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第21話 予言の盗用
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「──……やられたよ。」
次の日のお昼休み、アドリアン王子が申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「ちょっと、やめてください!
王族が人前で頭を下げるなんて!誰かに見られたらどうするおつもりですか!」
私たちが裏庭に来た途端、またイチャイチャが始まると思ったのか、ボッチでお昼ご飯を食べていた男子生徒が、直ぐ様立ち去ったから、今のところ誰もいないんだけどね。
「本当に申し訳なくてね。
まさかそうなるとは思わなかった。」
「いったい何があったんですか?」
「ハーネット令嬢の予言が当たったんだ。
……そして君の予言が外れた。」
「え?」
「強盗事件は確かにあった。
だが、襲われたのはカフェの向かいの宝石店ではなく、両替商だ。それをハーネット令嬢が兄上を通じて事前に予言してきた。」
「私の力が発動していなかったということでしょうか?」
初めて夢以外で予知を見たのだ。
あれが予知であったのか正直自信がない。
「恐らく、君が予言で見た時点では、宝石店を襲う算段だったのだろう。そして君の見た予言自体が、ハーネット令嬢の父親の商会の手の者が起こすことであったとしたら。」
「私の予言を知ってから、行動を変更したということですか?」
「恐らく教えたのは兄上だろう。聖女の予言は王族全員に通達されるものだからね。」
「トリスタン王子は、ハーネット令嬢が偽の予言をするつもりだと、ご存知だったのでしょうか?」
「さあ……。それはわからない。知った上で協力しているのであれば、ハーネット男爵家の没落を待たずして、兄上は廃嫡されるかも知れないな。聖女の予言を捻じ曲げて、国を混乱に巻き込むのは大罪だ。」
「もしもそうだとしたら、なぜトリスタン王子は、そこまで……。ハーネット令嬢の狙いがアド……、ミュレールさんだと、おわかりでないのでしょうか?」
「それだ。」
「わかっていないということですか?」
「そっちじゃない。なぜ兄上は名前で呼んで、私はミュレールさんなんだ?」
そっち!?
「それは……。単に区別する為ですよ。
目の前にいらっしゃる王族の方を、呼び捨てにだなんて出来ませんし。」
「だが私たちは婚約者だ。名前を唯一呼び合うことが許されている関係だろう?だったら私のほうこそ、名前で呼んで欲しいな。
私も呼んで構わないか?」
「あっ、……アドリアン……さま。はい。」
「うん。アデル。まあ、敬称をつけるのは今は不問としよう。だが2人きりの時は、呼び捨てにして欲しいな。」
「それは……、もう少し待ってください。」
さすがに恥ずかし過ぎる!
「しかしこうなってくると、こちらも対策を考えなくてはならないな。」
「私の予言がミュレール殿下から筒抜けになってしまうとすると、ハーネット令嬢が起こしそうな事件は伝えられないですよね。
手柄をすべて横取りされかねません。」
「だが伝えなければ伝えないで、ハーネット令嬢の予言ばかりが父上の耳に伝わり、ハーネット令嬢のほうが優秀で正確な予言が出来るという認識を持たれてしまうだろう。」
「どうしたらいいんでしょう……。」
「能力をよりコントロールして、見たい予言が見られるようにするしかないだろうな。」
「能力をコントロール?」
「星読みの聖女はそれが出来ると、母上が言っていた。見たい時に予言が出来るのが、本来の星読みの聖女だということだ。」
他の聖女も、起こしたい時に奇跡を起こせるものね。私もそうなれるってことか。
「天災だとか、人には実現不可能な予言が出来たらいいですよね……。」
「そうだな、それがもっとも確実だと思う。
だから今日の帰りの馬車の中で、色々と試してみよう。」
「そうですね……。」
言ってしまってからふと、馬車の中?ということに頭が回る。
「馬車の中で……?」
「そうだね。また色々とね。」
ニッコリと微笑むアドリアン王子。
「な、なにをなさるおつもりですか?」
「それを教えてしまっては、意味がないだろう?帰りまでのお楽しみだ。」
お、落ち着かないぃ~!!
今度は何をされるのかとドキドキして、午後の授業が少しも頭に入らなかった。
「──え?お見送りはなしですか?」
「はい、ご用事が出来たとのことでした。
ですので本来の計画通り、我々が護衛してご自宅まで送らせていただきます。」
いつもアドリアン王子の馬車の後ろからついてくる、王宮の馬車つきの護衛の兵士が、私にアドリアン王子の不在を告げた。
なんだかちょっとガッカリ……──会えないことがね!?何かされないことを、ガッカリしているわけではないから!
私は護衛の馬車に送られて、特に何事もなく自宅に到着した。いつものようにご飯を食べて、いつものようにお風呂に入って。だけどなんだかモヤモヤした気持ちで就寝した。
────────────────────
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次の日のお昼休み、アドリアン王子が申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「ちょっと、やめてください!
王族が人前で頭を下げるなんて!誰かに見られたらどうするおつもりですか!」
私たちが裏庭に来た途端、またイチャイチャが始まると思ったのか、ボッチでお昼ご飯を食べていた男子生徒が、直ぐ様立ち去ったから、今のところ誰もいないんだけどね。
「本当に申し訳なくてね。
まさかそうなるとは思わなかった。」
「いったい何があったんですか?」
「ハーネット令嬢の予言が当たったんだ。
……そして君の予言が外れた。」
「え?」
「強盗事件は確かにあった。
だが、襲われたのはカフェの向かいの宝石店ではなく、両替商だ。それをハーネット令嬢が兄上を通じて事前に予言してきた。」
「私の力が発動していなかったということでしょうか?」
初めて夢以外で予知を見たのだ。
あれが予知であったのか正直自信がない。
「恐らく、君が予言で見た時点では、宝石店を襲う算段だったのだろう。そして君の見た予言自体が、ハーネット令嬢の父親の商会の手の者が起こすことであったとしたら。」
「私の予言を知ってから、行動を変更したということですか?」
「恐らく教えたのは兄上だろう。聖女の予言は王族全員に通達されるものだからね。」
「トリスタン王子は、ハーネット令嬢が偽の予言をするつもりだと、ご存知だったのでしょうか?」
「さあ……。それはわからない。知った上で協力しているのであれば、ハーネット男爵家の没落を待たずして、兄上は廃嫡されるかも知れないな。聖女の予言を捻じ曲げて、国を混乱に巻き込むのは大罪だ。」
「もしもそうだとしたら、なぜトリスタン王子は、そこまで……。ハーネット令嬢の狙いがアド……、ミュレールさんだと、おわかりでないのでしょうか?」
「それだ。」
「わかっていないということですか?」
「そっちじゃない。なぜ兄上は名前で呼んで、私はミュレールさんなんだ?」
そっち!?
「それは……。単に区別する為ですよ。
目の前にいらっしゃる王族の方を、呼び捨てにだなんて出来ませんし。」
「だが私たちは婚約者だ。名前を唯一呼び合うことが許されている関係だろう?だったら私のほうこそ、名前で呼んで欲しいな。
私も呼んで構わないか?」
「あっ、……アドリアン……さま。はい。」
「うん。アデル。まあ、敬称をつけるのは今は不問としよう。だが2人きりの時は、呼び捨てにして欲しいな。」
「それは……、もう少し待ってください。」
さすがに恥ずかし過ぎる!
「しかしこうなってくると、こちらも対策を考えなくてはならないな。」
「私の予言がミュレール殿下から筒抜けになってしまうとすると、ハーネット令嬢が起こしそうな事件は伝えられないですよね。
手柄をすべて横取りされかねません。」
「だが伝えなければ伝えないで、ハーネット令嬢の予言ばかりが父上の耳に伝わり、ハーネット令嬢のほうが優秀で正確な予言が出来るという認識を持たれてしまうだろう。」
「どうしたらいいんでしょう……。」
「能力をよりコントロールして、見たい予言が見られるようにするしかないだろうな。」
「能力をコントロール?」
「星読みの聖女はそれが出来ると、母上が言っていた。見たい時に予言が出来るのが、本来の星読みの聖女だということだ。」
他の聖女も、起こしたい時に奇跡を起こせるものね。私もそうなれるってことか。
「天災だとか、人には実現不可能な予言が出来たらいいですよね……。」
「そうだな、それがもっとも確実だと思う。
だから今日の帰りの馬車の中で、色々と試してみよう。」
「そうですね……。」
言ってしまってからふと、馬車の中?ということに頭が回る。
「馬車の中で……?」
「そうだね。また色々とね。」
ニッコリと微笑むアドリアン王子。
「な、なにをなさるおつもりですか?」
「それを教えてしまっては、意味がないだろう?帰りまでのお楽しみだ。」
お、落ち着かないぃ~!!
今度は何をされるのかとドキドキして、午後の授業が少しも頭に入らなかった。
「──え?お見送りはなしですか?」
「はい、ご用事が出来たとのことでした。
ですので本来の計画通り、我々が護衛してご自宅まで送らせていただきます。」
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なんだかちょっとガッカリ……──会えないことがね!?何かされないことを、ガッカリしているわけではないから!
私は護衛の馬車に送られて、特に何事もなく自宅に到着した。いつものようにご飯を食べて、いつものようにお風呂に入って。だけどなんだかモヤモヤした気持ちで就寝した。
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