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第97話 精霊と妖精の握手②
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「さあ、もうだいじょうぶだ。カイア、あの子の瘴気を払えるか、試してみてくれるか?
光の檻に閉じ込められているからしばらくは安全だが、怖かったらあまり近付かなくてもいいぞ。ここから試してみてくれ。」
「ピョル!!」
俺にそう言われたカイアが、俺の腕に抱かれたまま、妖精の子どもに両枝をのばした。
サアアアアッと風が吹いて吹き飛ばすかのように、妖精の子どもの周囲を包んでいた瘴気が、妖精の子どもの体から離れたかと思うと、空高く浮かび上がり、
「ピョルッ!!」
空中で散り散りとなって霧散した。
「……もうだいじょうぶなのか?」
俺の言葉にカイアがコックリとうなずく。
カイアはヨロヨロしている妖精の子どもに聖魔法を放って回復してあげたようだった。
妖精の子どもは我に返ると、
「チチィ!!」
嬉しそうに群れのもとに駆け寄って戻ろうとした。だが。大人の妖精たちが、後ろにアンデオールさんと子どもの妖精たちをかばいながら、その子のことを威嚇しだしたのだ。
「チチィ!!チチィ!!」
妖精の子どもは涙を流して泣きながら、少しでも近寄ろうとするが、群れは決して妖精の子どもを受け入れようとはしなかった。
「瘴気に操られていたとはいえ、ワシや他の子たちを、あの子は攻撃してしまった。他の子たちがすっかりあの子に怯えておる。……もう群れに戻ることはかなわないだろう。」
そんな……。
妖精と言っても小動物の見た目のこの子たちは、群れを維持する為の厳格なルールがあるということか。群れがそう決めたのであれば、俺たちに口を出すことは出来ない。
だが、それでは親を失ったばかりのこの子は一人ぼっちになってしまう。俺がアンデオールさんを見ると、俺の意図に気が付いたアンデオールさんが、首を横に振った。
「無理だよ……。ワシらは妖精たちに守られたこの森で生活をしている。群れが受け入れないと決めたあの子を俺が引き取れば、妖精たちはこの森を離れてしまうことだろう。
ワシらの村はこの森と妖精に生かされているんだ。俺ひとりの感情でそれを手放すわけにはいかんのだ。……かわいそうだがな。」
アンデオールさんはそう言って、肩を落としてうなだれた。誰よりもあの子を救ってやりたかったアンデオールさんには、何より辛い決断だろう。だが仕方がなかった。
「──ん?」
俺の腕に抱かれたカイアが、俺の服をクイックイッと引っ張ると、地面を見ている。
「なんだ?おろして欲しいのか?」
そう尋ねると、カイアがコックリとうなずいたので、俺はカイアを地面におろしてやった。するとすぐにチョコチョコと妖精の子どものそばに近寄って行くカイア。妖精の子どもはまだ群れを見て泣いていた。
「──ピョル?ピョルッ!」
カイアが妖精の子どもに何やら話しかけて枝の手を差し出している。それを見た妖精の子どもは戸惑っていた。アエラキも空中からゆっくりと降りてきて、妖精の子どもの前に立つと、そっと前足を差し出した。
「ピューイ!!」
それを見ていた、他の妖精の子どもたちが一斉にチチィ!と小さく鳴いた。
それに釣られたように、大人の妖精たちもチチィ!と大合唱し始めた。先程までの威嚇の声とは違い、優しい鳴き声。だけど妖精の子どもに近寄ろうとまではしなかった。
これは群れのルール。子どもといえどもみんなを傷付けたら群れには戻さない。だけど小さくて可愛らしい仲間の行く末を、あんじていないわけじゃあないんだろう。
嫌だ!とでも言うように、妖精の子どもは一歩群れに近寄ろうとした。だが他の子どもたちはビクリとして後ろに下がった。
あの子を心配する気持ちと、恐怖が植え付けられた感情はまた別なのだろう。
それを見た妖精の子どもは、諦めたようにカイアとアエラキを見上げた。
「ピョル!」
「ピューイ!」
2人はまだ妖精の子どもに向けて、枝の手と前足を差し出している。
「チチィ……。」
妖精の子どもは、カイアとアエラキ、それぞれと握手をするように、小さなお手々をそっとのばして2人の手を掴んだ。
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光の檻に閉じ込められているからしばらくは安全だが、怖かったらあまり近付かなくてもいいぞ。ここから試してみてくれ。」
「ピョル!!」
俺にそう言われたカイアが、俺の腕に抱かれたまま、妖精の子どもに両枝をのばした。
サアアアアッと風が吹いて吹き飛ばすかのように、妖精の子どもの周囲を包んでいた瘴気が、妖精の子どもの体から離れたかと思うと、空高く浮かび上がり、
「ピョルッ!!」
空中で散り散りとなって霧散した。
「……もうだいじょうぶなのか?」
俺の言葉にカイアがコックリとうなずく。
カイアはヨロヨロしている妖精の子どもに聖魔法を放って回復してあげたようだった。
妖精の子どもは我に返ると、
「チチィ!!」
嬉しそうに群れのもとに駆け寄って戻ろうとした。だが。大人の妖精たちが、後ろにアンデオールさんと子どもの妖精たちをかばいながら、その子のことを威嚇しだしたのだ。
「チチィ!!チチィ!!」
妖精の子どもは涙を流して泣きながら、少しでも近寄ろうとするが、群れは決して妖精の子どもを受け入れようとはしなかった。
「瘴気に操られていたとはいえ、ワシや他の子たちを、あの子は攻撃してしまった。他の子たちがすっかりあの子に怯えておる。……もう群れに戻ることはかなわないだろう。」
そんな……。
妖精と言っても小動物の見た目のこの子たちは、群れを維持する為の厳格なルールがあるということか。群れがそう決めたのであれば、俺たちに口を出すことは出来ない。
だが、それでは親を失ったばかりのこの子は一人ぼっちになってしまう。俺がアンデオールさんを見ると、俺の意図に気が付いたアンデオールさんが、首を横に振った。
「無理だよ……。ワシらは妖精たちに守られたこの森で生活をしている。群れが受け入れないと決めたあの子を俺が引き取れば、妖精たちはこの森を離れてしまうことだろう。
ワシらの村はこの森と妖精に生かされているんだ。俺ひとりの感情でそれを手放すわけにはいかんのだ。……かわいそうだがな。」
アンデオールさんはそう言って、肩を落としてうなだれた。誰よりもあの子を救ってやりたかったアンデオールさんには、何より辛い決断だろう。だが仕方がなかった。
「──ん?」
俺の腕に抱かれたカイアが、俺の服をクイックイッと引っ張ると、地面を見ている。
「なんだ?おろして欲しいのか?」
そう尋ねると、カイアがコックリとうなずいたので、俺はカイアを地面におろしてやった。するとすぐにチョコチョコと妖精の子どものそばに近寄って行くカイア。妖精の子どもはまだ群れを見て泣いていた。
「──ピョル?ピョルッ!」
カイアが妖精の子どもに何やら話しかけて枝の手を差し出している。それを見た妖精の子どもは戸惑っていた。アエラキも空中からゆっくりと降りてきて、妖精の子どもの前に立つと、そっと前足を差し出した。
「ピューイ!!」
それを見ていた、他の妖精の子どもたちが一斉にチチィ!と小さく鳴いた。
それに釣られたように、大人の妖精たちもチチィ!と大合唱し始めた。先程までの威嚇の声とは違い、優しい鳴き声。だけど妖精の子どもに近寄ろうとまではしなかった。
これは群れのルール。子どもといえどもみんなを傷付けたら群れには戻さない。だけど小さくて可愛らしい仲間の行く末を、あんじていないわけじゃあないんだろう。
嫌だ!とでも言うように、妖精の子どもは一歩群れに近寄ろうとした。だが他の子どもたちはビクリとして後ろに下がった。
あの子を心配する気持ちと、恐怖が植え付けられた感情はまた別なのだろう。
それを見た妖精の子どもは、諦めたようにカイアとアエラキを見上げた。
「ピョル!」
「ピューイ!」
2人はまだ妖精の子どもに向けて、枝の手と前足を差し出している。
「チチィ……。」
妖精の子どもは、カイアとアエラキ、それぞれと握手をするように、小さなお手々をそっとのばして2人の手を掴んだ。
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