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第96話 瘴気にとらわれた理由②

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「それはお前たちが食べなさい。」
 アンデオールさんは優しく微笑みながらそれを断った。俺はアンデオールさんにはお茶と親子丼を出してスプーンを渡した。アンデオールさんは、プラスチック製の容器を物珍しそうに眺めてから、蓋をあけて親子丼をひとすくいし、すぐにモリモリと食べだした。食べ終えた容器はあとで俺が回収した。

「……なぜ、樹木の妖精である彼らが、こんなところに?俺は冒険者ギルドから、妖精は森にいるとうかがったのですが……。」
 俺の言葉に親子丼を美味しそうに食べていたアンデオールさんは悲しげに眉を下げた。
「……始まりは瘴気に取り憑かれた魔物が、この森に侵入してきたことが原因だった。」

 アンデオールさんは膝に登って体を擦り寄せる妖精たちを愛おしげに撫でる。
「……こいつらは森で素材を伐採中に襲われたワシのことを、全員で守ってくれようとしたんだ。妖精も魔法が使えるからな。
 その結果、魔物は倒されたが、夫婦ものが一組、子どもの目の前で死んじまってな。」
 そんな……。

「まだとても小さい、可愛らしい子でな。それがあの子には耐えられなかったんだろう。
 ──愛しいものを亡くしても、悲しみにとらわれすぎるな、闇がとらえにくる。
 昔からこんな言葉があるが、魔物の体から離れた瘴気がその子を襲った。……その子は瘴気にのまれ、凶暴化しちまったのさ。」

 なんということだ……。その子もアンデオールさんを守ろうとして近くにいたのだろうか。そのせいで目の前で親を失って、嘆いているその子が襲われただなんて。
「いくら瘴気にのまれたとは言っても、もとは仲間であり、ほんの小さな子どもだ。とても攻撃なんて出来やしなかったんだろう。だからこいつらは逃げるしかなかったんだ。」

 そんな、まだ感情のコントロールも難しい年頃の子どもに、目の前で親を亡くして悲しむな、というのはとても無理だろう。大人だって難しいのだ。だが瘴気はその隙を逃さず妖精の子どもの体を操ったということか。
「……分かりました。なんとか助けられないか、試させていただけませんでしょうか?」

「助ける?試す?どうやって。」
 アンデオールさんは、訝しげに、だがほんの少しだけ期待をにじませた表情で俺を見てきた。助けられると約束出来るわけじゃないから、あんまり期待し過ぎないで欲しいが。
「──内緒にすると約束して下さいますか。
 俺は出来ることなら、その子を助けてやりたいと思ってここに来たのです。」

「あの子が助けられるのであれば、どんな協力でもしよう。だが、どうすりゃいい?」
「固く誓っていただければそれで。」
「ああ、分かった。精霊の真名に誓おう。」
 アンデオールさんはそう言うと、お釈迦様のようなポーズを取った。見慣れないポーズと言葉に俺が困惑する。
「……それはなんですか?」

「精霊は真名を知られると人に縛られると言う。だから精霊の真名に誓うというのは、決して違えぬ誓いをたてるという意味がある。
 何か効力があるわけじゃないが、まあ心の持ちようだな。これを言うというのは、俺たちにとっては重い約束だということだ。」
「……なるほど、よく分かりました。──それではうちの子の力を借りたいと思います。
 うちの子は、植物の中の精霊王である、ドライアドなんです。」

 俺はそう言うと、マジックバッグから、カイアとアエラキに出て来て貰った。
「ド……ドライアド様だって?そりゃあ、ワシら木工加工をなりわいにしとる人間からすりゃあ、神様のようなもんだ。」
 アンデオールさんら驚いたように目を丸くした。アンデオールさんも、コボルトと同様にドライアド教の一員なのかな?
 マジックバッグから出てすぐに、アエラキは空中に浮かんであたりを見回した。

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