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第80話 温泉への招待③
しおりを挟む「あら、ジョスラン侍従長のことだって、私は招待したいと思っていたのよ?
だけどあなたは仕事の虫なんだもの。
たまにはゆっくりなさいな。」
「わたくしは従者の立場です。セレス様の別荘でくつろぐなど、もってのほかです。」
ジョスラン侍従長は頑として首を縦に振らなかった。
「私も兄も弟も、パトリシアも、パトリシアの弟たちも、……ずっとあなたに育ててもらってきたわ。
あなたがいなければ、今の私たちはないとすら思ってる。
私が、そんなあなたを招待したいと思うのが、そんなに不思議なことかしら?」
「セレス様……。」
「ジョスランが従わないのであれば、私お父様にお願いして、お休みをもぎ取った上でジョスランについてきて貰えるようにするわ!
それなら付いてこざるをえないでしょ?」
パトリシア王女がいたずらっぽく笑う。
「セレス様……、パトリシア王女……。」
ジョスラン侍従長は表情を変えないように必死だったが、感動しているのがありありと分かった。
「ジョスラン侍従長、あちらでご一緒した際には、珍しい酒をお持ちいたしますので、一緒に楽しみませんか?いける口ですよね?
一度ジョスラン侍従長と一緒に、飲んでみたいと思っていたのです。」
「──め、珍しい酒ですか!?あ、いや、オッホン。それは悪くないですな。」
セレス様とパトリシア王女がくすくすと笑う。やはりだいぶ酒は好きなようだ。
「それじゃあ、招待客は、ジョージ、パトリシア、ジョスラン侍従長、サニーさん、サニーさんの奥様、ニュートンジョン侯爵夫人、ニュートンジョン侯爵、それにエドモンドさんで決まりね!」
「お、俺もですか!?」
エドモンドさんが驚く。
「もちろんよ、全員がこの場で楽しそうにしているのに、あなた一人だけのけものになんてしないわよ?あなたも先日の招待客の一人でしたでしょう?ご迷惑をかけたお詫びと、私たちがささえるコボルトの店を作る関係者の懇親会だと思って、ぜひいらしてちょうだいな。」
「は……。ありがたき幸せに存じます。
──ルピラス商会副長、エドモンド・ルーファス、謹んで殿下のご招待をお受けさせていただきます。」
かしこまって挨拶をするエドモンドさんに、セレス様が、私もう殿下ではなくてよ?と微笑み、あ、いや、とエドモンドさんが焦って、パトリシア様がフフフ、と笑った。
「あ!そうだわ!
そう言えば、ジョージに聞きたいことがあったのよ!大事なことだったのに、すっかり忘れてしまっていたわ!」
セレス様がハッとしたように表情を変えてそう言った。
「大事なこと……ですか?俺に?」
化粧品の他に、なにか頼まれていたことがあったっけな?
「──ジョスラン。」
セレス様が目配せをして、部屋に残っていた残りの従者たちを、ジョスラン侍従長が部屋から退室させた。
よほど重要な話らしい。部屋の空気が変わる。俺はつばを飲み込んだ。
「あの……、俺は聞いていても問題ないのでしょうか?」
エドモンドさんが恐縮したように尋ねる。
「あなたもあの場で聞いていたのだから、問題はないわ。」
セレス様がそう言った。
エドモンドさんが一緒にいて、聞いていた話で、人払いをしてまで話す重要なことってなんだ……?あ、まさか!
俺とエドモンドさんが顔を見合わせる。
「──ええ。
ノインセシア王国に、ついに聖女様が降臨なされたわ。そのことについてなの。」
──ついに現れたのか!聖女様!
瘴気を払う為に重要な存在。聖女と勇者が現れれば世界は救われるとされている。
その聖女様がついに!
けど、そのことが俺と、一体何の関係があるのだろう?
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