こじらせ中年の深夜の異世界転生飯テロ探訪記

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

文字の大きさ
上 下
233 / 470

第75話 カーバンクルの守護③

しおりを挟む
「俺に用事というのは?」
「この子のことだ。」
 カーバンクルは、一番大きなオムツウサギの子を見ながら言った。
「この子はこの地ではなく、お主を守護したいと言って来た。
 どうか共に連れて行ってやって欲しい。」

「ええ!?
 で、ですが、こんなに小さいのに、親兄弟と離れて暮らすのは……。」
「いつかは別の地を守護することになる。
 それが遅いか早いかの違いだけだ。
 我らのことを考えてくれるのであれば、時々会いに来て欲しい。それで構わない。」

 困ったな……。うちにはカイアもいることだし、一緒に暮らすとなると……。
 悩んだ挙げ句、俺はこの子を引き取るかどうかを、カイアに決めて貰うことにした。
 カイアをマジックバッグから出し、カイアの目線にしゃがみこんだ。

「カイア、あのな?これからお友だちが、俺とカイアと一緒に住みたいって言うんだが、カイアはどうしたい?」
 カイアは一番大きなオムツウサギの子の目をじっと見つめた。
「ピョルッ!ピョルッ!」

 カイアは嬉しそうに両方の枝をブンブンと振った。そして一番大きなオムツウサギの子のところに行き、そっとオムツウサギの子を抱きしめる。オムツウサギの子も嬉しそうに抱き返した。どうやらカイアは、この子と一緒に暮らしたいようだな。

「うちの子が歓迎しているようなので、引き受けることにします。」
「そうか、それは良かった。では、この子に名をつけてやって欲しい。」
「ええ!?そういうのは、親御さんがするものなのでは……。と言うか、この子たちには名前がないのですか?」

「ない。我もない。精霊が人間単体を守護する場合、守護対象に付けられるのが通常だ。
 名付けを受け入れその者を守護する。」
「うーん、名前……。名前かあ……。
 あ、そうだ、精霊の力が高まると、俺が精霊魔法を使えるようになると言われたのですが、カーバンクルも魔法を使うのですか?」

「使う。ドライアドは土と水属性。
 カーバンクルは風と闇属性だ。だがどちらも力が高まれば、聖属性の魔法を使う。
 この子はまだ最近、風属性が使えるようになったばかりだがな。」
「──じゃあ、君の名前はアエラキだ!
 優しい風、という意味だよ。」

「ピイイイイ!」
 嬉しそうにアエラキが、ピョンピョンと俺のまわりを跳ねた。
 本当はギリシャ語で、そよ風という意味なんだが、優しい風という表現のほうが、この子に合っている気がした。

「じゃあ、連れて帰ります。たぶんですが、近いうちに、パーティクル公爵家の温泉がこの山にあって、そこに招待される予定なので、その時にでもまたお伺いしますね。」
「ああ、もう少し上の方に、大きな人間の家があったな。万年雪の降る場所だ。」

「はい、恐らくそこかと。
 では、その時まで。」
「ああ。」
「人間に見られるとまずいから、アエラキはカイアと一緒に、マジックバッグの中に入っていてくれな。さあ、お父さんお母さんと、兄弟たちにバイバイしような。」

 アエラキが家族に手を振る。カイアも一緒に手を振った。2人をマジックバッグの中に入れ、俺は洞窟の外に出た。
 外では、足元から冷えてきたのか、男性2人が少し寒そうに震えながら、全員で洞窟を見守っていた。

「用事が済みました。」
「なんだったのですか?」
「ここに来た時に、俺が地面に絨毯を敷いてやったのですが、それを貰ってもいいかということでした。暖かくて、とても喜んでくれたようです。」

 まあ、嘘は言っていない。全部を言っていないというだけだ。
「そうでしたか。我々はすぐにこのことをギルドに報告致します。クエストもこれにて完了ということで結構です。お帰りいただいても大丈夫ですよ。」

「ありがとうございます。
 それでは、まだ帰りの馬車に間に合いそうなので、俺はこのまま宿を引き払って、失礼させていただきますね。」
 人々の信仰が高まれば、この地は安全だろう。そうなると、楽しみだなあ、温泉。

 だけど、カイアに続いて、まさかの守護精霊が2人目か……。俺が本当に精霊魔法が使えるようになったら、あんまり知られないようにしたほうがいいだろうなあ。カイアの加護だけでも珍しいと言われたのに、こんな人間他にいるとは思えないものな。

 けど、カイアに一緒に暮らしてくれるお友だちが出来たのは嬉しい出来事だったな。
 何より、俺には分からないカイアの言葉が通じているらしいのがありがたい。
 これからはカイアも、お友だちとたくさんおしゃべりが出来るようになるな。

 カイアは大人しい子ではあるけど、誰とも話せないのと、話さないのは違うしな。
 早く俺とも話せるようになれる日が来ないかな。最初になんて言ってくれるだろう。
 俺はその日を想像しながら山を降りて宿に戻り、チェックアウトすることを告げて、家に向かう馬車に乗ったのだった。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...