こじらせ中年の深夜の異世界転生飯テロ探訪記

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

文字の大きさ
上 下
114 / 470

第40話 王室御用達の判断②

しおりを挟む
 コボルトの店を出すのが土地購入の目的だと分かれば、譲って貰えない可能性もあるだろうから、そこに王族が絡んでくれるのはありがたい話だが、相手に大損させてまで土地を手に入れたいとは思っていない。
 俺がそこを逡巡しているのが分かったのだろう、セレス様がニッコリと微笑んだ。

「これからお話しすることは、ここだけの話にしていただけますか?
 ──もっとも、ルピラス商会では、多少内情を掴んでいるのかも知れませんが。」
 エドモンドさんがうなずき、俺もそれに了承した。

「その土地の持ち主は、以前より異常な賃上げや、国で定めた以上の税の徴収、良からぬ輩と関わっていると進言のある人物で、証拠を押さえ次第、財産を押収し、爵位を剥奪する為、内偵に動いている人物です。国が押収後にあなたに売り渡すか、今、直接売り渡しをさせるか、それだけの違いなのですよ。」

 そんな人物だとは知らなかったが、エドモンドさんが動揺していないところを見ると、一部では有名な話なのだろう。
 それか、今回の取引の為に、ルピラス商会が調べたかのどちらかだ。
「国が押収した後だと、安く譲り渡すことが難しくなります。ですので、王族の保証のもと売買を行う方がよいのですよ。」

 貴方の為にはね、という含みをもたせた笑顔でセレス様は言った。
「さあ、せっかくの食事が冷めてしまうわ。
 まずは料理長渾身の作をいただきましょうか。それからゆっくりと、商品を見せていただくわ。」
 セレス様の言葉に、ジョスラン侍従長が手を上げ、料理長とロンメルが、テーブルの上に給仕を開始した。

 料理長渾身の作というだけあって、料理はどれも美しかった。大皿から取り分けるスタイルなのは、昔のフランスか、中華料理のコースみたいだな。フランスで小分けして出される様になったのは、フランス革命後にロシアに行った料理人が、寒冷地で冷めないように提供するやり方が、逆輸入されたものだと何かで聞いたことがある。

 前菜は季節野菜と帆立のポワレ、スープは魚のアラで作るスープ・ド・ポワソンに甘海老と香草、牛の赤ワイン煮込み。
 牛肉は実際にはミノタウロスだし、どれも実際の食材の名前は違うけれど、馴染みのある味の高級版といった感じだ。
 あれからすぐに飾り切りを研究したのか、花びらの形に切られた野菜たちが周囲を彩っている。
 さすが宮廷料理人、研究熱心だなあ。

 料理はフランス寄りなのかな?と思っていたら、デザートはイタリア料理のスフォリアテッラだった。まあ、フランス料理の源流はイタリア料理だとは言うけれど。
 外はサクサクのパイ生地、中はクリームがタップリとつまった、貝殻みたいな可愛らしい見た目の、ドルチェの代表格だ。
 優しい甘さでとても美味しかった。見た目も味も日本人受けすると思うのに、意外と知られてないんだよな。

「大変美味しゅうございました。ありがとうございます。」
「満足したかしら?」
「ええ。とても。」
 セレス様がいらっしゃるからか、パトリシア王女が終始物静かだったので、食事の最中も安心して歓談出来たのが非常にありがたかった。だがそれも、料理長が下がるまでの間のことだった。

「さ、邪魔者はいなくなったわ、持ってきたものを見せてちょうだい、ジョージ。」
 料理長とロンメルが、皿を下げて部屋を出て行った途端、目をキラキラさせて言ってくる。下のものに示しがつかないとでも、前回叱られたのだろうか。一気に前回のパトリシア王女に戻ってしまった。

「ジョスラン侍従長にこれを。」
 部屋の端に控えていた従者たちに、エドモンドさんが持ってきた品を渡す。もちろん折りたたみ式コンテナも。
「これは重いのでお一人で。」
 そう言われて、1人の従者が折りたたみ式コンテナを、残りを別の従者が持ち運んだ。

 ジョスラン侍従長は折りたたみ式コンテナを見て、
「これもコボルトの作ですか?」
 と首をかしげた。
「いえ、これはジョージの作です。物を入れて運ぶことが出来、上に重ねる事も出来て、折りたたむことが出来る品です。
 120キロまでの重さに耐えることが出来ますが、それ自体に重さがありますので、重ねる際は過重にお気をつけ下さい。」

 従者が簡単にコンテナを折り畳んで広げる様を見て、ジョスラン侍従長が目をみはる。
「これは……素晴らしいな……!」
「ありがとうございます。」
「それで、これがコボルトの食器かね?」
「はい、幾つか持ってまいりましたので、直接口に当ててみてください。今までの食器とは、口当たりが異なるのがお分かりになるかと思います。」

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...