上 下
11 / 44

第11話 え?断ってもいいの?

しおりを挟む
「──やあ、来たね。ラーバント令嬢。」
「はい……。不本意ですが……。」
「アドリアン殿下に失礼だぞ!殿下は王子で私は侯爵令息だという認識がないのか?」

 ニコニコと目を細めているアドリアン王子とは対象的に、肩を落としてハーッとため息をつく私。それを咎めるようにランベール侯爵令息が、キッと睨みつけてくる。

「学園内は対等な筈ですよね?権力を振りかざすのはやめて下さい。無礼なのはそちらのほうだわ。先日のお話は私のほうに確かに非がありましたから、謝罪も致しますけど。」

 いくら対等とは言っても、王太子が廃嫡されるなんて話は、さすがに誰が聞いているかわからないところですべき話ではなかった。

 だけど今のランベール侯爵令息の態度は、それをもってしても、あまりに自身とアドリアン王子の地位を主張し過ぎている。

 ハーネット令嬢に傾倒し過ぎているから、私のことが気に入らないんだろうけど。
 このままいくとご自分の立場もあやういって、自覚がないのかしらね?

 私、理不尽に圧かけてくる人って嫌いよ。
 下位貴族として、よく理不尽な目に合わされる立場の人間としては。

 このままだと、ハーネット令嬢と一緒に断罪、廃嫡ルートまっしぐらなのだけれど。
 助ける方法がわかっても、助けないわよ?
 と思いながら睨み返す。

「そうだな、ルイ、今のは君が失礼だった。
 ラーバント令嬢に謝罪するべきだ。」
「……失礼を申し上げました。
 お詫びいたします。」

「謹んでお詫びを受けさせていただきます。
 ランベール侯爵令息。」
 貴族の間では相手がお詫びを拒否したら、非礼のあったほうが問題となる。

 だからこの場合、私が受けなくてもいいんだけどね。アドリアン王子がお詫びをうながしたということは、言外にアドリアン王子が手打ちにせよと言ったということと同義だ。

 同時にこの件で何かあったら、アドリアン王子が間に入ってくれるということでもあるから、今後しつこく絡まれなくもなるので、ここはお詫びを受け取るのが吉なのだ。

「それで、結論から言おう。
 ……ホップホッパーの襲撃は、あった。」
「本当ですか!?」

「ああ。事前にソドルフィ辺境伯に打診をおこない、騎士団を動かして貰っていたことから、被害は最小限に食い止められた。
 君には礼を言うよ。」

「辺境伯より国軍に援軍依頼が入り、早々に国軍が到着したことで撃退したそうです。」

 良かった。国の1/3をしめる穀倉地帯がやられたら、少なくとも今年いっぱいは、気軽にパンが食べれなくなっちゃうものね。

「もちろん君の話だけで、ソドルフィ辺境伯に騎士団を動かしてもらったわけではない。
 ヨシク山の山頂の雪が、今の時期に溶けない時、ホップホッパーの襲撃が何度か発生したという記録を見つけたんだ。」

「ヨシク山の雪が……。海側からの風が冷たいと溶けないと聞いたことがあります。
 つまり、海を挟んだガバムール王国の気温がいちじるしく低い、ということですね?」

「そのとおりだ。ガバムール王国の気温が下がったことで収穫期がずれ、繁殖期のホップホッパーは、ガバムール王国でじゅうぶんな食料を得ることが出来ず、我が国に海をこえて渡ってきていたということのようだ。」

 アドリアン王子が手を上げて、ランベール侯爵令息が私に手紙を手渡してくる。
 国王のものと思わしき、封蝋の押された正式な王家の手紙だ。

「国王陛下──父上に、ラーバント令嬢が聖女である旨を報告させていただいた。」
「聖女!?私やっぱり、聖女ってことになっちゃったんですか!?」

「不本意ながらな。」
「さっきの私の言葉を真似するように、ランベール侯爵令息がため息をついた。

「それはラーバント子爵に渡して欲しい。」
「お父さまに?」
「ああ。国王陛下より、ラーバント令嬢と私の結婚を打診する、正式な手紙だよ。」

「け、け、け……。」
「既にことは動き出している。兄上はまるでハーネット令嬢の傀儡だ。私は王族として、聖女さまを妻に迎える義務がある。」

「でも、でもでも、アドリアン王子は、私のことが別に好きじゃありませんよね!?
 うちは自由恋愛を認めてもらってる家ですから、私、そんな結婚嫌です!」

 と言ってしまってからハッとする。
 王族の結婚の申込みは絶対だ。それを貴族の側から断ることなんて出来ない。
 ましてやうちのような子爵家ごときでは。

 だけどアドリアン王子は、特に気にするようすもなく、なにごとか思案しだした。
「ふむ。聖女さまは不可侵領域だ。王族と対等以上の存在であるとされている。」

 え?そ、そうなの?
 なら、私は自分から結婚したくありませんと言えば、断ることも出来るということ?

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援を押していただけたら幸いです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

処理中です...