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第69話 キャンベル商人ギルド長①

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「この地区の商人ギルド長のザーカリー・キャンベルと申します。本日はよろしくおねがい致します。」
「あ、はい……。
 よろしくおねがい致します……。」
 ギルド長が出てくるのは、冒険者ギルド以来だな。また何かまずかったのだろうか?

 キャンベル商人ギルド長は、王侯貴族とやり取りすることが多いらしく、冒険者ギルドのギルド長よりも、だいぶ仕立ての良い服を着た、丁寧な物腰の人だった。
 モノクルだったか、片目だけにメガネをつけた、細身ながらにしっかりした体つきの年配の男性だ。

 コショウに驚いていたからそれだろうか。そういえば、コショウは昔金と同じ価格で取引されていたと聞いたことがあるな。
 だが、パーティクル公爵家の料理にも使っていたし、さすがにそこまでの価値ではないだろう。……ないよな?

「ジョージ様は、コショウを大量にお持ちであるとお伺いしましたが、お間違いありませんでしょうか?」
「ええ、はい、まあ。
 ああ、純粋な黒胡椒じゃないから珍しいってことですか?確かにこれは、黒胡椒と白胡椒をブレンドしたものになりますが。」

 けど別に、黒胡椒と白胡椒は、収穫時期と収穫後の処理が異なるだけで、原材料は同じものなんだけどな。
 黒胡椒は未熟果の皮付き、白胡椒は完熟果の皮なし、っていうだけだ。
「いえ、コショウはそのものが大変貴重なものになります。この国には存在せず、他の国より輸入しているものになりますので。」

 ああ……。やっぱりそっちか……。
 元の世界でも、コショウは確かインドが原産だった筈だ。
「商人ギルドの人間は、持ち込み商品の買付をおこなうこともありますので、調味料の味を研修期間中に覚えます。ですので味を知っておりますが、平民は通常コショウの味を知りません。貴族と一部の裕福な商人、及び王族のみが食べているものになります。」

「ええと……。売りに出すとまずいでしょうか?市場価格が下がるですとか……。」
「まず、そこが、こちらがジョージ様に確認したい点になります。
 ジョージ様は、コショウを一般流通させたいとお考えですか?それとも、富裕層のみが購入する商品としてお考えですか?」

「売っていないとのことでしたので、平民が気軽に買えるようにしたいのですが……。」
「でしたら、ことは簡単ではありません。
 この国だけであれば、貴重なコショウが気軽に手に入るようになることで、料理の幅も広がり、喜ばれることでしょう。
 ですが、他の国はそうはいきません。」

 キャンベル商人ギルド長の視線が鋭くなって、俺はつばも出ていないのに、喉がつばを飲み込む動きをして、空気を飲み込んだ。
「特に、コショウを貴重な外貨獲得手段にしている産出国にとっては大打撃でしょう。
 我が国で安く買い付けたコショウを、他の国に転売する輩も現れましょう。
 そうした時、考えうる最悪の事態は、産出国との──戦争です。」
 俺は再びゴクリと空気を飲み込んだ。

「昔は砂糖と塩がそうでした。
 海のない国にとっては、特に塩は貴重なものでした。単なる調味料としてでなく、生死を分ける重要なものでしたから。
 戦争の引き金にも何度もなりました。
 ですが、以前この国に現れた勇者様と聖女様が、色々な食材とともに手軽に手に入る塩と砂糖を大量にもたらされ、結果著しく値段が下がり、以来庶民も気軽に砂糖と塩を手に入れられるようになったのです。」

 以前にも同じことがあったってことか。
 まあ、砂糖と塩がほとんど手に入らない世界で、それを手に入れられる手段を持っていたなら、誰でも考えることは一緒だよな。
 塩はいろんなところから手に入るから問題はないが、コショウが一つの国に独占されているとなると、高値で売り払って一時的に小銭を稼ぐならいざ知らず、儲けるつもりでもそうでなくても、大量に販売するとなると市場が混乱して、あちらこちらから反発があるということか。

「1つの国が調味料を独り占めしていることを、よいと思っている国はありません。
 ですが戦争と混乱を招いた場合、非難されるのは我が国です。それを回避する為には、いざ売るとなった場合、この国だけでなく、すべての国に行き渡るよう、一斉にコショウの値段が下がるよう、仕向ける必要があると思います。」

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