為に、こうして全学年合同作業の時は、必ず別々に行動させられるのだ。
今までは関わりのない彼女たちだったけれど、自分の婚約者にハーネット令嬢がちょっかいをかけているという点で、私も同類だと彼女たちに思われているふしがある。
──ん?待って?
私も引き離しの対象にされてない?
だって今まで毎回ハーネット令嬢は、クッキー作り担当をしていたのだ。
ハーネット令嬢はお菓子作りに自信があるらしくて、よくクッキーなんかを作っては、トリスタン王太子殿下たちに差し入れしている現場を目撃されている。
そして私は、刺繍が壊滅的に下手だ。
私を刺繍制作担当に加えることは、全学年の教師たちから反対を受けたと聞いたことがある。──そこまでじゃないわよ、失礼ね!
刺繍制作担当に回せない私と、ハーネット令嬢から引き離さなくてはいけない令嬢。
その2つを加味した結果、今回はハーネット令嬢が刺繍制作担当に回ったということ?
ま、まあいいわ……。私も顔を合わせなく手済むのならそのほうが良かったし。うん。
「ラーバント令嬢、よろしければ、わたくしたちと一緒に作業をいたしませんこと?」
アイシラ・イェールランド公爵令嬢が、おずおずと微笑みながら話しかけてきた。
……本来ならこういう、たおやかな方なのよねイェールランド令嬢は。
すべての男子生徒にいい顔をするハーネット令嬢を持て余した女生徒たちが、イェールランド令嬢に直訴したと聞いた。
トリスタン王太子殿下たちに苦言を呈することが出来るのは、将来の国母たりえるイェールランド令嬢くらいのものだものね。
責任感の強い方よね、ほんと。
「はい、ぜひご一緒させてください。」
私は笑顔でそう答えた。
「皆さんは婚約者の方に、クッキーを差し上げるんですか?」
私は気になっていたことを尋ねた。
4人は顔を見合わせながら、
「そうね……。受け取っていただけるか、わからないけれど、婚約者ですもの。」
と寂しそうな笑顔を浮かべた。
「そういえば皆さま、王都に新しく、アイシングやデコレーションによい素材を売り出しているお店があるのをご存知?」
ルルーシェ・スヴェンソン侯爵令嬢が、手のひらを胸の前で合わせつつ楽しげに言う。
「いいえ、存じ上げなくてよ。」
「お詳しいのね、スヴェンソン令嬢。」
「わたくしお菓子づくりが趣味なのですわ。厨房に入れてもらえないものだから、自宅にわたくし専用の作業場を作らせましたの。」
なにそれ、強い。
「まあ素敵。でしたら皆さま、全員でスヴェンソン令嬢のご自宅にお邪魔させていただきませんこと?」
「いいですわね、デコレーション素材を購入して、素敵にクッキーを飾ったら、たくさん売れるのではないかしら!」
「招待してくださいます?
スヴェンソン令嬢。」
「もちろんですわ、ぜひ!
ラーバント令嬢もいかがですか?」
「え?わ、私もいいんですか?」
私、子爵令嬢ですけど!?
「ええ、もちろんですわ、わたくしたち、もうお仲間みたいなものでしょう?」
「そ、そうですね。」
いわば婚約者を奪おうと、ちょっかいを出されている貴族令嬢同盟とも言える。
不本意ながら、だけど……。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援を押していただけたら幸いです。
女生徒はクッキー作り担当と、刺繍制作担当に分かれて作業をするのだ。
これはバザーの為といいつつも、意中の男性にプレゼントを堂々と贈れる恋愛イベントでもあるので、みんな楽しげに集まって、おしゃべりしながら作業をするのである。
親友のエミリアは刺繍制作担当へ、私は刺繍は苦手なのでクッキー作り担当へと、毎回別れてしまうのが少しさみしいのだけど。
エミリアの刺繍は本当に評判だから、なんなら前回のバザーの時点で予約が入るくらいなのよね。だからスペルミシア学園としてもエミリアを刺繍制作担当から外せないのだ。
貴族令嬢は自宅じゃ厨房になんて入れてもらえないから、こんな時か調理クラブにでも入らない限りは、一緒にお菓子作りなんて出来ないのに。刺繍なら家でもさせるのに……と思ってしまう私を誰が責められようか。
家庭科室に入った瞬間、
「あ……。」
「あ……。」
何人かの令嬢たちと目があった。
アイシラ・イェールランド公爵令嬢、ルルーシェ・スヴェンソン侯爵令嬢、ケリーニャ・アウグスタント侯爵令嬢、マリアンヌ・アインズゴーン侯爵令嬢だった。
なるほど、ハーネット令嬢は、今回は刺繍制作担当に回ったのね、と私は理解した。
ミュレール先生が手を回したのだ。
ハーネット令嬢に嫌がらせをしている4人だと思われている彼女たちは、ハーネット令嬢から引き離す為に、こうして全学年合同作業の時は、必ず別々に行動させられるのだ。
今までは関わりのない彼女たちだったけれど、自分の婚約者にハーネット令嬢がちょっかいをかけているという点で、私も同類だと彼女たちに思われているふしがある。
──ん?待って?
私も引き離しの対象にされてない?
だって今まで毎回ハーネット令嬢は、クッキー作り担当をしていたのだ。
ハーネット令嬢はお菓子作りに自信があるらしくて、よくクッキーなんかを作っては、トリスタン王太子殿下たちに差し入れしている現場を目撃されている。
そして私は、刺繍が壊滅的に下手だ。
私を刺繍制作担当に加えることは、全学年の教師たちから反対を受けたと聞いたことがある。──そこまでじゃないわよ、失礼ね!
刺繍制作担当に回せない私と、ハーネット令嬢から引き離さなくてはいけない令嬢。
その2つを加味した結果、今回はハーネット令嬢が刺繍制作担当に回ったということ?
ま、まあいいわ……。私も顔を合わせなく手済むのならそのほうが良かったし。うん。
「ラーバント令嬢、よろしければ、わたくしたちと一緒に作業をいたしませんこと?」
アイシラ・イェールランド公爵令嬢が、おずおずと微笑みながら話しかけてきた。
……本来ならこういう、たおやかな方なのよねイェールランド令嬢は。
すべての男子生徒にいい顔をするハーネット令嬢を持て余した女生徒たちが、イェールランド令嬢に直訴したと聞いた。
トリスタン王太子殿下たちに苦言を呈することが出来るのは、将来の国母たりえるイェールランド令嬢くらいのものだものね。
責任感の強い方よね、ほんと。
「はい、ぜひご一緒させてください。」
私は笑顔でそう答えた。
「皆さんは婚約者の方に、クッキーを差し上げるんですか?」
私は気になっていたことを尋ねた。
4人は顔を見合わせながら、
「そうね……。受け取っていただけるか、わからないけれど、婚約者ですもの。」
と寂しそうな笑顔を浮かべた。
「そういえば皆さま、王都に新しく、アイシングやデコレーションによい素材を売り出しているお店があるのをご存知?」
ルルーシェ・スヴェンソン侯爵令嬢が、手のひらを胸の前で合わせつつ楽しげに言う。
「いいえ、存じ上げなくてよ。」
「お詳しいのね、スヴェンソン令嬢。」
「わたくしお菓子づくりが趣味なのですわ。厨房に入れてもらえないものだから、自宅にわたくし専用の作業場を作らせましたの。」
なにそれ、強い。
「まあ素敵。でしたら皆さま、全員でスヴェンソン令嬢のご自宅にお邪魔させていただきませんこと?」
「いいですわね、デコレーション素材を購入して、素敵にクッキーを飾ったら、たくさん売れるのではないかしら!」
「招待してくださいます?
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「もちろんですわ、ぜひ!
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「ええ、もちろんですわ、わたくしたち、もうお仲間みたいなものでしょう?」
「そ、そうですね。」
いわば婚約者を奪おうと、ちょっかいを出されている貴族令嬢同盟とも言える。
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