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第81話 食事を拒む聖女様③
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女王の夫であっても、前々国王様であっても、従者も付けずにたった1人で、重要な打ち合わせをしている真っ最中のところを、こんな風にひょっこり覗いてくるなんて、普通しないだろうからな。自分の立場のほうが上であろうが下であろうが。
「申し訳ありませんお祖父様。
やはり御本人が直接ノインセシア王国に向かうのは無理とのことでした。かわりにジョージ卿から料理法を教えていただくことになりましたので、それを習わせた宮廷料理人を誰か向かわせることに致します。」
「──ふむ?それなら、こちらに直接、聖女様を呼んではいかんのかの?」
不思議そうにランチェスター公が尋ねてくる。──聖女様を呼ぶ?この国に?
「ポータルを使うということでしょうか?
確かにそれを使えばすぐにでも両国間の移動は可能でしょうけど、こちらに聖女様程の方を呼びつけるというのも……。」
「同盟国であるノインセシア王国とは、王族だけが使える転移装置で結ばれておる。
それを使って、聖女様にこちらに来ていただいてはどうかね?
そもそも頼んでいるのはあちらの方なのだし、早ければ早いほうがいいのだろう?
今から料理人に大量に料理方法を覚えさせるよりも、ずっと建設的だと思うがね。」
「もしそれをノインセシア王国側に了承していただけるのであれば、ジョージが直接料理を作ることも可能だと思いますけれど……。
前回の聖女様と勇者様が現れた当国に、聖女様がいらしたことを知られては、他の国の反発があるのでは?」
セレス様が柳眉を下げる。
たしかに、また同じ国に聖女様がいるというのは、面白くないと感じる国もあるかもしれないなあ……。聖女様に取り入って、自分たちのものにしようと思っていると、考える国があってもおかしくはないよな。
どうしたって、出現した国から優先的に瘴気をはらうことになるだろうし……。
「聖女様が食事を取らなくなってからかなり経つ。ことは一刻を争う。
ノインセシア王国は了承してくれるであろうし、他の国も聖女様が救われれば、認めざるをえないだろう。
聖女様がこのまま弱って瘴気を払ってくださらなくなるのと、どちらがよいのか、考えるまでもないことだ。」
「……分かりました、では、その方向で打診するよう、国王様に報告致します。」
セレス様がそう言い、ランチェスター公はにこやかに微笑んだ。
「うんうん。──ところで、ジョージとやらは、そなたかね?」
「は、はい。」
ひげを下に引っ張るようにさするランチェスター公が、いたずらっぽい表情で俺に笑いかけた。
「孫娘と曾孫が、そなたの料理に夢中だと聞いていての。ぜひワシにも振る舞ってくれんかね?異国の料理とやらを、ぜひワシも食べてみたいのだ。」
「そ、そんな、恐れ多いです。
俺の作るものは、ほんの家庭料理で、やんごとなき方々に振る舞うような、大層なものではありません。」
「じゃが、それを聖女様は望んでおるのだろう?なら、聖女様に振る舞う時のついでで構わんから、ワシの分も作ってくれんかの。」
「そ、そのくらいでしたら……。」
そこまで言われてはとても断れない。
重鎮らしく、目の前にした時の威圧感もしっかりあるのだが、こんな重要な会議に突然ひょっこり顔を出すような、どこかお茶目でやんちゃな印象のあるランチェスター公。
セレス様とパトリシア様の性格は、完全にこの人の遺伝だな……。
「そういうことなら善は急げだ。ワシからノインセシア王国に打診をしよう。
別に国同士を通じて正式なやりとりなんぞをせんでも、ザカスのはなたれ小僧はワシに頭が上がらんでな。昔あやつが泣いて頼むから、ワシの娘を嫁にくれてやったんだ。
ワシからの連絡であれば、二つ返事で聖女様をこの国に送ってくるだろうよ。」
同盟国って話だったが、親戚でもあるということか。まあ、王侯貴族の結婚なんて、大体打算と家どうしのつながりによる政略結婚だと思うが、泣いて頼んだのは大げさだとしても、ザカスさんとやらは恋愛結婚だったんだな。王族でもそんなこともあるのか。
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「申し訳ありませんお祖父様。
やはり御本人が直接ノインセシア王国に向かうのは無理とのことでした。かわりにジョージ卿から料理法を教えていただくことになりましたので、それを習わせた宮廷料理人を誰か向かわせることに致します。」
「──ふむ?それなら、こちらに直接、聖女様を呼んではいかんのかの?」
不思議そうにランチェスター公が尋ねてくる。──聖女様を呼ぶ?この国に?
「ポータルを使うということでしょうか?
確かにそれを使えばすぐにでも両国間の移動は可能でしょうけど、こちらに聖女様程の方を呼びつけるというのも……。」
「同盟国であるノインセシア王国とは、王族だけが使える転移装置で結ばれておる。
それを使って、聖女様にこちらに来ていただいてはどうかね?
そもそも頼んでいるのはあちらの方なのだし、早ければ早いほうがいいのだろう?
今から料理人に大量に料理方法を覚えさせるよりも、ずっと建設的だと思うがね。」
「もしそれをノインセシア王国側に了承していただけるのであれば、ジョージが直接料理を作ることも可能だと思いますけれど……。
前回の聖女様と勇者様が現れた当国に、聖女様がいらしたことを知られては、他の国の反発があるのでは?」
セレス様が柳眉を下げる。
たしかに、また同じ国に聖女様がいるというのは、面白くないと感じる国もあるかもしれないなあ……。聖女様に取り入って、自分たちのものにしようと思っていると、考える国があってもおかしくはないよな。
どうしたって、出現した国から優先的に瘴気をはらうことになるだろうし……。
「聖女様が食事を取らなくなってからかなり経つ。ことは一刻を争う。
ノインセシア王国は了承してくれるであろうし、他の国も聖女様が救われれば、認めざるをえないだろう。
聖女様がこのまま弱って瘴気を払ってくださらなくなるのと、どちらがよいのか、考えるまでもないことだ。」
「……分かりました、では、その方向で打診するよう、国王様に報告致します。」
セレス様がそう言い、ランチェスター公はにこやかに微笑んだ。
「うんうん。──ところで、ジョージとやらは、そなたかね?」
「は、はい。」
ひげを下に引っ張るようにさするランチェスター公が、いたずらっぽい表情で俺に笑いかけた。
「孫娘と曾孫が、そなたの料理に夢中だと聞いていての。ぜひワシにも振る舞ってくれんかね?異国の料理とやらを、ぜひワシも食べてみたいのだ。」
「そ、そんな、恐れ多いです。
俺の作るものは、ほんの家庭料理で、やんごとなき方々に振る舞うような、大層なものではありません。」
「じゃが、それを聖女様は望んでおるのだろう?なら、聖女様に振る舞う時のついでで構わんから、ワシの分も作ってくれんかの。」
「そ、そのくらいでしたら……。」
そこまで言われてはとても断れない。
重鎮らしく、目の前にした時の威圧感もしっかりあるのだが、こんな重要な会議に突然ひょっこり顔を出すような、どこかお茶目でやんちゃな印象のあるランチェスター公。
セレス様とパトリシア様の性格は、完全にこの人の遺伝だな……。
「そういうことなら善は急げだ。ワシからノインセシア王国に打診をしよう。
別に国同士を通じて正式なやりとりなんぞをせんでも、ザカスのはなたれ小僧はワシに頭が上がらんでな。昔あやつが泣いて頼むから、ワシの娘を嫁にくれてやったんだ。
ワシからの連絡であれば、二つ返事で聖女様をこの国に送ってくるだろうよ。」
同盟国って話だったが、親戚でもあるということか。まあ、王侯貴族の結婚なんて、大体打算と家どうしのつながりによる政略結婚だと思うが、泣いて頼んだのは大げさだとしても、ザカスさんとやらは恋愛結婚だったんだな。王族でもそんなこともあるのか。
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