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第71話 レモンのハーブソルトとレモネード②
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馬車がキシンの町につき、ジャスミンさんがあぐらを崩して靴を履き、ソファから立ち上がろうとするのを、乗客たちが手助けしようとする。
「この椅子、一人でも大丈夫そうです、皆さんありがとうございます。」
そう言って、ジャスミンさんは一人でソファから立ち上がった。
「本当にありがとうございました。
実家はこの街で宿を経営してますので、よろしければみなさんお立ち寄りください。」
ジャスミンさんが乗客一人一人にお礼を言う。宿に用事のない乗客たちは、大丈夫だ、気をつけてな、と声をかけて去って行った。
食堂もやっているというので、せっかくだからと何人かの乗客と、宿を探すつもりでいた俺が、ジャスミンさんの実家の宿に立ち寄ることにした。
「──ただいま、お母さん。
お客様を連れてきたわ。」
ジャスミンさんがドアをあけて中に声をかける。
受付には年配の女性が一人と、猫の獣人らしき女性の姿があった。コボルト以外で獣人を見るのは初めてだな。
コボルトと違って、口元は猫のそれだが、目元は人間ぽいな。
みなさんが馬車で助けてくれたの、とジャスミンさんが母親らしき女性に告げると、年配の女性が、まあまあまあ、と言いながら近付いてきた。やはり母親らしい。
「身重の娘を気遣って下さったそうで、本当にありがとうございます。」
いやいや、大したことじゃねえよ、妊婦が馬車に乗るだなんて、俺たちも心配だったしな、と、乗客たちが照れながら答える。
堂々と褒められたりお礼を言われるのが、恥ずかしいようだった。いい人たちだ。
食事をしにきたのだという乗客たちに、ジャスミンさんのお母さんは、食堂に案内するよう、猫の獣人に声をかけた。乗客たちがいなくなり、俺はジャスミンさんのお母さんに声をかけた。
「俺は宿を探しているのですが……、あいてますでしょうか?」
「ああ、はい。ただ、まだ受付時間ではないので、今から入られるとなると、追加料金をちょうだいしますがよろしいですか?
星祭が近いので、あとから来られると、埋まってしまう可能性があるので、その方がいいかも知れません。」
「星祭?」
お祭りがあるのか。それで人の移動が多かったのかな?
「宿は予約が出来ませんので、お金を持っている商人の方なんかは、人を雇って、星祭の日まで宿を連泊させて確保する、なんてこともされるんですよ。それで宿がいっぱいになってしまうんです。」
「ああ、それでしたら、今から入ろうと思います。」
「わかりました。」
ジャスミンさんのお母さんは、受付の手続きを開始してくれ、俺は前金を払って宿帳に名前を書いた。
「ちなみに、星祭というのは、どんなお祭りなんですか?」
「毎年今の時期になると、たくさんの星が一気に流れるんです。
それに合わせて願いを紙に書くんですよ。
今年は晴れそうなので、みんなも楽しみにしているんです。」
流星群と七夕を合わせたような祭りかな?
明かりが少ないから、きっときれいに見えるだろうな。ちょっと見てみたい。
前世でも毎年流れる流れ星というのはあって、国によっては、まるで目の前を流れているように見える国もあるらしい。
定期的に流れるのだが、それを知らない国の女性旅行者を、現地の男性が騙すのに利用している……、というので知ったんだが。
女性はロマンチックで特別な出来事があると、すぐに運命だと思ってしまう傾向にあるらしく、騙された被害者の女性が、それを教えられて驚愕していたなあ。
カイアにも見せてやりたいな。
俺は改めてこの町に来ようと思い、星祭の日を確認した。
何があるかわからないので、宿は一応2日分取った。
山に登るのは明日だし、俺はまだ腹が減っていないから、少しこの町を見て回ろうと思った。
外出することをジャスミンさんの母親──アラベラさんに告げ、部屋の鍵を預けて宿の外に出る。
観光客が定期的にやってくるからか、王都ほどではないにしても、かなり発展している感じだった。家はレンガ造りだし、道も石で舗装されている。
家人の趣味なのか、観光向けに街全体で景観を揃える為決まりごとでもあるのか、どの家も2階の窓のへりには、かわいらしい鮮やかな花の植木鉢が3つから4つ並んでいる。
キシンの街は、眺めているだけでも、楽しい気分にさせてくれる、美しい街だった。
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「この椅子、一人でも大丈夫そうです、皆さんありがとうございます。」
そう言って、ジャスミンさんは一人でソファから立ち上がった。
「本当にありがとうございました。
実家はこの街で宿を経営してますので、よろしければみなさんお立ち寄りください。」
ジャスミンさんが乗客一人一人にお礼を言う。宿に用事のない乗客たちは、大丈夫だ、気をつけてな、と声をかけて去って行った。
食堂もやっているというので、せっかくだからと何人かの乗客と、宿を探すつもりでいた俺が、ジャスミンさんの実家の宿に立ち寄ることにした。
「──ただいま、お母さん。
お客様を連れてきたわ。」
ジャスミンさんがドアをあけて中に声をかける。
受付には年配の女性が一人と、猫の獣人らしき女性の姿があった。コボルト以外で獣人を見るのは初めてだな。
コボルトと違って、口元は猫のそれだが、目元は人間ぽいな。
みなさんが馬車で助けてくれたの、とジャスミンさんが母親らしき女性に告げると、年配の女性が、まあまあまあ、と言いながら近付いてきた。やはり母親らしい。
「身重の娘を気遣って下さったそうで、本当にありがとうございます。」
いやいや、大したことじゃねえよ、妊婦が馬車に乗るだなんて、俺たちも心配だったしな、と、乗客たちが照れながら答える。
堂々と褒められたりお礼を言われるのが、恥ずかしいようだった。いい人たちだ。
食事をしにきたのだという乗客たちに、ジャスミンさんのお母さんは、食堂に案内するよう、猫の獣人に声をかけた。乗客たちがいなくなり、俺はジャスミンさんのお母さんに声をかけた。
「俺は宿を探しているのですが……、あいてますでしょうか?」
「ああ、はい。ただ、まだ受付時間ではないので、今から入られるとなると、追加料金をちょうだいしますがよろしいですか?
星祭が近いので、あとから来られると、埋まってしまう可能性があるので、その方がいいかも知れません。」
「星祭?」
お祭りがあるのか。それで人の移動が多かったのかな?
「宿は予約が出来ませんので、お金を持っている商人の方なんかは、人を雇って、星祭の日まで宿を連泊させて確保する、なんてこともされるんですよ。それで宿がいっぱいになってしまうんです。」
「ああ、それでしたら、今から入ろうと思います。」
「わかりました。」
ジャスミンさんのお母さんは、受付の手続きを開始してくれ、俺は前金を払って宿帳に名前を書いた。
「ちなみに、星祭というのは、どんなお祭りなんですか?」
「毎年今の時期になると、たくさんの星が一気に流れるんです。
それに合わせて願いを紙に書くんですよ。
今年は晴れそうなので、みんなも楽しみにしているんです。」
流星群と七夕を合わせたような祭りかな?
明かりが少ないから、きっときれいに見えるだろうな。ちょっと見てみたい。
前世でも毎年流れる流れ星というのはあって、国によっては、まるで目の前を流れているように見える国もあるらしい。
定期的に流れるのだが、それを知らない国の女性旅行者を、現地の男性が騙すのに利用している……、というので知ったんだが。
女性はロマンチックで特別な出来事があると、すぐに運命だと思ってしまう傾向にあるらしく、騙された被害者の女性が、それを教えられて驚愕していたなあ。
カイアにも見せてやりたいな。
俺は改めてこの町に来ようと思い、星祭の日を確認した。
何があるかわからないので、宿は一応2日分取った。
山に登るのは明日だし、俺はまだ腹が減っていないから、少しこの町を見て回ろうと思った。
外出することをジャスミンさんの母親──アラベラさんに告げ、部屋の鍵を預けて宿の外に出る。
観光客が定期的にやってくるからか、王都ほどではないにしても、かなり発展している感じだった。家はレンガ造りだし、道も石で舗装されている。
家人の趣味なのか、観光向けに街全体で景観を揃える為決まりごとでもあるのか、どの家も2階の窓のへりには、かわいらしい鮮やかな花の植木鉢が3つから4つ並んでいる。
キシンの街は、眺めているだけでも、楽しい気分にさせてくれる、美しい街だった。
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