上 下
395 / 448

第119話 瘴気の影響③

しおりを挟む
「ガ……、ガアッ……!!」
「エイダさん、こらえて下さい!!
 瘴気になんて飲み込まれたら駄目だ!!」
 先程まで戦っていたランディさんが、エイダさんを心配する様子を見て、一足先に正気に戻ったワッツさんが目を見開く。
「お前……。」
「くっ……!!おさえきれない……!!」

 手遅れだったのか、エイダさんは物凄い力で、ランディさんごと前に進み出す。
「もう1本いきます!ワッツさん!エイダさんをおさえていて下さい!!」
 俺はワッツさんに頼んだ。
「わ、わかったぜ!!」
「エイダさん、負けないで下さい!」
「エイダ!しっかりしろ!!エイダ!!」

 ランディさんもワッツさんも、エイダさんに声をかけながら、ラグビーのスクラムのようにエイダさんを押し戻そうとしている。
「エイダさん!戻ってきて下さい!!
 みんな待ってます……!!」
 俺は聖水を首筋にぶっかけて、それを首全体に塗り拡げるようにしながら再び念じた。
 はがれろ!どっかいっちまえ!!

「ガアッ……!!あっ!ああっ!!」
 叫び声とともに、エイダさんの首から、ドロリと黒いモヤがはがれて、サーッと空に飛んで行った。そこに教会から貰った聖水を両手に握りしめて、冒険者ギルドの職員さんが戻って来た。瘴気のはがれる様子を見て、状況が飲み込めずにキョトンとしている。

「お、俺は……、いったい……?」
「エイダ!良かった!
 お前は瘴気に取りつかれていたんだ!」
 涙目で笑顔になるワッツさんに、
「ワッツさんもですよ?」
 と冒険者ギルドの職員さんが言う。

「──お、俺も?」
 ワッツさんは自分では分からないらしく、本当か?とでも言いたげに、周囲の人たちの顔をキョロキョロと見渡すが、ワッツさんと目があった人たち全員がこっくりとうなずくのを見て、ようやく納得したらしい。

「なんで俺はまだ闘技場の上にいるんだ?
 試験はもう終わったはずだろう?」
 不思議そうにしているエイダさんに、
「覚えてないんですか!?」
 ランディさんが驚いて目を丸くする。
「瘴気に取りつかれた人間は、その間の記憶がありません。瘴気に意識が乗っ取られているのだと考えられています。」

 かわりに冒険者ギルドの職員さんが、ランディさんに説明してくれる。
「……ですが、瘴気にとりつかれてる人は、病気で弱っている人と、心が浅ましい人とも言われています。あなた方は健康ですから、あなた方の心に反応したのでしょうね。」
 職人ギルドの職員さんが言う。

「……そうか。俺たちのせいか……。」
 エイダさんはがっくりとうなだれている。
「──エイダ!ジョージさんと、こいつが助けてくれたんだぜ!!」
 ワッツさんがそう言って、笑顔でランディさんを指さした。

「──あんたが?」
 問いかけるエイダさんに、ランディさんがこっくりとうなずいた。
「そうか……。すまないな、迷惑をかけた。助けてくれてありがとう。」
 素直にお礼を言うエイダさんに、ランディさんが目を丸くする。

「エイダさん、ワッツさん、──俺の妹に狼藉を働いたことは覚えていますか?」
 そう尋ねられて、エイダさんはキョトンとしていたが、ワッツさんは、
「俺は……、なんとなく覚えているよ。
 あんたの妹に酷いことを言った。
 あんなの、酒の席で男同士でする話だ。
 女に直接言っちまうなんて……。」

 ワッツさんの様子に、
「俺も……、言ったということか……。」
 とエイダさんが言った。
「言っただけじゃなく、エイダさんは無理やりリンディさんを連れて行こうとしたんですよ、乱暴目的でね。瘴気に取りつかれていたからだと分かりましたが、もともとそういう考えがない人ならしないんだとも思います。
 瘴気にとりつかれる理由を聞く限りは。」

 エイダさんは俺の言葉を聞いて、ハッとしたようにリンディさんを見た。
「そうだったのか……。瘴気に取りつかれていたからは言い訳にならねえな……。
 確かに酔っ払うと、俺は普段からそういうところがあるよ。俺なんかに謝られたくもないだろうが、あんたに怖い思いをさせてしまった。──本当にすまなかった。」

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

処理中です...