昨日見た夢の話をしようか〜たまに予知夢が見られる令嬢ですけど、私は聖女ではありませんよ?〜

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

文字の大きさ
上 下
19 / 44

第19話 馬車の中で2人きり

しおりを挟む
 そんなわけで、私の星読みの聖女としての力を開花させるという前提のもと、アドリアン王子は行動しているのだけど、いったい王妃さまから何を聞かされたらこうなるのか。

「君が食べるのが恥ずかしいのなら、私に食べさせてくれてもいいんだよ?」
 目を細めて首をかしげて私を見つめる。

「そ、それは……。」
「どっちがいい?
 私に食べさせてもらうのと、私に食べさせるのと。」

「こ、後者で……。」
 なんでその2択しかないかな!?
 まるでひな鳥みたいに、口を開けたアドリアン王子が待ち構えている。

 私は観念して、フォークで切り分けた卵焼きにフォークをさして、アドリアン王子に差し出した。ぱくっ。

 アドリアン王子が卵焼きを食べる瞬間、私の手を逃さないように掴んだ。
 ひいいいい!
 食べ終わってもまだ、手を掴んだままだ。

「美味しい。」
 ニッコリ微笑むアドリアン王子。
「よ、良かったです……。」

 私たちのイチャつきぶりに、普段ちらほら見かけるボッチの男子生徒も、そそくさと立ち去ってゆく。ご、ごめんなさーい!

「きゃああああ!」
 その時、突然目の前で誰かが、スライディングしたように地面に転んだ。

「痛ーい……。シクシク……。」
 ……ハーネット令嬢だ。
 普段の彼女なら、ああしてわざと転んでも誰かが助け起こしてくれるんでしょうね。

 だけどアドリアン王子は何ごともなかったかのように、また、あーんの体勢で待ち受けている。まだやるんですか!?

 ハーネット令嬢を無視して、私のあーんを待っているアドリアン王子に、ハーネット令嬢がフルフルと怒りに震えながら、涙をためてこちらを睨んでいる。

「くれないのかい?なら君が食べるといい。
 ほら、あーん。」
 そう言って、デザートのチェリーを摘んで、私に食べるよう、うながしてくる。

「見、見られて……。」
「誰もいないさ。」
「いますってえ!」
「私には君しか目に入らないからね。」

 そう言って目の奥を覗き込んでくる。
 う、うう……。心臓が苦しい。食べてしまえばこれから開放されるのよ!えいっ!

 私がチェリーを食べた唇に、アドリアン王子の指先が触れる。チェリーを口の中に軽く押し込んで、甘く微笑んでくる。
 見ていられなくて目をそらしてしまった。

 至近距離心臓に悪い!慣れない!
「うううう~!なに無視してるのよぉ。
 人の前でイチャついてえ!」
 ハーネット令嬢が涙目で睨んでくる。

「アドリアンさま!私が!私こそが星読みの聖女なんです!そんな女に騙されないで!」
「ほら、もうひとつお食べ。」

 アドリアン王子は本当に私しか見えていない、私の言葉しか聞えていないかのように、ハーネット令嬢を完全無視。

「絶対、ぜったい証明してやるんだから!」
 泣きながらハーネット令嬢が走り去って行った。騒がしい人ね、まったく……。

「もしかしなくても、わざとですよね?」
「ん?なにが?ほら、あーん。」
「普通に食べましょうってえ!」
 結局ぜんぶ、あーんで食べさせられた。

 帰りも帰りで、アドリアン王子の馬車で送り迎え。というか、朝も迎えに来てくれた。

 正式に聖女になった私には、王宮から護衛がついたんだけど、その馬車に乗ることをアドリアン王子が制して、自分の馬車に乗るように、強引に私を馬車に引き込んだ。

 御者席の横に護衛が座り、乗る筈の主のいない空の馬車が、アドリアン王子の馬車の後ろからついてくる。
「ようやく2人きりだね。」

「お昼もそうだったと思いますけど。」
「あれは見られる可能性があっただろう?
 ここならもっと大胆なことをしても、誰も見咎める人間はいないからね。」

 本来向かい合って座るべき馬車に、しっかり私の隣を陣取っているアドリアン王子。
「もっと大胆なことって……。
 なにをする気ですか!?」

「……どうして欲しい?」
 私の髪を指に巻き取って見つめてくる。
「ど、どどど、どうって……。」

「ほんとはね。聖女の能力開放に必要な具体的な方法を、私は母上から教わっているんだよね。だから君にそれをするのは簡単だけれど、大切にしたいとも思っているから。」

 中指の背中でそっと、私の頬を撫でるアドリアン王子。
「簡単にはすることが出来ない。
 それがとても悩ましいんだ。」

 熱いまなざしで見つめてくる。
 息が出来なくて苦しい。
「試してみたいことがあるんだ。」

「……どんなことですか?」
 たくさん息を吸うことが出来なくて、小声で問いかける。

「……君に直接触れなくても、聖女の能力の開放に影響を与えられるかどうか。」
「試してみたいです。」

「言質、取ったからね?」
 アドリアン王子が妖しく微笑む。あれ?これ私、なにかマズいことでも言った?

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援を押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

気が付けば悪役令嬢

karon
ファンタジー
交通事故で死んでしまった私、赤ん坊からやり直し、小学校に入学した日に乙女ゲームの悪役令嬢になっていることを自覚する。 あきらかに勘違いのヒロインとヒロインの親友役のモブと二人ヒロインの暴走を抑えようとするが、高校の卒業式の日、とんでもないどんでん返しが。

転生ヒロインは乙女ゲームを始めなかった。

よもぎ
ファンタジー
転生ヒロインがマトモな感性してる世界と、シナリオの強制力がある世界を混ぜたらどうなるの?という疑問への自分なりのアンサーです。転生ヒロインに近い視点でお話が進みます。激しい山場はございません。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...