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第71話 レモンのハーブソルトとレモネード③
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ふと、いいにおいにひかれて振り返ると、ナインテイルの肉だという焼串を売っている店が目に入った。
朝食を食べてから、まだそんなに経っていないんだが、このにおいはなかなかに暴力的だな。ちょっと腹が減ってきた気がする。
俺はナインテイルの焼串を買って食べてみた。以前ナナリーさんのところで、ナインテイルのタンのスープを食べたが、これは普通の肉の部分らしい。柔らかいがきちんと歯ごたえもあって、満足感がある。
〈ナインテイルの焼串〉
ホーマをすりつぶしたものと、塩で味付けされたナインテイルの肉。
〈ホーマ〉
芳香を持つ多年生植物で、茎が木化する木本。煮込み料理や香草焼きに広く使われる。タイムに似た味。
ふむ。レモンがあると更にいいな。
俺はそう思いながらも肉をほおばった。
食べ歩きしながら街を見ていると、向かう先にジャスミンさんが、お友達と一緒にカフェのオープンテラスでお茶をしているのが目に入った。
なにやら深刻そうな表情をしている。
俺はそのまま横を通り過ぎた。
「……でも、旦那様はどうするの?」
「もう、離婚するわ。耐えられないの。」
「仕事はどうするのよ?お母さんは宿屋をやっているとはいえ、星祭の時期以外は、そこまでお客が来ないないじゃない。」
通り過ぎる時、何やら不穏な会話が耳に入ってきた。身重の体で馬車にのってまで実家に帰ってきたのには、やはりなにか事情があったらしい。まあ、俺が首を突っ込む話でもないな、聞かなかったことにしよう。
俺は道行く人にキシンの街の冒険者ギルドの場所をたずね、到着の挨拶に向かった。
キシンの街は山のふもとにあり、すぐ横に見える大きな山が、目指す目的地だった。
万年雪があると言っても、今の時期は山頂に行かなければ寒くないらしく、街の人達も普通に薄着で歩いていた。
宿に戻り、受付で戻ったことを告げて、部屋の鍵を受け取っていると、ジャスミンさんが落ち込んだ表情で戻ってきた。
階段を上がり、部屋に戻ろうとすると、
「それで……、いつまでいるつもりなの?」
「ここに住んじゃ駄目?お母さん。」
とやり取りしているのが聞こえてくる。
「あんたと子どもまで養うようなお金はうちにはないよ。頭を下げて旦那さんのところに戻りなさいな。」
「嫌……、もう嫌なの……。無理だわ。」
ジャスミンさんの、押し殺したような、すすり泣く声が聞こえてくる。
俺は逡巡してから、階段から降りた。
「──お金があれば、いいんですか?」
ジャスミンさんとアラベラさんが、驚いた表情でこちらを見ている。
「すみません、他人が口を挟むことではないと思ったのですが……。
妊婦さんが逃げてくるなんてよほどのことがあったんだと思います。」
ジャスミンさんがすがるような目で俺を見ていた。
「家で作れる、新しい商品を売ってみてはいかがですか?俺がジャスミンさんにだけ販売許可を出せば、それで少しはお金が入ってくるようになると思います。」
「家で作れる……商品?」
「ええ。
ジャスミンさん、料理は出来ますか?」
「はい、もちろん……。」
「では、ハーブソルトを作りましょう。」
「ハーブソルト?」
「肉や魚の味付けに使うものです。
この地方には似たようは味付けがあったので、受け入れられやすいと思いますよ。」
せっかくだから、俺の世界の素材だけじゃなく、この世界のものを使うか。
俺はホーマ(タイム)、レモン、粗塩というしっとりとした塩、キッチンペーパータオルを出した。
ホーマ(タイム)を水洗いし、重曹を溶かした水でレモンをよく洗って、レモンはそのまま重曹液に最低10分つける。
キッチンペーパータオルで水を拭き取り、レモンの皮をむき、ホーマ(タイム)とレモンの皮をみじん切りにする。
フライパンに粗塩と、みじん切りにしたホーマ(タイム)と、むいたレモンの皮を、10対2.5対1の割合で入れて、弱火でじっくりと、焦がさないように気をつけながら、水分を飛ばすようにかき混ぜる。
塩がパラパラになり、粗熱が取れたら瓶などに入れて、レモンのハーブソルトの出来上がりだ。
無農薬のノーワックスレモンなら水洗いだけでいいが、不明だったので今回は重曹で洗った。
レモンの皮はなくてもいいが、あったほうが美味い。レモンの皮と塩だけのレモンソルトというのもあるし、タイムと相性がいい。
リキュールやオイルの原料にもなるし、レモンは意外と使い道があるのだ。
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朝食を食べてから、まだそんなに経っていないんだが、このにおいはなかなかに暴力的だな。ちょっと腹が減ってきた気がする。
俺はナインテイルの焼串を買って食べてみた。以前ナナリーさんのところで、ナインテイルのタンのスープを食べたが、これは普通の肉の部分らしい。柔らかいがきちんと歯ごたえもあって、満足感がある。
〈ナインテイルの焼串〉
ホーマをすりつぶしたものと、塩で味付けされたナインテイルの肉。
〈ホーマ〉
芳香を持つ多年生植物で、茎が木化する木本。煮込み料理や香草焼きに広く使われる。タイムに似た味。
ふむ。レモンがあると更にいいな。
俺はそう思いながらも肉をほおばった。
食べ歩きしながら街を見ていると、向かう先にジャスミンさんが、お友達と一緒にカフェのオープンテラスでお茶をしているのが目に入った。
なにやら深刻そうな表情をしている。
俺はそのまま横を通り過ぎた。
「……でも、旦那様はどうするの?」
「もう、離婚するわ。耐えられないの。」
「仕事はどうするのよ?お母さんは宿屋をやっているとはいえ、星祭の時期以外は、そこまでお客が来ないないじゃない。」
通り過ぎる時、何やら不穏な会話が耳に入ってきた。身重の体で馬車にのってまで実家に帰ってきたのには、やはりなにか事情があったらしい。まあ、俺が首を突っ込む話でもないな、聞かなかったことにしよう。
俺は道行く人にキシンの街の冒険者ギルドの場所をたずね、到着の挨拶に向かった。
キシンの街は山のふもとにあり、すぐ横に見える大きな山が、目指す目的地だった。
万年雪があると言っても、今の時期は山頂に行かなければ寒くないらしく、街の人達も普通に薄着で歩いていた。
宿に戻り、受付で戻ったことを告げて、部屋の鍵を受け取っていると、ジャスミンさんが落ち込んだ表情で戻ってきた。
階段を上がり、部屋に戻ろうとすると、
「それで……、いつまでいるつもりなの?」
「ここに住んじゃ駄目?お母さん。」
とやり取りしているのが聞こえてくる。
「あんたと子どもまで養うようなお金はうちにはないよ。頭を下げて旦那さんのところに戻りなさいな。」
「嫌……、もう嫌なの……。無理だわ。」
ジャスミンさんの、押し殺したような、すすり泣く声が聞こえてくる。
俺は逡巡してから、階段から降りた。
「──お金があれば、いいんですか?」
ジャスミンさんとアラベラさんが、驚いた表情でこちらを見ている。
「すみません、他人が口を挟むことではないと思ったのですが……。
妊婦さんが逃げてくるなんてよほどのことがあったんだと思います。」
ジャスミンさんがすがるような目で俺を見ていた。
「家で作れる、新しい商品を売ってみてはいかがですか?俺がジャスミンさんにだけ販売許可を出せば、それで少しはお金が入ってくるようになると思います。」
「家で作れる……商品?」
「ええ。
ジャスミンさん、料理は出来ますか?」
「はい、もちろん……。」
「では、ハーブソルトを作りましょう。」
「ハーブソルト?」
「肉や魚の味付けに使うものです。
この地方には似たようは味付けがあったので、受け入れられやすいと思いますよ。」
せっかくだから、俺の世界の素材だけじゃなく、この世界のものを使うか。
俺はホーマ(タイム)、レモン、粗塩というしっとりとした塩、キッチンペーパータオルを出した。
ホーマ(タイム)を水洗いし、重曹を溶かした水でレモンをよく洗って、レモンはそのまま重曹液に最低10分つける。
キッチンペーパータオルで水を拭き取り、レモンの皮をむき、ホーマ(タイム)とレモンの皮をみじん切りにする。
フライパンに粗塩と、みじん切りにしたホーマ(タイム)と、むいたレモンの皮を、10対2.5対1の割合で入れて、弱火でじっくりと、焦がさないように気をつけながら、水分を飛ばすようにかき混ぜる。
塩がパラパラになり、粗熱が取れたら瓶などに入れて、レモンのハーブソルトの出来上がりだ。
無農薬のノーワックスレモンなら水洗いだけでいいが、不明だったので今回は重曹で洗った。
レモンの皮はなくてもいいが、あったほうが美味い。レモンの皮と塩だけのレモンソルトというのもあるし、タイムと相性がいい。
リキュールやオイルの原料にもなるし、レモンは意外と使い道があるのだ。
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