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第13話 ヒロインって何?
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「ちょっと!そこのあなた!」
階段の真下で、教師に頼まれた資料を抱えた私は、階段の真上に立っている女生徒に突然呼び止められて上を見上げる。
キッと眉を吊り上げて、私を見下ろしているのは──ハーネット令嬢!?
なんで彼女が私を呼び止めるんだろうか。授業までに早く教室に行きたいのに。
私は2年生で彼女は1年生。当然これまでなんの接点もないのだ。毎回裏庭でランチを食べている最中に、彼女が取り囲まれているのを無視しているということ以外。
ひょっとしてそれに文句をつけようとか?
だけど助けられないのは仕方がないよね。
あの場にいた誰も、彼女たちに割って入れないんだもの。
周囲に人影はなかったけれど、一応念の為私以外の誰かに声をかけているんじゃないかと思って、あたりを見回してみる。
だけどやっぱり誰もいない。
ということは、私に声をかけているということで、間違いないようだ。
「あの……、なにか……?」
私はつとめて冷静に返事をする。
「ほんとにアデル・ラーバントがいる……。
なんで3のヒロイン聖女がここに?
こんなイレギュラー、聞いてない……。」
3とかヒロインとか、いったい何言ってるんだろう。それよりも今、聖女って言った?
なんでハーネット令嬢が、そのことを知っているの?
ひょっとしてトリスタン王太子にでも聞いたのかな?聖女は狙われることもあるから、護衛をどうするか確定するまでは、公表を控えるってアドリアン王子は言ってたのに。
ハーネット令嬢に骨抜きにされているトリスタン王太子であれば、まったく話さないとも言えないのが悩ましいところだよね。
「あの……、御用がなければ、これで失礼しますね。」
私はお辞儀をして立ち去ろうとした。
すると、きゃああああ!という悲鳴と、ドサドサッという音。慌てて振り返ると、ハーネット令嬢が階段の下に寝転がっている。
え!?ひょっとして上から落ちたの!?
「だ、だいじょうぶですか!?
すぐに人を呼んできます!」
私がそう言って声をかけた時だった。
「エーリカ!いったいどうしたんだ!」
階段の上からトリスタン王太子がこちらを見下ろしている。慌てて階段を駆け下りてくるとハーネット令嬢を抱き上げた。
ハーネット令嬢はうっすら目をあけると、
「突き落とされて……。」
と言った。
私はバッと階段の上を見上げたけれど、さっきまでトリスタン王太子のいた場所に、当然犯人なんていない。いったい誰に突き落とされたんだろうか?
するとトリスタン王太子がキッと私を睨んできた。
「貴様か……!!」
「え!?ち、違いますよ!」
私は慌てて否定する。
「トリスタンさま、私、だいじょうぶですから……。アドリアンさまに近付いてしまった私が悪いの……。」
なに?この子、何言ってるの?
「──ひょっとして、お前が弟と婚約したという、アデル・ラーバントか。」
「は、はい、そうですけど……。」
「エーリカは誰にでも優しい子だ。
弟と親しくしているエーリカに、嫉妬にかられて、階段から突き落としたな!?」
「そ、そんなことしてませんよ!?」
この人駄目だ!本当にハーネット令嬢におかしくされてるんだ!
トリスタン王太子の大声に、教室から大勢の生徒たちが顔を出して、こちらの様子を伺っている。バタバタと大勢の走る足音がしたかと思うと、男子生徒が集まって来た。
「エーリカ!」
「だいじょうぶですか!?」
「また意地悪をされたのか!?」
「なんて酷いことを……。」
宰相令息である、マクソンス・シュヴァリエ侯爵令息。
騎士団長令である、オレリアン・マルティネス侯爵令息。
アイシラ・イェールランド公爵令嬢の兄君、レオナード・イェールランド公爵令息。
教師である、マクシム・ミュレール王弟殿下が、ハーネット令嬢を取り囲んでいる。
「君は確か、2年生のラーバントさんだね。ちょっと話を聞かせてもらえないか。」
ミュレール先生が私を睨んでいる。
この子まさか、この為に体を張ったっていうの?こうやって、他の婚約者の方々も、貶めたんだろうか。可愛い顔して……怖い。
「どうしたんだ?ラーバント令嬢。」
そこに息を切らしてアドリアン王子が駆けつけてくる。少し汗をかいていて、ちょっと走って来たのかも知れない。
「アドリアンお……、ミュレールさん。」
学生同士の間では、一応家名に、さんをつけて呼ぶことになっている。王子なんて呼んだら、平民が萎縮するから。教師もね。
だけど高貴な方々は女生徒に限り令嬢、とつけて呼んでくれる人が多いのだ。貴族のくせが抜けないんでしょうね。私もそうだし。
「私がハーネット令嬢を、階段から落としたっておっしゃるんです。」
私はホッとしてアドリアン王子を見た。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援を押していただけたら幸いです。
階段の真下で、教師に頼まれた資料を抱えた私は、階段の真上に立っている女生徒に突然呼び止められて上を見上げる。
キッと眉を吊り上げて、私を見下ろしているのは──ハーネット令嬢!?
なんで彼女が私を呼び止めるんだろうか。授業までに早く教室に行きたいのに。
私は2年生で彼女は1年生。当然これまでなんの接点もないのだ。毎回裏庭でランチを食べている最中に、彼女が取り囲まれているのを無視しているということ以外。
ひょっとしてそれに文句をつけようとか?
だけど助けられないのは仕方がないよね。
あの場にいた誰も、彼女たちに割って入れないんだもの。
周囲に人影はなかったけれど、一応念の為私以外の誰かに声をかけているんじゃないかと思って、あたりを見回してみる。
だけどやっぱり誰もいない。
ということは、私に声をかけているということで、間違いないようだ。
「あの……、なにか……?」
私はつとめて冷静に返事をする。
「ほんとにアデル・ラーバントがいる……。
なんで3のヒロイン聖女がここに?
こんなイレギュラー、聞いてない……。」
3とかヒロインとか、いったい何言ってるんだろう。それよりも今、聖女って言った?
なんでハーネット令嬢が、そのことを知っているの?
ひょっとしてトリスタン王太子にでも聞いたのかな?聖女は狙われることもあるから、護衛をどうするか確定するまでは、公表を控えるってアドリアン王子は言ってたのに。
ハーネット令嬢に骨抜きにされているトリスタン王太子であれば、まったく話さないとも言えないのが悩ましいところだよね。
「あの……、御用がなければ、これで失礼しますね。」
私はお辞儀をして立ち去ろうとした。
すると、きゃああああ!という悲鳴と、ドサドサッという音。慌てて振り返ると、ハーネット令嬢が階段の下に寝転がっている。
え!?ひょっとして上から落ちたの!?
「だ、だいじょうぶですか!?
すぐに人を呼んできます!」
私がそう言って声をかけた時だった。
「エーリカ!いったいどうしたんだ!」
階段の上からトリスタン王太子がこちらを見下ろしている。慌てて階段を駆け下りてくるとハーネット令嬢を抱き上げた。
ハーネット令嬢はうっすら目をあけると、
「突き落とされて……。」
と言った。
私はバッと階段の上を見上げたけれど、さっきまでトリスタン王太子のいた場所に、当然犯人なんていない。いったい誰に突き落とされたんだろうか?
するとトリスタン王太子がキッと私を睨んできた。
「貴様か……!!」
「え!?ち、違いますよ!」
私は慌てて否定する。
「トリスタンさま、私、だいじょうぶですから……。アドリアンさまに近付いてしまった私が悪いの……。」
なに?この子、何言ってるの?
「──ひょっとして、お前が弟と婚約したという、アデル・ラーバントか。」
「は、はい、そうですけど……。」
「エーリカは誰にでも優しい子だ。
弟と親しくしているエーリカに、嫉妬にかられて、階段から突き落としたな!?」
「そ、そんなことしてませんよ!?」
この人駄目だ!本当にハーネット令嬢におかしくされてるんだ!
トリスタン王太子の大声に、教室から大勢の生徒たちが顔を出して、こちらの様子を伺っている。バタバタと大勢の走る足音がしたかと思うと、男子生徒が集まって来た。
「エーリカ!」
「だいじょうぶですか!?」
「また意地悪をされたのか!?」
「なんて酷いことを……。」
宰相令息である、マクソンス・シュヴァリエ侯爵令息。
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アイシラ・イェールランド公爵令嬢の兄君、レオナード・イェールランド公爵令息。
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「君は確か、2年生のラーバントさんだね。ちょっと話を聞かせてもらえないか。」
ミュレール先生が私を睨んでいる。
この子まさか、この為に体を張ったっていうの?こうやって、他の婚約者の方々も、貶めたんだろうか。可愛い顔して……怖い。
「どうしたんだ?ラーバント令嬢。」
そこに息を切らしてアドリアン王子が駆けつけてくる。少し汗をかいていて、ちょっと走って来たのかも知れない。
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だけど高貴な方々は女生徒に限り令嬢、とつけて呼んでくれる人が多いのだ。貴族のくせが抜けないんでしょうね。私もそうだし。
「私がハーネット令嬢を、階段から落としたっておっしゃるんです。」
私はホッとしてアドリアン王子を見た。
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