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第115話 ブレンドティーの試飲と打ち合わせ③

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 ──いや。正直に言おう。俺が寂しい。

 早く帰ってカイアに会いたくて仕方がないのだ。食事と風呂の時間と寝る時以外で、あまりカイアと接していない気がする。
 以前は2人きりだったから、カイアと2人だけでお出かけすることも多かったんだが。
 今の暮らしも楽しいが、もう少しカイアとの時間もとってやりたいし、外にも連れ出したい。お友だちにも会わせてないしな。

 円璃花がいるから、アーリーちゃんを家に呼べなくなっちまったし、こっちから近いうちに遊びに行こうかな。ほんとは裏庭のトランポリンとか、ブランコとか、アーリーちゃんにも使わせてあげたいんだけどな。
 この世界は公園とか遊具とかがまったくないから、子どもの遊び場がないんだよな。

 他の子どもたちの為に、大っきな遊具を出してもいいけど、壊れた時に直せないし、日本みたいにそれを、役場みたいな公共機関が管理してくれるわけでもないからなあ。
 子どもはどんな遊び方をするとも限らないから、俺の目の届く範囲でしか、遊ばせるのはちょっと難しいよな。責任が持てないし、万が一遊んでて怪我しないとも限らないし。

 あと、現代でも未だに鉱物のプレートがすぐに盗まれる国もあることだし、無人の場所に置いてあったら盗まれないとは思えない。
 それに子どもを怪我させる為に、わざとネット遊具の網を切るような、心無い大人たちが、この世界にもいないとは限らないしな。
 物珍しければ人が集まる。人の集まるところには、悪い人間も大勢やってくるからだ。

 アスターさんの住むラグナス村長の村は、俺の家から目と鼻の先だ。俺は歩いて我が家に帰ると、護衛の兵士たちに挨拶をして、ドアをノックして、ドアを開けることをみんなに知らせてから、家の中へと入ろうとした。
「──ちょっと待って!」
 円璃花の慌てたような声がして、慌ててドアを開ける手を止めた。

 2階に人が上がって行く音がする。リビングで過ごしていたのかも知れないな。
「──いいわよ。」
 円璃花の声が再びしたので、俺はドアを開けて家の中に入った。リビングには円璃花だけがいた。今家にいる人たちの中で、兵士に見られても問題ないのは円璃花だけだ。

「すまないな、毎度毎度。」
「ううん、迷惑かけているのはこっちだし。
 私がいなければ、アシュリーさんもララさんも、自由に出入り出来たのにね。」
 円璃花が申し訳なさそうに言う。
「……うーん……。まだ人間全体にコボルトに対して抵抗があるから、円璃花がいなくても多分同じことをしていたと思うよ。」

「そうなの?」
「先祖が魔物だったらしくてな。
 ……迫害されてる。」
「聞いてはいたけど……。譲次が親しくしている人たちは駄目なの?ルピラス商会のエドモンドさんはだいじょうぶだったじゃない。
 だいじょうぶな人もいるんじゃない?」
 円璃花が納得いかなげに眉を下げる。

「いるとは思うが、明確じゃないことの為にあの2人をわざわざ傷付けたくはないんだ。
 その為にコボルトの伝統の店をやるんだ。
 その後でもいいと思ってる。」
「そう……。わかったわ、あなたにそこまでの考えがあるのなら。」
 円璃花が少し困ったように笑った。

「……すみません、私たちの為に。」
 ララさんとアシュリーさんが、2階から降りてきて申し訳なさそうに言う。
「いずれ近いうちにに変わりますよ。
 ──必ず変えてみせます。
 それまでの限定的な、一時的な話です。」
 俺は笑って言った。

 ……?
 ──カイアが出迎えに来ない?
「カイア、お父さんだぞ、帰ったぞ。」
 いつも笑顔で抱きついて来てくれる、カイアのお出迎えがないことに俺は首を傾げた。
「ああ、そのことなんだけどね、譲次。
 カイアちゃんがさっき泣いちゃって……。
 自分で2階に移動して隠れるのが難しそうだったから、みんなで慌てて運んだのよ。」

「カイアが?どうしたんだ?」
「それがね……。」
「──カイア?どうした?」
 俺は円璃花の言葉を待たずに、急いで2階への階段を駆け上がった。
 円璃花の部屋のドアが開け放たれており、どうやらそこにいるらしい。円璃花は俺の部屋に勝手に入れないと思ったのだろう。

 部屋に入ると、アエラキとキラプシアが心配そうに泣いているカイアを見上げている。
 円璃花のベッドの前の床で、カイアは枝のお手々で両目を拭いながら泣いていた。
「カイア?」
 俺の声にハッと気付いて顔を上げると、カイアが泣きながら俺に走りよって来たので、俺はそれを受け止めて抱き上げたのだった。

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