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第95話 妖精さんの正体③
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なんとまあ。頑固な職人さんならそういうこともあるのかも知れないよな。自分の命よりも、心血を注いでいる仕事のほうが大切だということか。これは一刻も早くどうにかしなくちゃだな……。
「あっ、噂をすれば、です。あの方が息子さんのリーフレットさんです。」
近くから歩いて来たのか、徒歩でこちらに近付いてくる若い男性に気が付いた兵士が言う。息子さんも職人なのだろうか?作業着のような服の上に、分厚いエプロンのようなものを身につけている。兵士の方たちとは顔なじみらしく、朗らかに挨拶をしていた。
「……親父は相変わらずですか?」
「……そうですね。我々の言葉には耳も貸してくれません。早く避難したほうがよいのですが……。我々も目の前で人が亡くなるところを見たくありませんし、それが国の至宝、アンデオールさんともなれば、尚更です。」
「困ったもんだな……。」
リーフレットさんと呼ばれた男性は腕組みしながらそっぽを向いてため息をついた。
国の至宝と呼ばれているということは、かなり有名な職人さんなのか。国としても失いたくないところなんだろう。
「──中に入っても?」
「今は静かですので、短時間であれば……。
あ、こちらは冒険者ギルドから派遣されていらした冒険者の、ええと……。」
「ジョージ・エイトです。よろしくお願いします。」
「ああ、こんなところまで遥々どうもありがとうございます。遠かったでしょう?
森の近くに村があるので、ちょっと不便なんですよね。ですがそのかわりに珍しい木がたくさん生えているので、俺たち職人にはありがたい村なんです。」
「あなたも何か木工品加工のお仕事を?」
「はい、とは言っても俺は木工品の中でも、樹液を加工する職人なんですよ。この村でも俺しかいません。」
「──樹液、ですか?」
「これですね。」
リーフレットさんは分厚いエプロンのポケットから、何やら取り出して見せてくれる。
「これは……、ゴム、ですか。」
「ゴム?あなたはこれをご存知なのですか?俺はまだ名前をつけていないのですが。」
「ええ、まあ。俺の地元では生活に欠かせないものですね。」
確かにこの世界に来てから、見たことがなかったなあ、ゴム製品。
「そうなんですか!やあ、嬉しいなあ、誰もこれの素晴らしさを分かってくれないんですよ、だけど俺はこれから必須なものにしていきたいと思っていて。特にこれを馬車の車輪にする研究をしてまして。」
「──車輪?ですか?」
タイヤってことか?
「馬車って、お尻が痛いじゃないですか?樹液は衝撃を吸収する性質があるので、こいつを木に代わる車輪に出来れば、きっと長距離の移動が楽になる筈です。」
「確かに。とても素晴らしいと思います。俺たちの地元でも、ゴムの車輪の乗り物が出来てから移動がとても快適になりましたよ。」
「そうでしょう、そうでしょう!」
リーフレットさんは嬉しそうに、両方の拳をブンブン振りながらそう言った。
「妖精の森を見にいらしたんですよね?もし出来たらでいいのですが、その前に親父の説得に協力していただけませんか?母を亡くして家族はもう父だけなんです。それに、職人として、とても尊敬しているんです。」
「構いませんよ。」
「ありがとうございます!」
兵士の人たちがバリケードをよけてくれ、俺とリーフレットさんはガスパー村の中へと入ったのだった。
村の中は閑散としていて、慌てて逃げだしたのだろう、そこここにひっくり返った木桶や、風に飛ばされた洗濯物があった。
「こっちです。」
リーフレットさんの案内で、国の至宝である木工加工職人、アンデオールさんの家へと向かう。アンデオールさんの家はガスパー村の一番奥の、森に最も近い場所にあった。
これは……。襲われたら逃げる間もなく、ひとたまりもないだろうな。よく今まで無事だったものだ。
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「あっ、噂をすれば、です。あの方が息子さんのリーフレットさんです。」
近くから歩いて来たのか、徒歩でこちらに近付いてくる若い男性に気が付いた兵士が言う。息子さんも職人なのだろうか?作業着のような服の上に、分厚いエプロンのようなものを身につけている。兵士の方たちとは顔なじみらしく、朗らかに挨拶をしていた。
「……親父は相変わらずですか?」
「……そうですね。我々の言葉には耳も貸してくれません。早く避難したほうがよいのですが……。我々も目の前で人が亡くなるところを見たくありませんし、それが国の至宝、アンデオールさんともなれば、尚更です。」
「困ったもんだな……。」
リーフレットさんと呼ばれた男性は腕組みしながらそっぽを向いてため息をついた。
国の至宝と呼ばれているということは、かなり有名な職人さんなのか。国としても失いたくないところなんだろう。
「──中に入っても?」
「今は静かですので、短時間であれば……。
あ、こちらは冒険者ギルドから派遣されていらした冒険者の、ええと……。」
「ジョージ・エイトです。よろしくお願いします。」
「ああ、こんなところまで遥々どうもありがとうございます。遠かったでしょう?
森の近くに村があるので、ちょっと不便なんですよね。ですがそのかわりに珍しい木がたくさん生えているので、俺たち職人にはありがたい村なんです。」
「あなたも何か木工品加工のお仕事を?」
「はい、とは言っても俺は木工品の中でも、樹液を加工する職人なんですよ。この村でも俺しかいません。」
「──樹液、ですか?」
「これですね。」
リーフレットさんは分厚いエプロンのポケットから、何やら取り出して見せてくれる。
「これは……、ゴム、ですか。」
「ゴム?あなたはこれをご存知なのですか?俺はまだ名前をつけていないのですが。」
「ええ、まあ。俺の地元では生活に欠かせないものですね。」
確かにこの世界に来てから、見たことがなかったなあ、ゴム製品。
「そうなんですか!やあ、嬉しいなあ、誰もこれの素晴らしさを分かってくれないんですよ、だけど俺はこれから必須なものにしていきたいと思っていて。特にこれを馬車の車輪にする研究をしてまして。」
「──車輪?ですか?」
タイヤってことか?
「馬車って、お尻が痛いじゃないですか?樹液は衝撃を吸収する性質があるので、こいつを木に代わる車輪に出来れば、きっと長距離の移動が楽になる筈です。」
「確かに。とても素晴らしいと思います。俺たちの地元でも、ゴムの車輪の乗り物が出来てから移動がとても快適になりましたよ。」
「そうでしょう、そうでしょう!」
リーフレットさんは嬉しそうに、両方の拳をブンブン振りながらそう言った。
「妖精の森を見にいらしたんですよね?もし出来たらでいいのですが、その前に親父の説得に協力していただけませんか?母を亡くして家族はもう父だけなんです。それに、職人として、とても尊敬しているんです。」
「構いませんよ。」
「ありがとうございます!」
兵士の人たちがバリケードをよけてくれ、俺とリーフレットさんはガスパー村の中へと入ったのだった。
村の中は閑散としていて、慌てて逃げだしたのだろう、そこここにひっくり返った木桶や、風に飛ばされた洗濯物があった。
「こっちです。」
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これは……。襲われたら逃げる間もなく、ひとたまりもないだろうな。よく今まで無事だったものだ。
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