230 / 470
第74話 イエティの正体④
しおりを挟む食べてすぐ、どちらもスッと起き上がり、オムツウサギたちは大泣きしながら両親にそれぞれ抱きついた。
「……お主が助けてくれたのか、人間よ。礼を言う。子どもも世話になったようだ。」
黒いモヤのかかっていた白い巨大なウサギが、俺の方を向いて話しだした。
「喋れるのか!?」
びっくりしている俺に、
「我らはカーバンクル、雪の精霊。
大きくなると、すべての生き物と言葉を交わすことが出来る。」
と答えてくれた。精霊の子はみんなカイアみたいな顔をしているものなのかな?
「そちらは木の精霊の子株……、いや、親株か?そなたたちが加護を与えてくれたおかげだ。力を取り戻すことが出来た。」
「あれは……、やはり瘴気なんですか?」
「そうだ。聖なるものと、悪しきもの程取り憑かれやすい。恥ずかしながら我も取り憑かれてしまった。」
「俺はここに住むという、黒いモヤがかかったイエティの様子を見に来たんですが、そういう魔物はいますか?ひょっとして……。」
「恐らく我を見間違えたのであろう。
この山にイエティはおらぬ。
我が力を取り戻したからには、もうこの山は安心と思ってもらってよい。」
俺は思わずホッとした。
「そうですか。ではそのように報告しておきます。お体はもう、大丈夫ですか?」
「なんともないようだ。」
一番大きなオムツウサギの子が、目にいっぱい涙をためて、親に抱きついた。
「心配をかけた。もう大丈夫だ。」
カーバンクルが、我が子をそっと抱きしめた。そこに戦っていた別のカーバンクルもやってきて、我が子を抱きしめているカーバンクルの体ごと、そっと包み込むように抱きしめた。他の子どもたちもそれに続いた。
「お主たちには、瘴気を払う力が備わっているようだ。」
「俺も……ですか?」
「お主の体は、神につかわされたもののようだ。強い加護の力を感じる。」
やはり俺の体は、勇者に与える為のものだったということか。聖女様ほどでないにしても、そういった力があるということなのか。
「そこな木の精霊の親株も同様だ。お主よりも強い力を感じる。」
先程の光はそれなのか。いずれカイアは瘴気を払う力を持つだろうと言われていたが、こんなにも早くその力が開花するとは。今回のことをギルドにどう説明しよう。
「あの……。お伺いしたいのですが。」
「なんだ。」
「精霊は瘴気を払う力があるのですよね?
でしたら、なぜ今回あなたは取り憑かれてしまったのでしょうか?
うちのカイアにも、その可能性があるということでしょうか?」
俺が心配なのはそこだった。同じドライアドの子株である、コボルトの集落のドライアドがそうだったように、カイアが瘴気に取り憑かれてしまう可能性だってあるのだ。
「精霊は瘴気を払う力を持つ。同時に瘴気に取り憑かれやすくもある。」
俺はゴクリとつばを飲み込んだ。
「だが、信仰と愛により、その力は強くも弱くもなる。このあたりの人間は、我らの存在を忘れてしまった。だから我らの力が弱くなってしまったのだ。
お主を信じている限り、そこな精霊が取り憑かれることはないであろう。」
「カイア……!良かった……!」
俺はカイアを抱き上げた。
だけど、瘴気に取り憑かれることもなく、払う力を持ったということは、人間たちにその力を求められるということだ。
一人二人なら俺も救えるものなら救いたいと思うが、さすがに世界を救う戦いにかりだされるわけにはいかない。
数ヶ月後に現れるという聖女様が降臨されるまで、カイアの力を知られないようにしなくては。
それまでに何事もなく過ごせればいいんだがなあ……。
カーバンクルたちに別れを告げ、俺はカイアを抱いたまま山を降りた。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
317
お気に入りに追加
1,851
あなたにおすすめの小説


【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる