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第86話 ロバート・ウッド男爵邸④
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「──やあどうも、ルーファス副長、お待ちしていましたよ。」
にこやかにエドモンドさんを迎えるロバート・ウッド男爵だったが、俺の姿を見て顔色を変えた。
「……お前は……!
──何をしに来た。」
ご挨拶だな。明らかに妻の浮気相手として俺を睨んでいる。完全な誤解だが。
相変わらず服だけは仕立てが良かったが、以前会った時と違って、きちんと糊付けもされておらず、くたくたのシャツを着ていて、明らかにみすぼらしかった。もう、そんな余裕すらもないのだろう。
爪も黄色っぽくて汚い。どこか病気なのかも知れなかった。切り揃えてすらないのは、身の回りのことに目が行かないのだろう。
「ロバート・ウッド男爵、こちらはジョージ・エイト卿です。ロバート・ウッド男爵の土地建物を購入されたいと希望されている方ですよ。ルピラス商会はこの方の代理でずっと動いていたのです。」
「そ、そうだったのですか?早く言ってくださればよろしいものを……。
エイト卿、大変失礼をいたしました。」
「いえ。」
「──君、早くお茶をお持ちしないか。」
ドアのところで突っ立ったままのメイドに、苛立ったように指示をした。
若いメイドは慌てて外に出ていく。
「──教育が行き届いておらず、大変申し訳無い。
それで、あの土地を建物ごと購入されたいとおっしゃられるのですね?実にお目が高い。あの場所は王宮にも近く、以前の借り手も、貴族や王宮の職員たちから愛される店だと申しておりましたよ。きっとエイト卿の店も、長く愛される店になりましょう。」
いやらしい笑みを浮かべてロバート・ウッド男爵が俺に言う。舌なめずりでもしそうな顔だな。というか、しているように感じてしまう。
「そうなってくれればよいと思っております。その為に、ぜひともあの土地を譲っていただきたいのです。」
「ええ。そうでしょう、そうでしょう。
そうなりますとも。あの場所を手に入れればね。それで?本日直接エイト卿を伴ってお越しになられたということは、購入する額に対し、こちらの提示する金額でご了承いただけたということでよろしいですな?」
やはりそう思っていたな。まあ、無理もないが。エドモンドさんが上着の中に手を入れて、俺から預かった、パトリシア王女の保証書類を取り出して、テーブルの上に置いた。
「これは……?」
若いメイドが戻ってきて、テーブルの上にティーセットを置き、お茶を淹れ始める。
本来客の前から出すものだと思うが、若いメイドはロバート・ウッド男爵の前からティーカップを置いた。
ロバート・ウッド男爵はそれに気付かず、目の前の書類を吸い込まれるように見つめていた。若いメイドが、続いてエドモンドさん、そして俺の前にティーカップを置いた。
「──パトリシア王女の、土地建物売買に関する保証書類です。この意味がおわかりですね?」
「──ふざけるな!」
ガチャン!!ロバート・ウッド男爵が、目の前のティーカップを勢いよく手で払った。
「熱っつ……!!」
ひっくり返ったティーカップの中身をまともに手に浴びて、思わず手を引っ込める。
「熱いじゃないか!」
自分でひっくり返しておきながら、若いメイドを怒鳴りつけた。怯えるメイド。
俺たちは黙ってロバート・ウッド男爵を睨みすえていた。
「……この書類は、持参した者に対し、土地建物を、国の指定した金額で販売しなくてはならないという、強制力を持つものです。
この取引は断ることが出来ない。
あなたも貴族であればご存知の筈だ。」
エドモンドさんは冷たく言い放った。
「……ルーファス副長……?どういうことでしょうか?今までさんざん交渉して来た筈なのに、なぜ今更このような……?」
ロバート・ウッド男爵は、笑いたいのか泣きたいのか、よく分からない表情に顔を歪めて目線を落とした。
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にこやかにエドモンドさんを迎えるロバート・ウッド男爵だったが、俺の姿を見て顔色を変えた。
「……お前は……!
──何をしに来た。」
ご挨拶だな。明らかに妻の浮気相手として俺を睨んでいる。完全な誤解だが。
相変わらず服だけは仕立てが良かったが、以前会った時と違って、きちんと糊付けもされておらず、くたくたのシャツを着ていて、明らかにみすぼらしかった。もう、そんな余裕すらもないのだろう。
爪も黄色っぽくて汚い。どこか病気なのかも知れなかった。切り揃えてすらないのは、身の回りのことに目が行かないのだろう。
「ロバート・ウッド男爵、こちらはジョージ・エイト卿です。ロバート・ウッド男爵の土地建物を購入されたいと希望されている方ですよ。ルピラス商会はこの方の代理でずっと動いていたのです。」
「そ、そうだったのですか?早く言ってくださればよろしいものを……。
エイト卿、大変失礼をいたしました。」
「いえ。」
「──君、早くお茶をお持ちしないか。」
ドアのところで突っ立ったままのメイドに、苛立ったように指示をした。
若いメイドは慌てて外に出ていく。
「──教育が行き届いておらず、大変申し訳無い。
それで、あの土地を建物ごと購入されたいとおっしゃられるのですね?実にお目が高い。あの場所は王宮にも近く、以前の借り手も、貴族や王宮の職員たちから愛される店だと申しておりましたよ。きっとエイト卿の店も、長く愛される店になりましょう。」
いやらしい笑みを浮かべてロバート・ウッド男爵が俺に言う。舌なめずりでもしそうな顔だな。というか、しているように感じてしまう。
「そうなってくれればよいと思っております。その為に、ぜひともあの土地を譲っていただきたいのです。」
「ええ。そうでしょう、そうでしょう。
そうなりますとも。あの場所を手に入れればね。それで?本日直接エイト卿を伴ってお越しになられたということは、購入する額に対し、こちらの提示する金額でご了承いただけたということでよろしいですな?」
やはりそう思っていたな。まあ、無理もないが。エドモンドさんが上着の中に手を入れて、俺から預かった、パトリシア王女の保証書類を取り出して、テーブルの上に置いた。
「これは……?」
若いメイドが戻ってきて、テーブルの上にティーセットを置き、お茶を淹れ始める。
本来客の前から出すものだと思うが、若いメイドはロバート・ウッド男爵の前からティーカップを置いた。
ロバート・ウッド男爵はそれに気付かず、目の前の書類を吸い込まれるように見つめていた。若いメイドが、続いてエドモンドさん、そして俺の前にティーカップを置いた。
「──パトリシア王女の、土地建物売買に関する保証書類です。この意味がおわかりですね?」
「──ふざけるな!」
ガチャン!!ロバート・ウッド男爵が、目の前のティーカップを勢いよく手で払った。
「熱っつ……!!」
ひっくり返ったティーカップの中身をまともに手に浴びて、思わず手を引っ込める。
「熱いじゃないか!」
自分でひっくり返しておきながら、若いメイドを怒鳴りつけた。怯えるメイド。
俺たちは黙ってロバート・ウッド男爵を睨みすえていた。
「……この書類は、持参した者に対し、土地建物を、国の指定した金額で販売しなくてはならないという、強制力を持つものです。
この取引は断ることが出来ない。
あなたも貴族であればご存知の筈だ。」
エドモンドさんは冷たく言い放った。
「……ルーファス副長……?どういうことでしょうか?今までさんざん交渉して来た筈なのに、なぜ今更このような……?」
ロバート・ウッド男爵は、笑いたいのか泣きたいのか、よく分からない表情に顔を歪めて目線を落とした。
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