上 下
344 / 448

第106話 裏庭のバーベキューパーティー②

しおりを挟む
 目線を落とした俺を応援するかのように、テーブルの上で俺を見上げたキラプシアが、作った串を応援団の旗のように振っている。
「……励ましてくれるのか?ありがとうな。優しいな、キラプシア。」
 俺はキラプシアの頭をそっと撫でた。キラプシアはチチィ!と鳴いた。

「そう言えば!譲次、あなた知ってたの?アシュリーさんが、もしも私がこの国の所属に決まったら私に同行してくれるってこと!」
「ああ。手紙で聞いてたよ。まあ前回の聖女様がこの国に降臨されているからな、また今回もという可能性は低いかも知れないが、アシュリーさんはおじい様のオンスリーさんの実績があるからな。この国所属になることがあれば、可能性があるとは思っていたが。」

「それで私のことを聖女だって話したのね!
 もともと私の存在を知ってるルピラス商会の……、ええと、どなただったかしら。」
「エドモンドさんか。」
「そう、エドモンドさんはともかく、アシュリーさんとララさんがいるのに話すから、ちょっと、え?って思っていたのよね。話しても良かったのかしら?って。」

「ああ、そうか。すまない。ジョスラン侍従長が俺に言ってくるくらいだから、お前はとっくに王族と面会した時に、聞かされているものだと思っていたんだ。」
「ううん。まったくの初耳よ。でもそうなったら嬉しいわ!きっとアシュリーさん人気者になれるもの!そしたらコボルトの風評被害なんて、あっという間に解決するわね!」

「だといいな。だがもしもそうならなくとも店を始めることで解決してみせるさ。」
「私も出来る限り協力するわ。と言っても、ネイルのデザインくらいしか、協力出来ることはないけどね。」
「お前のデザインがあれば百人力さ。ずっと温めてたデザインを放出してくれただろ?例のアイドルの為だけにデザインしたから、これは一生封印するって言ってたのに。」

「アシュリーさんが世間に認められる為なら惜しくないわよ。それに彼女引退しちゃったし、私もこっちに来ちゃったしね。」
 円璃花がアシュリーさんに教えて、練習の為にほどこしたネイルが、今も円璃花の指につけられている。
 円璃花がずっと応援していた女性アイドルと仕事をするその時の為に、その女の子の為だけにデザインしたネイルだ。

 円璃花いわく、ノースキャンダル、ノーアイドル(現役時代にスキャンダルがあったらアイドルではないという感じの意味らしい)という考え方の彼女から見ても、アイドルの中のアイドル。歌唱力も表現力も抜群で、いつ何時もアイドルでいることを忘れない女の子。必要な場面に応じて対応出来、バラエティでも完璧に役割をこなす秀才肌で、どんなユニットの時でも、自分のメンバーカラーがピンクであることだけは絶対に譲らない。

 時代が違えば伝説になっていたというその子は、幼稚園の先生になる為にアイドルを潔く引退してしまったのだ。その子といつか仕事をする時の為に円璃花がデザインしたネイルは、ついぞ披露されることはなかった。
 バラエティセンスのあったその子は、テレビからはバラエティ担当として呼ばれることが多く、歌番組の少なかった当時、アイドルとして歌で出演することが少なかった。

 その子が子どもの頃からずっと応援していた円璃花は、したたかに酔うと、もっとアイドルとして活躍出来る場をあげたかったと、たびたび寂しそうに言っていた。
 その思い入れのあるデザインをあげることの意味は、俺だけが知っている。相当アシュリーさんが気に入ったんだな。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした

あおアンドあお
ファンタジー
ギガン城と呼ばれる城の第一王女であるリコット王女が、他の世界に住む四人の男女を 自分の世界へと召喚した。 召喚された四人の事をリコット王女は勇者と呼び、この世界を魔王の手から救ってくれと 願いを託す。 しかしよく見ると、皆の希望の目線は、この俺...城川練矢(しろかわれんや)には、 全く向けられていなかった。 何故ならば、他の三人は若くてハリもある、十代半ばの少年と少女達であり、 将来性も期待性もバッチリであったが... この城川練矢はどう見ても、しがないただの『おっさん』だったからである。 でもさ、いくらおっさんだからっていって、これはひどくないか? だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし... 周りの兵士や神官達も蔑視の目線は勿論のこと、隠しもしない罵詈雑言な言葉を 俺に投げてくる始末。 そして挙げ句の果てには、ニヤニヤと下卑た顔をして俺の事を『ニセ勇者』と 罵って蔑ろにしてきやがる...。 元の世界に帰りたくても、ある一定の魔力が必要らしく、その魔力が貯まるまで 最低、一年はかかるとの事だ。 こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から 出ようとした瞬間... 「ぐふふふ...残念だが、そういう訳にはいかないんだよ、おっさんっ!」 ...と、蔑視し嘲笑ってくる兵士達から止められてしまうのだった。 ※小説家になろう様でも掲載しています。

異世界で『魔法使い』になった私は一人自由気ままに生きていきたい

哀村圭一
ファンタジー
人や社会のしがらみが嫌になって命を絶ったOL、天音美亜(25歳)。薄れゆく意識の中で、謎の声の問いかけに答える。 「魔法使いになりたい」と。 そして目を覚ますと、そこは異世界。美亜は、13歳くらいの少女になっていた。 魔法があれば、なんでもできる! だから、今度の人生は誰にもかかわらず一人で生きていく!! 異世界で一人自由気ままに生きていくことを決意する美亜。だけど、そんな美亜をこの世界はなかなか一人にしてくれない。そして、美亜の魔法はこの世界にあるまじき、とんでもなく無茶苦茶なものであった。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...