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第126話 風邪をひく②

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 ……なるほど。アエラキがドアノブの高さまで風魔法で浮かんで、力持ちのキラプシアがドアノブを回したんだな。アエラキもまだ自分じゃドアノブを回せないからな。恐らくそれをカイアが2人に頼んだのだろう。賢いなあ、うちの子たちは。

 などと感心していると、3人でそろそろと俺の部屋に入って来て、カイアが本棚から絵本を抜き出して、床の上にしゃがみこむ。
 絵本をめくって、何をしてるのかな、と思っていたら、なんと絵本を読みだした。
 手に取った絵本は、ずうっとひとりぼっちで暮らしていた大きな象が、ある日働きに出ることになったお話だ。

 ビスケット屋さんに行っても、お皿を作るところに行っても靴屋さんに行っても、大き過ぎる象の作るものは規格外で、何を作っても大き過ぎて売り物にならず、「もうけっこう。」と断られてしまい、しょんぼりしてしまう。そんな時にたくさんの子どもを持つお母さんに頼まれて、子どもたちと遊ぶことになった象はどうするのか?というお話だ。

 たくさんの人に否定されても、自分に合う場所を見つければ、誰でも幸せになれるという素敵なお話だ。俺も子どもの時に大好きだったんだよな。カイアも大好きな絵本だ。
「ピョルルッ!ピョル、ピョルル!」
 あれはセリフの部分でも読んでいるのだろうか?当然なんて言っているのかは分からなかったが、抑揚をつけている感じがする。

 だが、堂々としたカイアの様子から、ちゃんと内容が理解出来た上で、文字を読んでいるのだろうとわかる。文字を教えていないのに、もう絵本が読めるのか。そういえば俺も小学校に上がる前に、確か4歳くらいの時点で1人で絵本を読んでいたし、ルビの振られた児童書なんかは読んでたっけなあ……。子どもの吸収スピードは凄いもんだな。

 恐らく俺がいつも寝る前に絵本を読んでやっているから、寝ると言った俺の為に、絵本を読んでくれているのだろう。
 アエラキとキラプシアも横に座って、絵本を覗き込みながら、大人しくそれを聞いているから、ちゃんと読めているんだろうな。
 戻って来ない3人の様子を見に、円璃花が2階に上がって来て部屋を覗いていた。

 3人の様子を眺めてフフフッと微笑んだあとで、俺と目が合って、下に行くわね、と恐らく言ったのだろう、口をパクパクさせて人差し指で階下を指さして、そのまま階段を降りて行った。お父さんが寝る邪魔をしたら駄目よ、とでも言うつもりだったのだろうが、目を細めてカイアを見ている俺を見て、それを言うのをやめたようだった。

 円璃花が卵おじやを作って持って来てくれた。さっきのは、下に降りるわね、じゃなくて、卵おじや作ってくるわね、だったか。
 俺を含めて実家の家族がおかゆが嫌いな関係で(溶けた米の汁って不味くないか?味付けも薄いし)、我が家の体調が悪い時の病人食は、コンソメスープのキューブと塩で味付けした卵おじやと決まっている。なんなら体調が悪くない時にも食べたりもする。

 円璃花にもよく作ったし、簡単なので、作ってきてくれたようだった。
「風邪薬、飲むでしょ?食べられるなら少しはお腹に入れないとね。お医者さまには行かなくてだいじょうぶ?」
「医者……いるのかな、この世界。」
「あ、そっか。いたとしても分からないかも知れないわね。古い時代みたいだし。」
「ああ……。」

 俺は起き上がって卵おじやを食べることにした。するとカイアがベッドによじ登り、円璃花にどんぶりが欲しい、と身振り手振りで示したかと思うと、どんぶりを受け取って、ふうふう、あーんをしてくれるではないか。
「ありがとうカイア。あーん。」
「ピョルルッ!ピョルッ!」

 俺が喜んだことで、カイアもとても嬉しそうだった。それを円璃花が微笑ましく見つめている。こんなことも出来るようになったんだなあ。大人のしていることを、ちゃんとよく見てるんだな、と思った。
「そういえば譲次、あなたこんな時にお世話して欲しい相手はいないの?」
 と円璃花が聞いてくる。

「俺が頼むわけないだろ。」
「まあ、あなたはそうよね……。私の時もそうだったし。甘えるのが下手なんだから。
 ──待って、ということは、そう考える相手はいるっていうこと?付き合ってるの?」
 するどいな。
「いや、ちょっと気になってる程度だ。」
「いくつくらいの人?」

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