こじらせ中年の深夜の異世界転生飯テロ探訪記

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

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第119話 瘴気の影響②

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 掴みかかろうとするエイダさんを、ランディさんが素早くよけると、後ろからスネに思い切り蹴りを入れたが、エイダさんはびくともしなかった。
「弱っ。なんだそりゃ。」
 エイダさんは振り返って、ランディさんをベアハッグで抱き潰そうとした。

「うっ……、あああっ!!」
 ランディさんが、あまりの痛みに思わず悲鳴をあげる。身をよじって抜け出そうとするが、ガッチリホールドされて抜け出せない。
「お兄ちゃん!!」
「お前の力じゃ逃げらんねえよ。今なら謝って妹を差し出せば許してやるぜ。逆らってごめんなさいってな……!!」

「妹に……謝れ!!!」
「ぐあっ!?」
 ベアハッグで抱きすくめられたまま、ランディさんがエイダさんの顎に頭突きを入れ、そのまま何度も頭突きを繰り返す。
 エイダさんは顎をおさえる為に、思わず手をはなし、ランディさんはその隙にベアハッグから逃げ出した。
「この……石頭が……!!」

「──謝れ!!」
 顎をおさえて闘技場の石畳に片膝をつき、ランディさんを睨むエイダさんを、ランディさんが睨み返す。
「ちっ、お前らが喧嘩を売ってこなけりゃ、こんなことにもならねえのによ。
 ちったあ悪いと思わねえのか?
 あんくらい笑って流せねえ奴が、社会に出ようと思ってんじゃねえよ。」

 ハラハラとランディさんを見守っていたリンディさんに、ワッツさんがそう言った。
 リンディさんがビクッとする。自分の為に戦う兄の姿に、自分を責めてしまっているのかも知れなかった。
 ──……?
 なんだ?あれ。

 エイダさんの首の後ろから、にじみ出るように広がっていく、黒いモヤのようなもの。
「俺たちはさんざっぱら苦労してきたんだ。
 ……なんでその俺たちが評価されねえ。
 くそったればっかりだぜ。エイダだって、なんであんな痛い思いをさせらんなきゃなんねえんだ?それもこれもお前らが……。」

 そう話すワッツさんの首の後ろからも、ドロリとにじみ出るように、黒いモヤが広がっていく。あれは……。──瘴気か!!
 それに気が付いた冒険者ギルドの職員さんたちや、冒険者たちもざわつきだした。
「瘴気です!あのくらいであれば、まだ聖水で払えます!すぐに教会に行って下さい!」
 声をかけられ、若い職員が走り出す。

「ランディさん!あなたも今すぐ逃げて下さい!瘴気が広がってしまったら、近くの人から瘴気にとりつかれてしまいます!!」
 初めて瘴気を目にしたのか、怯んだままランディさんはその場に固まってしまった。
 ──あの程度の瘴気なら、カイアの力を借りなくとも、俺でも払えるんじゃないか?

 俺は一度、カイアの兄弟株である、コボルトの集落にいるドライアドの子株の瘴気を、少しだけはらったことがある。
 それに聖水だって出せる。やるしかない。
 俺はそっと、闘技場を見守っているワッツさんの後ろから近付いた。
「──被害者に、加害者意識を植えつけようとするのは、どうかと思いますよ。」

 俺はワッツさんの後ろから、マジックバッグからさも今取り出したかのように出した聖水を首筋にぶっかけて、それを首全体に塗り拡げるようにしながら念じた。
 はがれろ!瘴気よ消えろ!!
「ぐがっ!?がっ……!?」
 ワッツさんの首から、ドロリと黒いモヤがはがれて、サーッと空に飛んで行った。

「俺は聖水を持っています!ランディさん!エイダさんを取り押さえて下さい!!俺が後ろにまわるので、前からお願いします!」
「え?あ、は、はい!!」
 呆然としていたランディさんは、俺に声をかけられて、はっとしてエイダさんの胴体に両腕をまわし、進もうとするエイダさんの進路を塞いでくれる。

「ハ……ナ……セ……!!」
 エイダさんのほうが先に瘴気に取りつかれてたからなのか、様子が少しおかしい。
「エイダさん!今助けます!」
 俺は闘技場の上に急いで上がると、エイダさんの背後に回りこみ、ワッツさんの時と同じように、聖水を首筋にぶっかけて、それを首全体に塗り拡げるようにしながら念じた。

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