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第110話 生活魔法使いの高度な技術③
しおりを挟む「これから事業が拡大したら、新しく生活魔法使いを雇われますよね?その人件費はメッペンさんたちに出していただくわけですし、アイデアと先行投資の額から見ても、俺の取り分はそんなものだと思いますよ?」
店舗の場所と、人員と、宣伝を担当するルピラス商会と比べたら、魔道具の開発費用を加味してもそんなものだろうからな。
「ほ、本当にそれでいいんだな……?」
疑わしそうにメッペンさんが下から見上げてくる。
「心配でしたら、ルピラス商会が契約書を作成する際に、俺とも契約魔法で契約書を結びましょうか?俺はそれで構いませんよ。」
エムスラントさんはホッと息を吐いて胸をなでおろした。
「分かった。俺たちもそれで構わない。」
「ありがとうございます。あ、あと、宣伝の為に1つお願いがあるんです。」
「お願い?」
「これはルピラス商会の副長である、エドモンドさんから預かって来た、お祖母様が大切にされている鞄です。これをキレイにするところを、この記録用魔道具で撮影させて欲しいんです。店頭でお客様に見せるので。」
俺がミスティさんから受け取ったのは、撮影した映像を編集したり、文字が入れられる魔道具だ。映像を投影して見せることも出来る。見た目がデジカメと同じようなデザインなのは、ミスティさんの遊び心だろう。録画ボタン、停止ボタン、再生ボタン、更に文字を打ち込むところがついている。
データを取り込めず、直接編集するしかないので、こんな仕様になったわけだ。
「聞いたことはあるが、これが記録用の魔道具か……。かなり小さいんだな。」
メッペンさんは魔道具にかなり興味津々のようだ。見たいと言うので手渡すと、ひっくり返したりして、色々弄くりまわしていた。
「やりたいことは分かった。じゃあ、キレイにするから、見ててくれ。ここのほうが明るいから、記録も見やすくおさめられるだろうから、このままここでやる。」
メッペンさんがそう言ってくれたので、俺は三脚を出して記録用の魔道具をそこに置いて撮影を始めた。
備え付けのテーブルの上に鞄を置くと、メッペンさんは丁寧に、鞄を縫製している糸一本一本に、生活魔法をかけだした。
「エムスラントは反対側を頼む。」
そう言われたエムスラントさんは、反対側の糸に生活魔法をかける。
細く、光の糸の束のように生活魔法が紡がれ、少しずつ汚れた糸が美しくなっていく。
「こうすると、糸を解かなくても、糸をキレイにすることが出来るのさ。」
そして、雨のシミ、コーヒーのシミ、経年劣化、と、次々に汚れの種類に合わせて、やり方を変えて鞄をキレイにしていくメッペンさんとエムスラントさん。
「大切に使っていたんだな。それがとてもよく分かる。すぐにシミ抜きしようとしたあとがある。だが繊維の奥深くに入り込んじまったんだな。すぐに元通りにしてやるから。」
メッペンさんは、鞄がキレイになるにつれて、とても嬉しそうに笑った。
「よし、完成だ!
ここまでキレイにするのは、こいつを作った鞄屋にだって出来やしない。
これが生活魔法の力なのさ!」
メッペンさんは満面の笑みで、俺に鞄を差し出して来た。
「ありがとうございます。さっそく持ち主にお渡しして来ますね。」
俺はエドモンドさんのお祖母様の鞄を受け取って、マジックバッグの中に入れた。
「トレーラーハウスの鍵をお渡ししておきますね。自動判別洗浄機が出来上がったら、またお伺いしますが、先に注文を受けてもだいじょうぶであれば、契約書を交わせるよう、ルピラス商会に伝えておきますが。」
「ああ。それで構わない。
すべての大切にされている鞄や衣服は、俺たちが全部引き受けるぜ!絶対どこにも負けないくらいにキレイにしてやるよ!
一生可愛がって貰えるようにな!」
「分かりました、ありがとうございます。」
俺は記録用の魔道具の録画ボタンを停止して、マジックバッグにしまった。
俺はメッペンさんたちと別れ、移動の馬車の中で、さっそく先程撮影した動画の編集を始めた。さすがミスティさん。実に使いやすい。デジカメのようでいて、スマホのように扱えるな。編集も文字入れも簡単だ。
文字がひらがなと同じなことも助かった。
たぶん実際にはこの世界の文字なんだろうが、そこを失念してたからな。
一定の文章を入れ終えると、漢字に変換されるんだが、翻訳しづらいのか、長い文章を手打ちしにくい。だが文字起こし、というボタンを押すと、自動でセリフを文字起こししてくれる。あとは変換のおかしなところだけを、ちまちま修正すればいいだけだ。
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