勇者の孫は逆チート〜ハズレスキルしか手に入れられない不遇な男の、やがて英雄?になる物語〜

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

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第5話 クールなメイド、サラ①

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「身の程を知れ!
 痴れ者が!」

 ドゴボコドッカーン!という、まるで爆発音のような音と共に、窓の向こうに玄関の扉と男の人が吹っ飛んだのが見える。

「また、お祖父様ですか?」

「ええ。最近また新しく、マリア様に絡んでいる男性があらわれたそうよ。」

 母が困ったように柳眉を下げる。
 母は祖母とは血が繋がっていないので、祖母をマリア様と呼んでいる。

 別にお義母様と呼んでもいいのだけど、お祖母様が元王女様だから、従順な家臣の家系出身の母は、一家揃ってマリア様と呼んでいるのだ。

 まあ、お祖母様と呼ぶのには、違和感のある幼い美少女の見た目だから、僕としてもその方がいいかな、と思っている。

「急いで業者に来てもらわなくてはね。
 今日中に扉、なおるかしら……。」

「多分、大丈夫だと思う。」

 うちの出入り業者のザッカス親方は、うちがしょっちゅう、こうした修理を頼むものだから、ドアも窓もあらゆる素材を5つはストックしてくれているのだから。

「そうね。
 朝食の前に急いで頼まなくちゃ。
 ああ、朝から騒がしいこと。」

 母は食堂を出て行った。ちなみに父は既に騎士団の仕事で家を出ていていない。
 朝食を一緒に食べるのは、父の休日くらいのものだ。

 それも責任者として、有事の際はたびたび呼び出されるので、幼い頃から父と過ごした時間はあまりない。

 せいぜい剣の訓練を見て貰う時くらいだ。
 剣の稽古の為には積極的に時間を取ってくれるから、幼い頃の僕は、父と一緒に過ごしたくて、剣の練習に励んだのだった。

 まあ、今でこそ、僕も剣は大好きになったから、英才教育はありがたかったけどね。
 おかげで何のスキルがなくても、そこそこ戦えるまでにはなったんだし。

 母が食堂から出て行ったあとで、僕と祖母がテーブルについて、給仕が始まった。
 そこに祖父が戻ってくる。

「──まったく。こりん奴らだわい。
 マリア、安心せい。
 しつこい男は追っ払ったからな。」

「ありがとう。……怖かった。」
 上目遣いでうるうると祖父を見る祖母。
 ……いや、いくらでも返り討ちに出来ますよね?お祖母様。

 これが男をたてるということだろうか。降りかかる火の粉は自分で払えるお祖母様だけど、こと異性絡みとなるとお祖父様を頼る。

 お祖父様もこう見えてモテるのがわかる、白髪に薄い頭皮ながら、今なお頑健な体つき。僕も早くああなりたいものだ。

 白髪でも筋肉が凄いと、めちゃくちゃ若々しく見えるというのを、僕は祖父で知った。
 何なら父より筋肉が凄いのだ。

 いずれ祖父の頭髪だけは受け継ぐと言われている僕としては、モテ要素の1つとして筋肉を得ることはさけて通れないのだ。

「ワシの分も料理を運んでくれ。」

 お祖父様がお祖母様の隣の椅子にドッカと腰掛け、何事もなかったようにメイドたちの給仕が始まる。

 彼女たちも落ち着いて慣れたものだ。
 スワロスウェイカー家において、これは日常の光景だからな。
 慣れて貰わないと困るんだけど。

「マクシミリアン様、本日のご予定をお伺い出来ますでしょうか。」

 僕専属のメイド、サラが、僕の後ろに立ってたずねてくる。ショートカットの切れ長の目をした銀髪に緑の目の美人で、僕より3歳年上のクールなお姉さんだ。

 彼女の親も代々スワロスウェイカー家につかえていて、小さい頃は幼馴染の1人として遊んで貰ったりもした。

 ……一緒にお風呂に入ったこともある。

 美しく清らかなお祖母様が近くにいなければ、僕は彼女が初恋の相手になっていたんじゃないかなと思う。それくらい美人だ。

 僕がお祖母様を好きになった時、一時期冷たかったこともあったけど、従者の立場をわきまえて、その後優しくなった。

 けど、どっかその時から距離を感じてもいる。それまでは、単なる幼馴染という感じだったのに、明らかに従者として一線を引かれたというか。

 僕はそれが少しさみしく感じているのだけれど、彼女は自分の立場をまっとうしているだけなのだから、僕がそれを言う権利はないんだよね。

 けど、2人きりの時くらい、幼馴染として会話したいなあ、とも思う。
 いつかそんな日が、またくるといいのだけれど。

「今日は同級生たちと、ダンジョンにこもる予定なんだ。」

 あれから4日経っている。アリシアとバイエルン姉妹の防具も完成している筈だ。
 同年代の子たちとパーティーで狩りなんて初めてだから、僕はワクワクしていた。

「お帰りはいつ頃になられますか?」

「うーん、日が暮れる頃までには帰ってくるつもりだよ。」

「かしこまりました。」

 そう言って、あとはまたじっと後ろに立っている。
 メイドと主人は一緒に食事をしない。
 分かってるけど、僕は食事をしない人に近くに立たれていることに、未だに慣れない。

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