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第82話 やってきた聖女様③
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「それは、どんな素材を使っているの?」
なぜかとても恐ろしげな声で、弱々しく聞いてくる。そんなにこの世界の食材が怖いのだろうか?ノインセシア王国では、どんな食材を使っていたんだろうな。
「ジョージ、答えてやってくれないか?」
「はい。」
俺は一歩前に出て、扉の前のギリギリまで近付いて、声を張り上げた。
「炊いた米に、コンソメキューブを入れて煮たものに、卵を割り入れて蒸したあとで、塩で味を整えて、醤油をほんの少したらしたものになります。あと上にほんの少し刻んだ小ねぎを散らしてあります。」
「──米!?醤油ですって!?
それは本物なの!?」
聖女様の声色が、明らかに期待に満ちた声に変わった。
「はい、しばらく食事を召し上がられていないと伺いましたので、事前に聞いていた希望の食事ではなく、俺の一存でこれにさせていただきました。胃を動かして食べられるようになられましたら、他の料理も作らせていただきますよ、味噌汁でも、カレーでも。」
「……中に入れて頂戴。」
兵士たちが俺たちにかわって、キャスター付きの台車を押して中に入ると、中で話し声が聞こえ、お盆だけが上からなくなった状態の台車を押しながら、再び外に戻って来た。
中からは何の反応も伺い知れなかった。
「……大丈夫だろうか……。」
落ち着かない様子の料理長。聖女様が食事を召し上がられるかどうかは、人類の存亡にも、国の威信にも関わることだ。料理長はとても心配そうだった。
「──譲次!!譲次の味付けだわ!!!
譲次はどこなの!?」
突然、バン!!と扉が開いて、目の覚めるような金髪の美女が中から飛び出して来る。
豊かな胸元、くびれた腰つき、張りのある尻に、背が高く、スッとのびた足。
どうみても外国人の美女で、俺の知り合いにはこんな女性は存在しない。
だが、聖女様は明らかに俺を、ジョージではなく、譲次と呼んだ。
聖女様は一瞬俺と目が合って、ドキッとしたような、恥ずかしそうな表情を浮かべた。
だがすぐにがっかりしたような表情を浮かべ、周囲をキョロキョロと見回しだした。
「あの……、この料理を作った人はどこかしら……?あの、……、栄戸譲次という男の人だと思うのだけれど。」
オロオロとした表情で、目線を落としたり上げたりしては、俺たち全員の顔を見回している。そこには、ワガママな聖女様という雰囲気は、微塵も感じられなかった。
「ジョージ・エイトなら彼ですが?」
料理長が上に向けた手のひらを向けて、俺のことを紹介した。
聖女様は明らかにガッカリした表情で俺を見ると、
「そう……、ごめんなさい。
知り合いの料理の味付けに、とても似ていたものだから……。」
と言った。
俺は落ち着かなさそうに髪の毛をイジる聖女様の爪が、明らかにキューティクルプッシャーで整えられていることに気が付いた。
「聖女様……、その爪は……?」
「ああ、この国の元王女様から道具をプレゼントしていただいて自分でやったのよ、こっちの世界にもネイルの道具があるのね。」
「……ちょっと、よろしいですか?」
「──え?」
俺は聖女様の指を手にとって、ツルツルとした爪の部分を優しく親指で撫でた。この手入れされた爪の感触、間違いなかった。
「貴様、聖女様にいったい何を……!」
護衛の兵士たちが、俺と聖女様の間に割って入ろうとする。
だが聖女様は、俺の行為に、ハッとしたように俺の目をじっと見つめる。
俺と彼女の間にだけ通じる甘いやり取り。彼女もそれで気が付いたようだった。
「──譲次……?
あなたまさか、譲次なの……?」
「ああ。円璃花か……?」
「譲次……!こんなところで会えるなんて!
私……、私、怖かった……!!」
円璃花が泣きながら俺に抱きついてくる。その光景にギョッとする護衛の兵士たち。
「──ジョージさん、ひょっとして、聖女様とお知り合いですか?」
料理長が俺に尋ねた。
「……ええ、まあ。」
十枡円璃花(とうます・えりか)。
ネイリスト技能検定試験1級資格持ちのネイリスト。1級を持っていても技術とセンスがピンキリのネイリストたちの中で、美しく丁寧な仕上がりが評判で、スカルプネイルが得意で、自身のサロンも持っている、やり手の女社長。
──俺の、元カノです。
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なぜかとても恐ろしげな声で、弱々しく聞いてくる。そんなにこの世界の食材が怖いのだろうか?ノインセシア王国では、どんな食材を使っていたんだろうな。
「ジョージ、答えてやってくれないか?」
「はい。」
俺は一歩前に出て、扉の前のギリギリまで近付いて、声を張り上げた。
「炊いた米に、コンソメキューブを入れて煮たものに、卵を割り入れて蒸したあとで、塩で味を整えて、醤油をほんの少したらしたものになります。あと上にほんの少し刻んだ小ねぎを散らしてあります。」
「──米!?醤油ですって!?
それは本物なの!?」
聖女様の声色が、明らかに期待に満ちた声に変わった。
「はい、しばらく食事を召し上がられていないと伺いましたので、事前に聞いていた希望の食事ではなく、俺の一存でこれにさせていただきました。胃を動かして食べられるようになられましたら、他の料理も作らせていただきますよ、味噌汁でも、カレーでも。」
「……中に入れて頂戴。」
兵士たちが俺たちにかわって、キャスター付きの台車を押して中に入ると、中で話し声が聞こえ、お盆だけが上からなくなった状態の台車を押しながら、再び外に戻って来た。
中からは何の反応も伺い知れなかった。
「……大丈夫だろうか……。」
落ち着かない様子の料理長。聖女様が食事を召し上がられるかどうかは、人類の存亡にも、国の威信にも関わることだ。料理長はとても心配そうだった。
「──譲次!!譲次の味付けだわ!!!
譲次はどこなの!?」
突然、バン!!と扉が開いて、目の覚めるような金髪の美女が中から飛び出して来る。
豊かな胸元、くびれた腰つき、張りのある尻に、背が高く、スッとのびた足。
どうみても外国人の美女で、俺の知り合いにはこんな女性は存在しない。
だが、聖女様は明らかに俺を、ジョージではなく、譲次と呼んだ。
聖女様は一瞬俺と目が合って、ドキッとしたような、恥ずかしそうな表情を浮かべた。
だがすぐにがっかりしたような表情を浮かべ、周囲をキョロキョロと見回しだした。
「あの……、この料理を作った人はどこかしら……?あの、……、栄戸譲次という男の人だと思うのだけれど。」
オロオロとした表情で、目線を落としたり上げたりしては、俺たち全員の顔を見回している。そこには、ワガママな聖女様という雰囲気は、微塵も感じられなかった。
「ジョージ・エイトなら彼ですが?」
料理長が上に向けた手のひらを向けて、俺のことを紹介した。
聖女様は明らかにガッカリした表情で俺を見ると、
「そう……、ごめんなさい。
知り合いの料理の味付けに、とても似ていたものだから……。」
と言った。
俺は落ち着かなさそうに髪の毛をイジる聖女様の爪が、明らかにキューティクルプッシャーで整えられていることに気が付いた。
「聖女様……、その爪は……?」
「ああ、この国の元王女様から道具をプレゼントしていただいて自分でやったのよ、こっちの世界にもネイルの道具があるのね。」
「……ちょっと、よろしいですか?」
「──え?」
俺は聖女様の指を手にとって、ツルツルとした爪の部分を優しく親指で撫でた。この手入れされた爪の感触、間違いなかった。
「貴様、聖女様にいったい何を……!」
護衛の兵士たちが、俺と聖女様の間に割って入ろうとする。
だが聖女様は、俺の行為に、ハッとしたように俺の目をじっと見つめる。
俺と彼女の間にだけ通じる甘いやり取り。彼女もそれで気が付いたようだった。
「──譲次……?
あなたまさか、譲次なの……?」
「ああ。円璃花か……?」
「譲次……!こんなところで会えるなんて!
私……、私、怖かった……!!」
円璃花が泣きながら俺に抱きついてくる。その光景にギョッとする護衛の兵士たち。
「──ジョージさん、ひょっとして、聖女様とお知り合いですか?」
料理長が俺に尋ねた。
「……ええ、まあ。」
十枡円璃花(とうます・えりか)。
ネイリスト技能検定試験1級資格持ちのネイリスト。1級を持っていても技術とセンスがピンキリのネイリストたちの中で、美しく丁寧な仕上がりが評判で、スカルプネイルが得意で、自身のサロンも持っている、やり手の女社長。
──俺の、元カノです。
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