上 下
302 / 432

第96話 瘴気にとらわれた理由①

しおりを挟む
 一見ハムスターのような白い体に真っ赤なお目々。──アルビノというやつだろうか?
 よく見るとイチゴのヘタのようなものは、葉っぱで出来た王冠のようだった。
「チチィ!チチィ!!」
「キュウ……。」
「すまんなあ、腹がすいたよなあ、もうここにはワシの食べるものもないんだ……。」

 アンデオールさんは、ひもじげに鳴く妖精たちに、そう声をかけて慰めた。
「えっ、アンデオールさんも、何も召し上がってはいないのですか?外の兵士たちに声をかければ、何か持って来て貰えるのでは?」
 とたずねたが、アンデオールさんは残念そうに首を横に振った。

「彼らはこの場所を離れられんのだそうだ。
 以前交代の時にでも持って来てもらえないかと頼んだんだが、上に許可を取りますと言ったっきり返事がなくてな。それで仕方なしに息子に頼んだら、だったらここを離れて一緒に来いの一点張りで話にならん。」
 ああ、それは……。

「申し訳なかったが、近所で育ててる野菜をいただいたりもしてみたが、ついにはそれすらなくなっちまった。どうにもならんよ。」
「この子たちは、何を食べるんですか?」
「野菜か木の実だな、肉は食わんよ。」
「野菜か木の実ですか……、果物はどうですか?草食なら食べそうな気もしますが。」

「果物?なんだ?そりゃあ。」
「食べたことがありませんか?甘みが強くて調理しなくともそのまま食べられる、果実のことをさします。小さいものは木の実のこともありますね。俺もうちの子たちも大好きですよ。甘いものがよほど苦手でなければ、大人の男性でも食べられるものですね。」

「ああ、そういう食べ物か。なら絶対多分好きだと思う。ここいらじゃあまり見かけないが、そういうものもあるとは聞いたことがあるよ。ここは甘いものが貴重でな、森の木になる実くらいしか手に入らんのだ。多分食べさせてやったら凄く喜ぶだろうな。」
「そうですか、なら、何が好きかは分かりませんが、色々食べさせてみましょうか。」

 俺はニンジン、カボチャ、トウモロコシ、サツマイモ、レタス、イチゴ、バナナを出して、食べやすい大きさに切ったものを、ビニールシートを出して、その上に広げて置いてみた。だが妖精たちは離れたところから、こわごわとそれを眺めて寄っては来なかった。
「この人のくれたものは大丈夫だ、怖がらずに食べてごらん、お前たち。」

 アンデオールさんがそう言うと、まずは大人と思わしき大きさの妖精たちがビニールシートに寄ってきて、少しずつ野菜をかじりだす。そして、チチィ!と鳴いたかと思うと、子どもたちも寄って来て一斉にビニールシートの上のものを食べだした。特にイチゴとバナナを口にした瞬間は見ものだった。

 ( ˘ω₍˘ )⁾⁾( ˘ω₍˘ )⁾⁾( ˘ω₍˘ )⁾⁾( ˘ω₍˘ )⁾⁾モグモグ

 全員ちっちゃな両手で可愛らしくイチゴとバナナを持って無表情に食べていたのが、

 ∑(๑ºдº๑)!∑(๑ºдº๑)!∑(๑ºдº๑)!∑(๑ºдº๑)!!

 一斉にビクッとして、目と口を開いて固まっていた。よほど美味しかったのかな?
 可愛らしいなあ。大人たちが、まだ食べていない子どもたちに。子どもたちも、まだ食べていない親たちに。それぞれがイチゴとバナナを差し出して、食べてみるよう、うながしているのがまた微笑ましいな。

「こいつらは樹木の妖精でな、なぜかワシと妻に懐いてくれて、ずっとここにいついてくれとる。本当に可愛い奴らだよ。」
 美味しそうにイチゴとバナナを頬張る妖精たちを、アンデオールさんは目を細めて見つめていた。妖精たちがアンデオールさんにもどうぞとイチゴとバナナを差し出してきた。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...