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第5話 ハーネット令嬢の失敗
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「なぜそこで叔父上が?」
アドリアン王子が首を傾げる。
「マクシム・ミュレール王弟殿下は、スペルミシア学園の教師で、かつ既婚者です。
ただし元々夫婦仲が冷え切っていて、彼女のことがなくとも離婚する気でいました。」
「それは知らなかった……。」
アドリアン王子が驚いている。
「将来の要職候補の男子生徒たちと、噂の彼女が、王弟殿下に近付き過ぎることを警戒して、はじめはランベール侯爵令息も、注意を促す為にハーネット令嬢に近付くんです。」
「そうなのか?ルイ。」
「……はい、ですが……。」
「わかった、続けてくれ。」
ランベール侯爵令息の言い分を、ピシャリと封じ込めるアドリアン王子。
「そしてランベール侯爵令息と親しくなることで、アドリアン王子に近付けるようになるんです。アドリアン王子は警戒心がお強いので、ランベール侯爵令息を通じてでないと、親しくなることが出来ないから。」
「まあ、確かに……、ルイと親しくできる女生徒がいたら、興味は持っただろうな。
なにせこいつはカタブツだからな。」
アドリアン王子がうなずく。
「そこでアドリアン王子と結婚すると、ランベール侯爵令息を始めとする、すべての彼女が狙った男性たちが、独身を貫いて彼女を支える道を選びます。これが2つ目の未来。
彼女はこれを狙ったんだと思います。
つまり本当の目的は、」
「私──か……?
兄上ではなかったのか。」
私はコックリとうなずいた。
「──だけど、アドリアン王子と親しくなるまでに、王弟殿下と親しくなり過ぎた場合、王弟殿下が離婚前にハーネット令嬢に迫ってくることになります。その場合、奥様に父親の罪を暴かれ、断罪されるのがハーネット令嬢となり、学園を去ることになります。トリスタン王太子は最後まで彼女をかばって廃嫡されます。これが3つ目の未来です。」
「それが彼女の失敗、というわけか……。」
「アイシラ・イェールランド公爵令嬢は、1つ目の未来の場合、必ず国外追放されます。
だけど今は3つ目に向かおうとしているから、ハーネット令嬢は恐らく焦っていると思います。ランベール侯爵令息と、王弟殿下と今更距離を置こうとしていることかと。」
「……そうなのか?ルイ。」
ランベール侯爵令息は、答えずにソッポを向いた。
「……荒唐無稽過ぎて、信じられないですよね、こんな話。私だって、なんでこんなにハーネット令嬢の夢ばかり見せられるのか、知りたいですもん。」
「──ハーネット令嬢の夢ばかり?
他の予知夢は見ないのか?」
「もちろん見ますよ。
だけど、彼女のことが1番多いんです。
なぜか繰り返し何度も見させられるので、こっちの場合はこういう未来になって、こっちの場合はこういう未来になるんだ、って、流石に覚えちゃったんですよ。」
「彼女が傾国だから……。なんとかせよという、神のお告げなのだろうか……。」
アドリアン王子がうなる。
「そうかも知れません。でも、私は夢に見るだけなので分かりません。
神さまは私にこんな夢を見せて、いったいどうしろって言うのか……。」
「ラーバント嬢、なにか近々起こる、繰り返し夢で見せられたことはあるか?
ハーネット令嬢の夢以外でだ。」
アドリアン王子が、グイッと前のめりになって迫ってくる。
近い近い!破壊力のあるご尊顔が近い!
私は思わずアワアワしながら、
「そうですね……。
南部の穀物で有名な地域が、空を飛ぶ魔物に襲われて、大打撃を受けます。
それにより食料危機に見舞われますね。」
「南部の穀物で有名な地域?
ニェールヤンドの穀倉地帯のことか?」
「名前まではわかりません。
ただ、南部の穀物で有名な地域が、空を飛ぶ魔物、ホップホッパーに襲われて、大打撃を受け、食料危機に見舞われる、とだけ。」
「それはいつのことだ?」
アドリアン王子がじっと私を見つめる。
私はじっくりと思い出しながら、
「3日後ですね。」
と伝えた。
「……わかった。来ることさえわかっていれば、迎え撃つことが可能だ。
ルイ、ソドルフィ辺境伯に連絡を取ってくれ。ホップホッパーを迎撃する。」
「こんな少女の夢の話ひとつを、真に受けるおつもりですか!?なにもなかった場合は、いったいどうなさるおつもりですか!」
「そ、そうですよ!あくまでも夢なので!」
私の夢ひとつで軍隊を動かして、なにもなかった場合の責任なんてとれないよ!
なんでここまで信じてくれるの!?
「だが、既にいくつもの予言を当ててきているのも事実だ。私の力では国軍を動かすことは出来ないが、私はこれをもってアデル嬢を星読みの聖女であると国に進言する。」
「アドリアンさま……。」
ランベール侯爵令息が頭を振った。
「3日あれば聖教会で聖女判定が間に合うだろう。遅れて国軍を動かすことが出来る。
ニェールヤンドは国の3分の1をになう穀倉地帯だ。手遅れがあってはならん。」
「……わかりました。」
ランベール侯爵令息が、大きなため息とともにうなずいた。
「え?てことは私は……。」
「私とともに、聖教会支部に向かってもらうことになる。明日学園は休みだが、アデル嬢は予定はあるだろうか?あった場合は申しわけないが予定のほうをずらして欲しい。」
王族の命令は絶対だ。それは身分に縛られない前提である、この学園内にあってもだ。
私は絶望の嘆きとともに、
「予定はありません……。」
と言うしかなかった。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援を押していただけたら幸いです。
アドリアン王子が首を傾げる。
「マクシム・ミュレール王弟殿下は、スペルミシア学園の教師で、かつ既婚者です。
ただし元々夫婦仲が冷え切っていて、彼女のことがなくとも離婚する気でいました。」
「それは知らなかった……。」
アドリアン王子が驚いている。
「将来の要職候補の男子生徒たちと、噂の彼女が、王弟殿下に近付き過ぎることを警戒して、はじめはランベール侯爵令息も、注意を促す為にハーネット令嬢に近付くんです。」
「そうなのか?ルイ。」
「……はい、ですが……。」
「わかった、続けてくれ。」
ランベール侯爵令息の言い分を、ピシャリと封じ込めるアドリアン王子。
「そしてランベール侯爵令息と親しくなることで、アドリアン王子に近付けるようになるんです。アドリアン王子は警戒心がお強いので、ランベール侯爵令息を通じてでないと、親しくなることが出来ないから。」
「まあ、確かに……、ルイと親しくできる女生徒がいたら、興味は持っただろうな。
なにせこいつはカタブツだからな。」
アドリアン王子がうなずく。
「そこでアドリアン王子と結婚すると、ランベール侯爵令息を始めとする、すべての彼女が狙った男性たちが、独身を貫いて彼女を支える道を選びます。これが2つ目の未来。
彼女はこれを狙ったんだと思います。
つまり本当の目的は、」
「私──か……?
兄上ではなかったのか。」
私はコックリとうなずいた。
「──だけど、アドリアン王子と親しくなるまでに、王弟殿下と親しくなり過ぎた場合、王弟殿下が離婚前にハーネット令嬢に迫ってくることになります。その場合、奥様に父親の罪を暴かれ、断罪されるのがハーネット令嬢となり、学園を去ることになります。トリスタン王太子は最後まで彼女をかばって廃嫡されます。これが3つ目の未来です。」
「それが彼女の失敗、というわけか……。」
「アイシラ・イェールランド公爵令嬢は、1つ目の未来の場合、必ず国外追放されます。
だけど今は3つ目に向かおうとしているから、ハーネット令嬢は恐らく焦っていると思います。ランベール侯爵令息と、王弟殿下と今更距離を置こうとしていることかと。」
「……そうなのか?ルイ。」
ランベール侯爵令息は、答えずにソッポを向いた。
「……荒唐無稽過ぎて、信じられないですよね、こんな話。私だって、なんでこんなにハーネット令嬢の夢ばかり見せられるのか、知りたいですもん。」
「──ハーネット令嬢の夢ばかり?
他の予知夢は見ないのか?」
「もちろん見ますよ。
だけど、彼女のことが1番多いんです。
なぜか繰り返し何度も見させられるので、こっちの場合はこういう未来になって、こっちの場合はこういう未来になるんだ、って、流石に覚えちゃったんですよ。」
「彼女が傾国だから……。なんとかせよという、神のお告げなのだろうか……。」
アドリアン王子がうなる。
「そうかも知れません。でも、私は夢に見るだけなので分かりません。
神さまは私にこんな夢を見せて、いったいどうしろって言うのか……。」
「ラーバント嬢、なにか近々起こる、繰り返し夢で見せられたことはあるか?
ハーネット令嬢の夢以外でだ。」
アドリアン王子が、グイッと前のめりになって迫ってくる。
近い近い!破壊力のあるご尊顔が近い!
私は思わずアワアワしながら、
「そうですね……。
南部の穀物で有名な地域が、空を飛ぶ魔物に襲われて、大打撃を受けます。
それにより食料危機に見舞われますね。」
「南部の穀物で有名な地域?
ニェールヤンドの穀倉地帯のことか?」
「名前まではわかりません。
ただ、南部の穀物で有名な地域が、空を飛ぶ魔物、ホップホッパーに襲われて、大打撃を受け、食料危機に見舞われる、とだけ。」
「それはいつのことだ?」
アドリアン王子がじっと私を見つめる。
私はじっくりと思い出しながら、
「3日後ですね。」
と伝えた。
「……わかった。来ることさえわかっていれば、迎え撃つことが可能だ。
ルイ、ソドルフィ辺境伯に連絡を取ってくれ。ホップホッパーを迎撃する。」
「こんな少女の夢の話ひとつを、真に受けるおつもりですか!?なにもなかった場合は、いったいどうなさるおつもりですか!」
「そ、そうですよ!あくまでも夢なので!」
私の夢ひとつで軍隊を動かして、なにもなかった場合の責任なんてとれないよ!
なんでここまで信じてくれるの!?
「だが、既にいくつもの予言を当ててきているのも事実だ。私の力では国軍を動かすことは出来ないが、私はこれをもってアデル嬢を星読みの聖女であると国に進言する。」
「アドリアンさま……。」
ランベール侯爵令息が頭を振った。
「3日あれば聖教会で聖女判定が間に合うだろう。遅れて国軍を動かすことが出来る。
ニェールヤンドは国の3分の1をになう穀倉地帯だ。手遅れがあってはならん。」
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「え?てことは私は……。」
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王族の命令は絶対だ。それは身分に縛られない前提である、この学園内にあってもだ。
私は絶望の嘆きとともに、
「予定はありません……。」
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