402 / 448
第121話 ハンバーグ工房長のスカウト③
しおりを挟む
「つまり、ジョージが欲しいのは、ティファではなく、この俺……?」
「……そう言うと、なんだか語弊がある気もしますが、まあ、そういうことですね。」
「それだけじゃない。ジョージはこの村の全員を雇いたいと言ってくれているのさ。とてもよい話だろう?お前さんも木こりでそんなに稼いでいるわけじゃないわけだしな。
本当にティファを嫁にやる時に、いい支度金稼ぎが出来ると思って。な?」
「ティファを……、嫁に……。」
それを聞いて、またラズロさんがぷるぷるしだしてしまう。
「ラグナス村長、その話はちょっと……。」
「あ、ああ、そうか。すまんすまん。」
ラズロさんは、ハーッとため息をついて椅子に座り直し、テーブルに腕を置いた。
「俺を工房長に、ティファも含めた村のみんなも、だったか?──それは無理だな。」
「なぜだね?」
ラグナス村長が不思議そうに言う。
「だってそうだろう。この村は今、年寄りばかりだ。それにジョージが提案してくれた食用花の事業もある。やれると思うかね?
唯一若いアスターもジョージと仕事をするんだと言って、みんなそれも手伝うことになってるんだ。年寄りにこれ以上は無理だ。」
と言った。俺はニヤリとした。
「ちょっとすみません。
みんなを呼んで来ますね。」
「──みんな?」
不思議そうに俺を見るラズロさん。
俺は椅子から立ち上がると、外に出て、
「みなさん、もういいですよ!」
と声をはりあげて大きく手を振った。
みんなが一斉にワーッと走って影から出て来ると、ラグナス村長の村の家々のドアを、それぞれがノックした。
──コンコン。ガチャッ。
「はい?どちらさ──」
「なんだ、どうしたね?」
玄関の前で両手で口元を覆い、声も出せずに立ち尽くす妻のマイヤーさんに、ガーリンさんが不思議そうに声をかける。
「……ただいま、父さん、母さん。」
「すみません、長いこと、家をあけてしまって。お久しぶりです、お義父さん、お義母さん。アーリーは元気にしてましたか?」
ドアの前に立っていたのは、長い間出稼ぎに出ていた、マイヤーさん、ガーリンさんの息子夫婦だった。
「オリバー……!エミリーも……!!
ああ、なんてことかしら。
アーリー!アーリー!!
あなた、アーリーを早く呼んで来てちょうだい!!」
「……泣かないでよ、母さん。」
「もう、なんてことかしら。年寄をあんまり驚かさないでちょうだい。」
泣き出してしまったマイヤーさんを、オリバーさんが抱きしめる。そこにガーリンさんがアーリーちゃんを連れて戻って来た。
「アーリー!
ほら、お父さんとお母さんだぞ!」
ガーリンさんに言われても、アーリーちゃんは事態がまだ飲み込めないようだった。
立ち尽くすアーリーちゃんの目線に合わせてしゃがみ込むと、エミリーさんがアーリーちゃんを見つめて微笑んだ。
「アーリー?
お母さんの顔、忘れちゃった?」
アーリーちゃんの顔が、だんだんと涙でクシャクシャになってゆく。
「おか……あ、さん……。」
アーリーちゃんがゆっくりと、まだ頭が大きくてバランスの悪い足取りで、エミリーさんに近寄って両手を伸ばした。
「ああ……!!アーリー!!
会いたかったわ……!」
「おかあさん……!!」
エミリーさんはしっかりと、アーリーちゃんを抱きしめた。
村のそこここで、みんなのすすり泣く声が聞こえる。今日、ラグナス村長の村は、これで全員が揃ったのだった。
「──こういうわけです。
みなさん出稼ぎ先で毎日働けているわけではないと、だから帰って来れないのだとラグナス村長から伺いまして。俺の工房の方が安定して稼げますし、通勤の為の馬車も用意します。みなさんここで暮らせるんです。」
「ラズロ、お前がうなずいてくれさえすればな。わしもお前しかいないと思うよ。
どうだね?ジョージのハンバーグ工房の、工房長をやってくれんかね?」
ラグナス村長が再び言った。
「こんなの……断れるわけがねえ。
こっちこそ、みんなの為に頼むよ。」
ラズロさんが俺に頭を下げた。
「──だが、ティファはやらんからな。」
そう言って顔を上げて俺を睨む。
「お父さんったら、もう……。
私とジョージさんはなんともないったら。
ジョージさんに失礼でしょう?」
困ったようにそう言うティファさんを見ながら、ラズロは手強いぞ?ジョージ、と、ラグナス村長が余計なことを言うのだった。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
「……そう言うと、なんだか語弊がある気もしますが、まあ、そういうことですね。」
「それだけじゃない。ジョージはこの村の全員を雇いたいと言ってくれているのさ。とてもよい話だろう?お前さんも木こりでそんなに稼いでいるわけじゃないわけだしな。
本当にティファを嫁にやる時に、いい支度金稼ぎが出来ると思って。な?」
「ティファを……、嫁に……。」
それを聞いて、またラズロさんがぷるぷるしだしてしまう。
「ラグナス村長、その話はちょっと……。」
「あ、ああ、そうか。すまんすまん。」
ラズロさんは、ハーッとため息をついて椅子に座り直し、テーブルに腕を置いた。
「俺を工房長に、ティファも含めた村のみんなも、だったか?──それは無理だな。」
「なぜだね?」
ラグナス村長が不思議そうに言う。
「だってそうだろう。この村は今、年寄りばかりだ。それにジョージが提案してくれた食用花の事業もある。やれると思うかね?
唯一若いアスターもジョージと仕事をするんだと言って、みんなそれも手伝うことになってるんだ。年寄りにこれ以上は無理だ。」
と言った。俺はニヤリとした。
「ちょっとすみません。
みんなを呼んで来ますね。」
「──みんな?」
不思議そうに俺を見るラズロさん。
俺は椅子から立ち上がると、外に出て、
「みなさん、もういいですよ!」
と声をはりあげて大きく手を振った。
みんなが一斉にワーッと走って影から出て来ると、ラグナス村長の村の家々のドアを、それぞれがノックした。
──コンコン。ガチャッ。
「はい?どちらさ──」
「なんだ、どうしたね?」
玄関の前で両手で口元を覆い、声も出せずに立ち尽くす妻のマイヤーさんに、ガーリンさんが不思議そうに声をかける。
「……ただいま、父さん、母さん。」
「すみません、長いこと、家をあけてしまって。お久しぶりです、お義父さん、お義母さん。アーリーは元気にしてましたか?」
ドアの前に立っていたのは、長い間出稼ぎに出ていた、マイヤーさん、ガーリンさんの息子夫婦だった。
「オリバー……!エミリーも……!!
ああ、なんてことかしら。
アーリー!アーリー!!
あなた、アーリーを早く呼んで来てちょうだい!!」
「……泣かないでよ、母さん。」
「もう、なんてことかしら。年寄をあんまり驚かさないでちょうだい。」
泣き出してしまったマイヤーさんを、オリバーさんが抱きしめる。そこにガーリンさんがアーリーちゃんを連れて戻って来た。
「アーリー!
ほら、お父さんとお母さんだぞ!」
ガーリンさんに言われても、アーリーちゃんは事態がまだ飲み込めないようだった。
立ち尽くすアーリーちゃんの目線に合わせてしゃがみ込むと、エミリーさんがアーリーちゃんを見つめて微笑んだ。
「アーリー?
お母さんの顔、忘れちゃった?」
アーリーちゃんの顔が、だんだんと涙でクシャクシャになってゆく。
「おか……あ、さん……。」
アーリーちゃんがゆっくりと、まだ頭が大きくてバランスの悪い足取りで、エミリーさんに近寄って両手を伸ばした。
「ああ……!!アーリー!!
会いたかったわ……!」
「おかあさん……!!」
エミリーさんはしっかりと、アーリーちゃんを抱きしめた。
村のそこここで、みんなのすすり泣く声が聞こえる。今日、ラグナス村長の村は、これで全員が揃ったのだった。
「──こういうわけです。
みなさん出稼ぎ先で毎日働けているわけではないと、だから帰って来れないのだとラグナス村長から伺いまして。俺の工房の方が安定して稼げますし、通勤の為の馬車も用意します。みなさんここで暮らせるんです。」
「ラズロ、お前がうなずいてくれさえすればな。わしもお前しかいないと思うよ。
どうだね?ジョージのハンバーグ工房の、工房長をやってくれんかね?」
ラグナス村長が再び言った。
「こんなの……断れるわけがねえ。
こっちこそ、みんなの為に頼むよ。」
ラズロさんが俺に頭を下げた。
「──だが、ティファはやらんからな。」
そう言って顔を上げて俺を睨む。
「お父さんったら、もう……。
私とジョージさんはなんともないったら。
ジョージさんに失礼でしょう?」
困ったようにそう言うティファさんを見ながら、ラズロは手強いぞ?ジョージ、と、ラグナス村長が余計なことを言うのだった。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
109
お気に入りに追加
1,848
あなたにおすすめの小説
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
異世界で『魔法使い』になった私は一人自由気ままに生きていきたい
哀村圭一
ファンタジー
人や社会のしがらみが嫌になって命を絶ったOL、天音美亜(25歳)。薄れゆく意識の中で、謎の声の問いかけに答える。
「魔法使いになりたい」と。
そして目を覚ますと、そこは異世界。美亜は、13歳くらいの少女になっていた。
魔法があれば、なんでもできる! だから、今度の人生は誰にもかかわらず一人で生きていく!!
異世界で一人自由気ままに生きていくことを決意する美亜。だけど、そんな美亜をこの世界はなかなか一人にしてくれない。そして、美亜の魔法はこの世界にあるまじき、とんでもなく無茶苦茶なものであった。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる