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第3話 星読みの聖女
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「いえ……、絶対違うと思います……。」
私は右手の手のひらをアドリアン王子に向けてそう言った。
「ほら、本人もそう言っていますよ。」
ランベール侯爵令息が、我が意を得たりとばかりにアドリアン王子に言う。
「まずは魔力を測定し直してからだ。
ラーバント子爵令嬢。この魔力測定器の先端を握ってくれたまえ。──ルイ。」
アドリアン王子にうながされて、不承不承魔力測定器を差し出してくるランベール侯爵令息。私はこわごわとその先端を握った。
「……──これは……!!」
ランベール侯爵令息が驚愕する中で、魔力測定器の目盛りがぐんぐんと上がっていく。
な、なんか吸われてる!?
「どうだね?見せてくれたまえ。」
アドリアン王子に魔力測定器を手渡すと、
「信じられません……。53でした。」
と、ランベール侯爵令息が言った。
「ふむ。歴代の聖女さまにも劣らぬ数字だ。
確かに彼女は、聖女さまの可能性があるようだね、ルイ。」
ランベール侯爵令息に向けて、ニヤリと笑うアドリアン王子。
「……悔しいですが、そのようです。」
と言って私を睨む。ちょっと、なんで悔しいのよ。私がほんとに聖女さまだとしたら、あんたなんて救ってあげないんだから!
「学園の測定器も、ここまで正確ではないにせよ、一応ある程度までは測れるようになっているんだけどね。」
とアドリアン王子が苦笑する。
「それでも30までしか目盛りがないから、それをこえる人間がいると想定してなかったんだろうな。」
そう言って、入学前に使った測定器を見せてくれる。誰もが入学前の判定に使う、手のひらサイズの魔力測定器だ。
「だが目盛りをこえていたことに気付かず見落としたのは、担当職員の怠慢だよ。既定値をこえると、──ここに印が出るんだ。」
アドリアン王子が指差す先に、目盛りの一番下の脇に赤い丸があった。
目盛りをこえる数値を叩き出すと、ここが光る仕組みになっているらしい。
私が持っていたから、その時は見えなかったんだとしても、私から回収した後に確認することは出来る。30をこえる人間なんている筈がないと、見もしなかったのだろう。
「でも、なんだって急に、私の魔力の再測定をしようだなんて思ったんですか?
再測定をしなければ、私の本当の魔力量になんて、気が付かないですよね?」
それが不思議だった。私は魔法の成績だって中の下くらいだし、正直取り立てて目立つ生徒ではないもの。
「──夢の話。」
アドリアン王子が私を見つめてそう言った瞬間、思わずギクリとする。
「君は昨日、友人のエミリア・パルファム子爵令嬢と、ランチを取りながら、裏庭で話をしていたね。君たちの座っていたベンチね、この部屋の真下なんだよね。」
そう言って美しく微笑んでくる。
私はサーッと青ざめた。
あれを聞かれていたなんて。
教室とも食堂とも離れていたし、周囲に人気はなかったから、まさか真上に人がいるだなんて気にしていなかった。
「い、いやですわ、そんな。
生徒会長ともあろうお方が、いち女生徒の夢の話を真に受けるだなんて。」
ホホホホ、と笑って見せた。だけど。
「君の話は到底看過できる話ではなかった。
どこで仕入れたのかは知らないが、エリーカ・ハーネット嬢の父親の話はまだいい。」
アドリアン王子がスッと冷たい目をする。
「問題は叔父上の不倫の話だ。いやしくも王弟である叔父が、未成年と不倫だなどと。
──ましてや兄上が王太子を廃嫡?
君はそれを他人に伝えることが、王族への不敬罪にあたるとは思わなかったのかな?」
……そうだ。その通りなのだ。
貴族なんて足の引っ張り合い。
それをうまく言葉でかわす手段を持つことこそが、大人の貴族女性に求められるもの。
だから貴族の集まりなんかで、貴族に対してだけじゃなく、王族に対する蔑みの言葉をのべるひとたちも少なくない。
人前でそれを口にしたところで、うちうちの話で済むこととして、気楽に話してしまうことはある。
そうやって話を広めていくことも、ひとつの政治手段だから。上手に話すことさえ出来れば、それを咎められることもない。
──それを王族に聞かれさえしなければ。
私はダラダラと脂汗を流して、何も言う言葉が見つからず、黙るしかなかった。
「君の話があまりにも具体的だったものだからね。昨日叔母上に確認してみたんだよ。」
アドリアン王子がシレッと言う。
確認!?確認しちゃったの!?
自分の父親の弟が、未成年の女性と不倫してるみたいですけど、ご存知ですかって!?
「お力になりますし、お邪魔もしません、だから私にだけ苦しいお心の内を話しては下さいませんか、と伝えてね。……そうしたら、すべて本当のことだった。」
アドリアン王子がじっと見てくる。
「君と友人とのやり取りを聞く限りでは、夢を見たのも恐らく初めてではないよね。」
なんと言っていいのかわからない。
なんと答えるのが正解なの?
私はアドリアン王子から目をそらした。
「他にも色んな予知夢を見ている筈だ。
──さあ、昨日見た夢の話をしようか。」
テーブルの上で指を組み、ぐっと前のめりになってアドリアン王子が微笑んだ。
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私は右手の手のひらをアドリアン王子に向けてそう言った。
「ほら、本人もそう言っていますよ。」
ランベール侯爵令息が、我が意を得たりとばかりにアドリアン王子に言う。
「まずは魔力を測定し直してからだ。
ラーバント子爵令嬢。この魔力測定器の先端を握ってくれたまえ。──ルイ。」
アドリアン王子にうながされて、不承不承魔力測定器を差し出してくるランベール侯爵令息。私はこわごわとその先端を握った。
「……──これは……!!」
ランベール侯爵令息が驚愕する中で、魔力測定器の目盛りがぐんぐんと上がっていく。
な、なんか吸われてる!?
「どうだね?見せてくれたまえ。」
アドリアン王子に魔力測定器を手渡すと、
「信じられません……。53でした。」
と、ランベール侯爵令息が言った。
「ふむ。歴代の聖女さまにも劣らぬ数字だ。
確かに彼女は、聖女さまの可能性があるようだね、ルイ。」
ランベール侯爵令息に向けて、ニヤリと笑うアドリアン王子。
「……悔しいですが、そのようです。」
と言って私を睨む。ちょっと、なんで悔しいのよ。私がほんとに聖女さまだとしたら、あんたなんて救ってあげないんだから!
「学園の測定器も、ここまで正確ではないにせよ、一応ある程度までは測れるようになっているんだけどね。」
とアドリアン王子が苦笑する。
「それでも30までしか目盛りがないから、それをこえる人間がいると想定してなかったんだろうな。」
そう言って、入学前に使った測定器を見せてくれる。誰もが入学前の判定に使う、手のひらサイズの魔力測定器だ。
「だが目盛りをこえていたことに気付かず見落としたのは、担当職員の怠慢だよ。既定値をこえると、──ここに印が出るんだ。」
アドリアン王子が指差す先に、目盛りの一番下の脇に赤い丸があった。
目盛りをこえる数値を叩き出すと、ここが光る仕組みになっているらしい。
私が持っていたから、その時は見えなかったんだとしても、私から回収した後に確認することは出来る。30をこえる人間なんている筈がないと、見もしなかったのだろう。
「でも、なんだって急に、私の魔力の再測定をしようだなんて思ったんですか?
再測定をしなければ、私の本当の魔力量になんて、気が付かないですよね?」
それが不思議だった。私は魔法の成績だって中の下くらいだし、正直取り立てて目立つ生徒ではないもの。
「──夢の話。」
アドリアン王子が私を見つめてそう言った瞬間、思わずギクリとする。
「君は昨日、友人のエミリア・パルファム子爵令嬢と、ランチを取りながら、裏庭で話をしていたね。君たちの座っていたベンチね、この部屋の真下なんだよね。」
そう言って美しく微笑んでくる。
私はサーッと青ざめた。
あれを聞かれていたなんて。
教室とも食堂とも離れていたし、周囲に人気はなかったから、まさか真上に人がいるだなんて気にしていなかった。
「い、いやですわ、そんな。
生徒会長ともあろうお方が、いち女生徒の夢の話を真に受けるだなんて。」
ホホホホ、と笑って見せた。だけど。
「君の話は到底看過できる話ではなかった。
どこで仕入れたのかは知らないが、エリーカ・ハーネット嬢の父親の話はまだいい。」
アドリアン王子がスッと冷たい目をする。
「問題は叔父上の不倫の話だ。いやしくも王弟である叔父が、未成年と不倫だなどと。
──ましてや兄上が王太子を廃嫡?
君はそれを他人に伝えることが、王族への不敬罪にあたるとは思わなかったのかな?」
……そうだ。その通りなのだ。
貴族なんて足の引っ張り合い。
それをうまく言葉でかわす手段を持つことこそが、大人の貴族女性に求められるもの。
だから貴族の集まりなんかで、貴族に対してだけじゃなく、王族に対する蔑みの言葉をのべるひとたちも少なくない。
人前でそれを口にしたところで、うちうちの話で済むこととして、気楽に話してしまうことはある。
そうやって話を広めていくことも、ひとつの政治手段だから。上手に話すことさえ出来れば、それを咎められることもない。
──それを王族に聞かれさえしなければ。
私はダラダラと脂汗を流して、何も言う言葉が見つからず、黙るしかなかった。
「君の話があまりにも具体的だったものだからね。昨日叔母上に確認してみたんだよ。」
アドリアン王子がシレッと言う。
確認!?確認しちゃったの!?
自分の父親の弟が、未成年の女性と不倫してるみたいですけど、ご存知ですかって!?
「お力になりますし、お邪魔もしません、だから私にだけ苦しいお心の内を話しては下さいませんか、と伝えてね。……そうしたら、すべて本当のことだった。」
アドリアン王子がじっと見てくる。
「君と友人とのやり取りを聞く限りでは、夢を見たのも恐らく初めてではないよね。」
なんと言っていいのかわからない。
なんと答えるのが正解なの?
私はアドリアン王子から目をそらした。
「他にも色んな予知夢を見ている筈だ。
──さあ、昨日見た夢の話をしようか。」
テーブルの上で指を組み、ぐっと前のめりになってアドリアン王子が微笑んだ。
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