381 / 432
第115話 ブレンドティーの試飲と打ち合わせ③
しおりを挟む
──いや。正直に言おう。俺が寂しい。
早く帰ってカイアに会いたくて仕方がないのだ。食事と風呂の時間と寝る時以外で、あまりカイアと接していない気がする。
以前は2人きりだったから、カイアと2人だけでお出かけすることも多かったんだが。
今の暮らしも楽しいが、もう少しカイアとの時間もとってやりたいし、外にも連れ出したい。お友だちにも会わせてないしな。
円璃花がいるから、アーリーちゃんを家に呼べなくなっちまったし、こっちから近いうちに遊びに行こうかな。ほんとは裏庭のトランポリンとか、ブランコとか、アーリーちゃんにも使わせてあげたいんだけどな。
この世界は公園とか遊具とかがまったくないから、子どもの遊び場がないんだよな。
他の子どもたちの為に、大っきな遊具を出してもいいけど、壊れた時に直せないし、日本みたいにそれを、役場みたいな公共機関が管理してくれるわけでもないからなあ。
子どもはどんな遊び方をするとも限らないから、俺の目の届く範囲でしか、遊ばせるのはちょっと難しいよな。責任が持てないし、万が一遊んでて怪我しないとも限らないし。
あと、現代でも未だに鉱物のプレートがすぐに盗まれる国もあることだし、無人の場所に置いてあったら盗まれないとは思えない。
それに子どもを怪我させる為に、わざとネット遊具の網を切るような、心無い大人たちが、この世界にもいないとは限らないしな。
物珍しければ人が集まる。人の集まるところには、悪い人間も大勢やってくるからだ。
アスターさんの住むラグナス村長の村は、俺の家から目と鼻の先だ。俺は歩いて我が家に帰ると、護衛の兵士たちに挨拶をして、ドアをノックして、ドアを開けることをみんなに知らせてから、家の中へと入ろうとした。
「──ちょっと待って!」
円璃花の慌てたような声がして、慌ててドアを開ける手を止めた。
2階に人が上がって行く音がする。リビングで過ごしていたのかも知れないな。
「──いいわよ。」
円璃花の声が再びしたので、俺はドアを開けて家の中に入った。リビングには円璃花だけがいた。今家にいる人たちの中で、兵士に見られても問題ないのは円璃花だけだ。
「すまないな、毎度毎度。」
「ううん、迷惑かけているのはこっちだし。
私がいなければ、アシュリーさんもララさんも、自由に出入り出来たのにね。」
円璃花が申し訳なさそうに言う。
「……うーん……。まだ人間全体にコボルトに対して抵抗があるから、円璃花がいなくても多分同じことをしていたと思うよ。」
「そうなの?」
「先祖が魔物だったらしくてな。
……迫害されてる。」
「聞いてはいたけど……。譲次が親しくしている人たちは駄目なの?ルピラス商会のエドモンドさんはだいじょうぶだったじゃない。
だいじょうぶな人もいるんじゃない?」
円璃花が納得いかなげに眉を下げる。
「いるとは思うが、明確じゃないことの為にあの2人をわざわざ傷付けたくはないんだ。
その為にコボルトの伝統の店をやるんだ。
その後でもいいと思ってる。」
「そう……。わかったわ、あなたにそこまでの考えがあるのなら。」
円璃花が少し困ったように笑った。
「……すみません、私たちの為に。」
ララさんとアシュリーさんが、2階から降りてきて申し訳なさそうに言う。
「いずれ近いうちにに変わりますよ。
──必ず変えてみせます。
それまでの限定的な、一時的な話です。」
俺は笑って言った。
……?
──カイアが出迎えに来ない?
「カイア、お父さんだぞ、帰ったぞ。」
いつも笑顔で抱きついて来てくれる、カイアのお出迎えがないことに俺は首を傾げた。
「ああ、そのことなんだけどね、譲次。
カイアちゃんがさっき泣いちゃって……。
自分で2階に移動して隠れるのが難しそうだったから、みんなで慌てて運んだのよ。」
「カイアが?どうしたんだ?」
「それがね……。」
「──カイア?どうした?」
俺は円璃花の言葉を待たずに、急いで2階への階段を駆け上がった。
円璃花の部屋のドアが開け放たれており、どうやらそこにいるらしい。円璃花は俺の部屋に勝手に入れないと思ったのだろう。
部屋に入ると、アエラキとキラプシアが心配そうに泣いているカイアを見上げている。
円璃花のベッドの前の床で、カイアは枝のお手々で両目を拭いながら泣いていた。
「カイア?」
俺の声にハッと気付いて顔を上げると、カイアが泣きながら俺に走りよって来たので、俺はそれを受け止めて抱き上げたのだった。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
早く帰ってカイアに会いたくて仕方がないのだ。食事と風呂の時間と寝る時以外で、あまりカイアと接していない気がする。
以前は2人きりだったから、カイアと2人だけでお出かけすることも多かったんだが。
今の暮らしも楽しいが、もう少しカイアとの時間もとってやりたいし、外にも連れ出したい。お友だちにも会わせてないしな。
円璃花がいるから、アーリーちゃんを家に呼べなくなっちまったし、こっちから近いうちに遊びに行こうかな。ほんとは裏庭のトランポリンとか、ブランコとか、アーリーちゃんにも使わせてあげたいんだけどな。
この世界は公園とか遊具とかがまったくないから、子どもの遊び場がないんだよな。
他の子どもたちの為に、大っきな遊具を出してもいいけど、壊れた時に直せないし、日本みたいにそれを、役場みたいな公共機関が管理してくれるわけでもないからなあ。
子どもはどんな遊び方をするとも限らないから、俺の目の届く範囲でしか、遊ばせるのはちょっと難しいよな。責任が持てないし、万が一遊んでて怪我しないとも限らないし。
あと、現代でも未だに鉱物のプレートがすぐに盗まれる国もあることだし、無人の場所に置いてあったら盗まれないとは思えない。
それに子どもを怪我させる為に、わざとネット遊具の網を切るような、心無い大人たちが、この世界にもいないとは限らないしな。
物珍しければ人が集まる。人の集まるところには、悪い人間も大勢やってくるからだ。
アスターさんの住むラグナス村長の村は、俺の家から目と鼻の先だ。俺は歩いて我が家に帰ると、護衛の兵士たちに挨拶をして、ドアをノックして、ドアを開けることをみんなに知らせてから、家の中へと入ろうとした。
「──ちょっと待って!」
円璃花の慌てたような声がして、慌ててドアを開ける手を止めた。
2階に人が上がって行く音がする。リビングで過ごしていたのかも知れないな。
「──いいわよ。」
円璃花の声が再びしたので、俺はドアを開けて家の中に入った。リビングには円璃花だけがいた。今家にいる人たちの中で、兵士に見られても問題ないのは円璃花だけだ。
「すまないな、毎度毎度。」
「ううん、迷惑かけているのはこっちだし。
私がいなければ、アシュリーさんもララさんも、自由に出入り出来たのにね。」
円璃花が申し訳なさそうに言う。
「……うーん……。まだ人間全体にコボルトに対して抵抗があるから、円璃花がいなくても多分同じことをしていたと思うよ。」
「そうなの?」
「先祖が魔物だったらしくてな。
……迫害されてる。」
「聞いてはいたけど……。譲次が親しくしている人たちは駄目なの?ルピラス商会のエドモンドさんはだいじょうぶだったじゃない。
だいじょうぶな人もいるんじゃない?」
円璃花が納得いかなげに眉を下げる。
「いるとは思うが、明確じゃないことの為にあの2人をわざわざ傷付けたくはないんだ。
その為にコボルトの伝統の店をやるんだ。
その後でもいいと思ってる。」
「そう……。わかったわ、あなたにそこまでの考えがあるのなら。」
円璃花が少し困ったように笑った。
「……すみません、私たちの為に。」
ララさんとアシュリーさんが、2階から降りてきて申し訳なさそうに言う。
「いずれ近いうちにに変わりますよ。
──必ず変えてみせます。
それまでの限定的な、一時的な話です。」
俺は笑って言った。
……?
──カイアが出迎えに来ない?
「カイア、お父さんだぞ、帰ったぞ。」
いつも笑顔で抱きついて来てくれる、カイアのお出迎えがないことに俺は首を傾げた。
「ああ、そのことなんだけどね、譲次。
カイアちゃんがさっき泣いちゃって……。
自分で2階に移動して隠れるのが難しそうだったから、みんなで慌てて運んだのよ。」
「カイアが?どうしたんだ?」
「それがね……。」
「──カイア?どうした?」
俺は円璃花の言葉を待たずに、急いで2階への階段を駆け上がった。
円璃花の部屋のドアが開け放たれており、どうやらそこにいるらしい。円璃花は俺の部屋に勝手に入れないと思ったのだろう。
部屋に入ると、アエラキとキラプシアが心配そうに泣いているカイアを見上げている。
円璃花のベッドの前の床で、カイアは枝のお手々で両目を拭いながら泣いていた。
「カイア?」
俺の声にハッと気付いて顔を上げると、カイアが泣きながら俺に走りよって来たので、俺はそれを受け止めて抱き上げたのだった。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
137
お気に入りに追加
1,864
あなたにおすすめの小説
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる