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第56話 パーティクル公爵という人③

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 それにしても、誰でも好きな男を婿に……かあ。現国王の妹君だものな。引く手あまただったんだろうな。おまけに美人だし。
「アルフレートは、養護院に教育機関を設置したのよ。礼儀作法や学問の勉強を出来る場を設けたの。だからパーティクル公爵領の養護院を出た子どもたちは、みな良い仕事についているわ。特に優秀な子は、希望すればうちで働くことも出来るのよ。
 ナンシーはその1人ね。」

 なるほどな。だがそうなると、養護院出身で、まともな教育を受けているのは、パーティクル公爵領の子どもたちだけということになる。学ぶ機会が欲しいのは、他の養護院の子どもたちも同じだろうに。
 国がそういうのに対応しないのは、日本と同じだなあ。

 親が交通事故で亡くなった交通遺児は、それを支援する長い歴史のある公益財団法人があるけれど、それ以外の事故や、病気で親をなくしたり、離婚で片親になったり、色んな理由で学校に行かれなくなる子どもが多いのに、それに対応するNPO法人は、始まったばかりで、まだまだ活動を知られていない。

 親が急にいなくなったのは同じなのに、交通事故じゃないせいで、誰にも助けて貰えないんだ、と言った子の言葉を思い出す。
 学校に行かれない子どもたちを、国がささえていかれるようにしたほうが、将来優秀な子どもたちが、たくさんいい仕事につける機会も増えると思うんだが。

「それ以外の子どもたちはどうしているんですか?俺の知る限り、平民の子どもたちが、何かを学ぶ機会というのは、ないように思うんですが……。」
「確かに平民はそうね。学んでいるのは商人の子どもくらいかしら。学ぶよりも、すぐに働き手になることを要求されるのよ。
 子どもを預けられる家族のいる親は働きに出ているし、それを国から義務付けられてもいるわね。」

 だから若者が村にいなかったのか!
 王族が強制力を持っていることを除けば、ある種日本みたいな国だな。
 兄弟が別々の保育園や学校に通わないといけなくなったり、そもそも保育園に入れなかったりして親が大変なのに、動ける人間は働けと言い出したり、どっかずれてたんだよなあ、日本て国は。

 主婦も働いて下さい、保育園は数が足らなくて受かりません、じゃあ一時保育を使って下さい、って話が出た時は流石に呆れた。
 一時保育にいくらかかるのか知らずに言っているのだから。
 パートの時給と変わらない料金を払って一時保育に預けてまで働いたところで、所得として得たお金からは税金を引きます、一時保育のお金は控除として認めません、って、誰が働くんだ?それで。

 働くための環境を整えるほうが先だと思うんだがな、俺としては。
 そもそも孤児の支援だって、そういった民間団体に頼るのではなく、本来国がやらなきゃいけないことだと思うんだよなあ。
 この世界でも貴族に任せっきりで、国が何もしていないとなると、国民の状態を国が把握していないってことなんだろうな。

「それを知らないということは、ジョージはこの国の出身ではないのね。
 どちらからいらしたの?」
 おっと、いらないところを突きすぎたか。神に間違われて召喚されましたなんて話、下手にしてしまったら、特別な存在だと思われかねない。

「それが……。気が付いたらこの国にいまして……。それ以前の記憶が、名前しか分からないんですよね……。」
「そうだったの?記憶喪失ということね。
 それはお気の毒ね……。余計なことを聞いてしまったわね、ごめんなさい。
 家族に会いたいでしょうに……。」
 セレス様が申し訳無さそうに眉を下げる。

「いえ……もう死んだものと思うことにしましたので大丈夫です。この国の暮らしはとても楽しいですし。」
 実際、もう二度と会えないことが確定しているから、そう思うしかない。楽しいのも事実だしな。カイアもいることだし。

 俺たちが話している間にパーティクル公爵が手紙を書き終え、再びテーブルの上の金色のベルを鳴らして、部屋にナンシーさんを呼び、封蝋を押した手紙と招待状を手渡した。
「お客様がいらしたら、すぐに食事に出来るように、今いる人数に加えて、3人分を作るよう、料理長に指示してくれ。」

「かしこまりました。」
 ナンシーさんが、手紙と招待状を持って部屋を出ていく。
「3人分?どなたか他に、いらっしゃるご予定があるのですか?」
「ええ、恐らくですが、お客様は3人になるでしょうからね。念の為です。」
 訝る俺に、パーティクル公爵が微笑んだ。

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