こじらせ中年の深夜の異世界転生飯テロ探訪記

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

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第72話 ロバート・ウッド男爵④

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 商売がうまくいっていないところに、妻の実家に何やら大金が入ると見て、猫なで声を出し始めた。
 そんなにコロコロ態度を変える人間に、はいそうですかと、なびく人間はいないと分からないらしい。

「私は男爵家の人間ではありませんから、助ける義務などございませんよね、男爵様。
 対等な関係ではない、ただの平民でございますよ。そんな平民の金を、男爵様ほどの方が、あてになさるというのですか?」
 アラベラさんが冷たく突き放す。

「なんだと!?
 生意気な!」
 ウッド男爵がいきなりズカズカと、こちらに早足で寄って来たかと思うと、手にしていた杖を振りかざして、身重のジャスミンさんに殴りかかる。
「きゃあああああ!!」

 ジャスミンさんをアラベラさんがかばうように抱え込み、殴ろうとしていたウッド男爵の手首を、俺が掴んで止めた。
「……なん……だ、貴様、離したまえ。」
「──こうやって、普段から殴っていたんですね、身重の奥さんを。妊娠中に馬車に乗って逃げる程までに追い詰めて。」

「私が妻にどういう教育を施そうが、こちらの問題だ。よその家庭に口を挟まないでいただこう。今すぐその手を離したまえ。」
「ジャスミンさんが流産しなかったのは、奇跡みたいなものですよ。今頃あなたの自身の手で、自分の子どもを殺していたかも知れないのに、それが分からないのですか?」

「子どもが生まれる前に死んだら、それは妻の体の問題だ!私には関係ない!
 うあああああっ!?」
 俺は手首を掴んだ手に、ギリギリと力を込める。ウッド男爵が杖を取り落とした。
 憎々しげにウッド男爵が俺を睨んでくる。

「お前……。ジャスミンの新しい男か。
 ──ジャスミン!よくも!離婚したいというのはそういうことなんだな!
 腹の子は本当に私の子なのか!
 答えろ!ジャスミン!」
 ──パアン……!

 それまでされる一方だったジャスミンさんが、ウッド男爵を泣きながら平手打ちして、ウッド男爵の帽子がふわりと落ちる。ウッド男爵は驚いた目でジャスミンさんを見た。
「それだけは……、絶対に許さないわ!
 私は……、私はあなたを……、心から愛していたのに。──それを疑う言葉だけは、絶対に許さない!!」

 大粒の涙をこぼしながら睨むジャスミンさんに、毒気を抜かれたように力を落とすウッド男爵。
「ジャスミン、私は……。」
「帰って!帰ってください!
 二度と来ないで!」

 ウッド男爵は、力なく帽子を拾ってかぶりなおすと、
「……また来る。」
 と言って宿を出て行った。
「レモンのハーブソルトの販売利用許可・不許可者に、ロバート・ウッド男爵を登録しておいた方がいいだろうな。」

 とエドモンドさんが言った。
「いずれはウッド男爵も、エディブルマッシュの大量取引でないことに気が付くだろう。
 それに、もうすぐ土地取引に関する、パトリシア王女の保証書類が出来上がる。
 そうなったら、彼の土地は最安値で取り上げられるんだ。男爵の地位と共にな。そうなれば、ジャスミンさんの実家の商売に目を付けて、くらいついてくることだろう。」

「──わかりました、そうしておきます。」
 ジャスミンさんは、夫を愛していると言った。ということは、昔は優しい人だったのだろうか。人は環境でいくらでも変わる。
 もともと気質がなかった人でも、いくらでもDVの加害者になることはあるのだ。

 愛している人にされるから辛い。
 なかなか別れられずに被害が加速する。
 それがDVというものだ。
 どちらにせよ出産が控えている状態の女性に、あの夫を近付けるのはよくないだろう。
 コボルトの店を始める前に、ウッド男爵とはもうひと悶着ありそうだな、と思った。

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