390 / 470
第118話 働く為に必要なこと②
しおりを挟む
「まあいい。ここで好きな道具を選びな。獲物は冒険者ギルドの奥に用意してある。」
解体職人さんにそう言われて、ワッツさんは、巨大なナタのような刃物、ノコギリ、トンカチを選んだ。ランディさんはなんと、
「──解体用のナイフ1本だと……?
てめえ、なめてんのか?」
ワッツさんがランディさんを睨む。
ランディさんが選んだのは、両刃の細長い解体用の小さなナイフだった。
「で、でもこれ、ミスリルですし……。」
「ははっ。お坊ちゃんはよくわかってねえのさ。お前の勝ちで決まりだ、ワッツ。」
エイダさんがそう言って笑っている。
「ぼ、僕はいつも、これ1本なんで……。」
ランディさんは困ったように言うと、ちらりと俺の方を見てきた。
「別になんでも結構ですよ。必要であればミスリルの解体ナイフも購入しますし。」
俺にそう言われて、ランディさんは初めて目をキラキラさせた。
「ありがとうございます!頑張りますね!」
「さ、冒険者ギルドに戻んな。魔物が用意してあるそうだからな。」
「……?作業場はここだろう?なんで冒険者ギルドの中になんか……。」
ワッツさんが困惑している。行きましょうと職人ギルド職員にうながされ、不承不承ワッツさんも解体作業場を出て、冒険者ギルドの中に入って行った。
冒険者ギルドの職員に案内されながら、冒険者ギルドの中のカウンターの横の扉をくぐると、廊下をへてもう1つの扉の前に来た。
冒険者ギルドの職員が扉をあけると、中は小さな闘技場のような場所になっていた。
「な、なんだよ、ここ……。」
ワッツさんは困惑して闘技場を見ている。
ここは冒険者ギルドの昇進試験に使われる会場だ。ここで指定のランクの冒険者と戦ったり、魔物を倒したりすることで、冒険者のランクが上がる仕組みなのだ。俺みたいにランク上の魔物をついでに倒して、その貢献度で上がることもある。まれに冒険者同士の諍いを、拳で決着をつけるのにも使われる。
「生きたままの魔物を解体出来る職人を、とのご要望でしたので、新鮮な若いワイルドボアをご用意しました。2体おりますので、どうぞ存分に解体して下さい。」
職人ギルドの職員がそう言うと、冒険者ギルドの職員が、闘技場の奥の扉を開けるよう指示をし、奥から俺が倒したやつよりも小さめのワイルドボアがのっそりと姿を現した。
──かと思うと、いきなり地面を引っ掻くように威嚇をはじめ、そのままスピードを上げて突進して来て、闘技場の端っこの見えない壁にドーンとぶち当たった。衝撃で空気と地面がビリビリと振動した気がする。
かなり気がたっているみたいだが、闘技場の周囲には保護魔法がかけられていて、闘技場の周辺の観客は無事らしい。
見物に来たらしい冒険者たちと、管理の為に冒険者ギルドの職員が持ち場に移動して立った。みんな楽しそうに話している。
良かった。ストライキをやめて戻って来てくれたんだな。冒険者ギルドの中はまだ人が少なかったが、チラホラと冒険者たちが戻って来ているようだった。
ワイルドボアは周囲に人が立ち始めたのを見て、誰か1人でも亡き者にしようとしているのか、逃げようとしているのか、闘技場を縦横無尽に駆け回り、ドーン!ドーン!とそのたび見えない壁に衝突を繰り返していた。
ワイルドボアが呆然としていたワッツさんの前に突進し、見えない壁にぶち当たって、それでも前に進もうと足をかいている。
「うわあああああ!?」
ワッツさんは腰を抜かして地面にへたり込み、ブルブルと震えている。
「し、新鮮ったって、普通はある程度弱らせてあるもんで……。俺は職人だぞ!?
こんなのどうしろってんだ!!」
「そうだぞ!職人を危険な目に合わせるなんて、いくらなんでも酷いじゃないか!」
エイダさんも憤っている。
「ああ、そうでしたか。それが出来る人、のつもりで募集をかけたんですが……。」
俺は話が違うことに困って、職人ギルドの職員さんの顔を見た。
「大変申し訳ありません。
こちらはちゃんと、生きたまま解体出来る人と、登録に書かれていたので手紙を送ったのですが……。──虚偽申告ですか?」
職人ギルドの職員さんは、俺に謝罪をした後で、ふう、とため息をついて、へたり込んだままのワッツさんを見下ろしている。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
解体職人さんにそう言われて、ワッツさんは、巨大なナタのような刃物、ノコギリ、トンカチを選んだ。ランディさんはなんと、
「──解体用のナイフ1本だと……?
てめえ、なめてんのか?」
ワッツさんがランディさんを睨む。
ランディさんが選んだのは、両刃の細長い解体用の小さなナイフだった。
「で、でもこれ、ミスリルですし……。」
「ははっ。お坊ちゃんはよくわかってねえのさ。お前の勝ちで決まりだ、ワッツ。」
エイダさんがそう言って笑っている。
「ぼ、僕はいつも、これ1本なんで……。」
ランディさんは困ったように言うと、ちらりと俺の方を見てきた。
「別になんでも結構ですよ。必要であればミスリルの解体ナイフも購入しますし。」
俺にそう言われて、ランディさんは初めて目をキラキラさせた。
「ありがとうございます!頑張りますね!」
「さ、冒険者ギルドに戻んな。魔物が用意してあるそうだからな。」
「……?作業場はここだろう?なんで冒険者ギルドの中になんか……。」
ワッツさんが困惑している。行きましょうと職人ギルド職員にうながされ、不承不承ワッツさんも解体作業場を出て、冒険者ギルドの中に入って行った。
冒険者ギルドの職員に案内されながら、冒険者ギルドの中のカウンターの横の扉をくぐると、廊下をへてもう1つの扉の前に来た。
冒険者ギルドの職員が扉をあけると、中は小さな闘技場のような場所になっていた。
「な、なんだよ、ここ……。」
ワッツさんは困惑して闘技場を見ている。
ここは冒険者ギルドの昇進試験に使われる会場だ。ここで指定のランクの冒険者と戦ったり、魔物を倒したりすることで、冒険者のランクが上がる仕組みなのだ。俺みたいにランク上の魔物をついでに倒して、その貢献度で上がることもある。まれに冒険者同士の諍いを、拳で決着をつけるのにも使われる。
「生きたままの魔物を解体出来る職人を、とのご要望でしたので、新鮮な若いワイルドボアをご用意しました。2体おりますので、どうぞ存分に解体して下さい。」
職人ギルドの職員がそう言うと、冒険者ギルドの職員が、闘技場の奥の扉を開けるよう指示をし、奥から俺が倒したやつよりも小さめのワイルドボアがのっそりと姿を現した。
──かと思うと、いきなり地面を引っ掻くように威嚇をはじめ、そのままスピードを上げて突進して来て、闘技場の端っこの見えない壁にドーンとぶち当たった。衝撃で空気と地面がビリビリと振動した気がする。
かなり気がたっているみたいだが、闘技場の周囲には保護魔法がかけられていて、闘技場の周辺の観客は無事らしい。
見物に来たらしい冒険者たちと、管理の為に冒険者ギルドの職員が持ち場に移動して立った。みんな楽しそうに話している。
良かった。ストライキをやめて戻って来てくれたんだな。冒険者ギルドの中はまだ人が少なかったが、チラホラと冒険者たちが戻って来ているようだった。
ワイルドボアは周囲に人が立ち始めたのを見て、誰か1人でも亡き者にしようとしているのか、逃げようとしているのか、闘技場を縦横無尽に駆け回り、ドーン!ドーン!とそのたび見えない壁に衝突を繰り返していた。
ワイルドボアが呆然としていたワッツさんの前に突進し、見えない壁にぶち当たって、それでも前に進もうと足をかいている。
「うわあああああ!?」
ワッツさんは腰を抜かして地面にへたり込み、ブルブルと震えている。
「し、新鮮ったって、普通はある程度弱らせてあるもんで……。俺は職人だぞ!?
こんなのどうしろってんだ!!」
「そうだぞ!職人を危険な目に合わせるなんて、いくらなんでも酷いじゃないか!」
エイダさんも憤っている。
「ああ、そうでしたか。それが出来る人、のつもりで募集をかけたんですが……。」
俺は話が違うことに困って、職人ギルドの職員さんの顔を見た。
「大変申し訳ありません。
こちらはちゃんと、生きたまま解体出来る人と、登録に書かれていたので手紙を送ったのですが……。──虚偽申告ですか?」
職人ギルドの職員さんは、俺に謝罪をした後で、ふう、とため息をついて、へたり込んだままのワッツさんを見下ろしている。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
127
お気に入りに追加
1,851
あなたにおすすめの小説


誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる