こじらせ中年の深夜の異世界転生飯テロ探訪記

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

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第37話 ソドバ(ノビル)とラポスタ(からし菜)のパスタと根菜汁①

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「発言をよろしいでしょうか。」
 それまで黙っていた料理長が声を発する。
「許可します。」
「パトリシア王女、そろそろこの者を帰してやってもよろしいでしょうか。
 急に呼び立ててしまいましたので。」

「もう少し、いいじゃない?」
 パトリシア王女は不服そうだ。
「ルピラス商会が商品を見せに来る際に、同行するということにもなりましたし、その時またゆっくりと、話す機会を設けてはいかがでしょう。」

 パトリシア王女はまだ首をひねっている。
「平民は乗り合い馬車で移動いたします。
 このまま引き止めますと、この者が帰る手段をなくしてしまいますので……。」
「あら、だったらこのまま王宮に泊まっていけばいいわ。
 ジョスラン、彼の部屋を用意させて。」

 王宮に泊まる!?冗談じゃないぞ!
「──それはなりません、王女様。」
 ジョスラン侍従長が厳しい表情を向ける。
「初めて王宮に来た、身分の保証もない者を宮殿に泊めたとあっては、いくら国王様がパトリシア王女に寛大であっても、おしかりは免れないでしょう。」

 まったくだ。いくら大勢の従者がいるとはいえ、初対面の男を家に泊めようとするだなんて、お転婆にもほどがある。
 俺が父親でも許さない。
 だいたい俺は人を待たせているし、カイアも迎えに行かなくちゃならないんだ。
 予め言ってくれていたならまだしも……。
 こちらの予定も考えて欲しいものだ。

「そう……、それなら仕方がないわね。
 では、またお会い出来る日を楽しみにしています。
 今日は本当に楽しませて貰ったわ。
 店で出す他の商品も、期待に沿うものであることを望みます。」

「ありがとうございます。
 期待に応えられるよう、精一杯頑張らせていただく所存です。」
 最後は王女らしい風格で、俺にそう告げたパトリシア王女に、俺は深々と頭を下げ、料理長とともに部屋をあとにした。

 厨房に戻ると、ロンメルがそわそわと落ち着かない様子で待っていた。
「どうだった。」
「ああ、なんとかなったよ。
 取り繕うことは出来たと思う。」
 俺はロンメルの顔を見て、ほっとため息をつく。

「それは控えめな感想というものじゃないかね、ジョージ。
 王女は大変喜んでいたよ。ここ近年であれだけのお言葉をいただけた料理人はいない。
 君が宮廷料理人でないことが、非常に残念だ。セレス様から宮廷料理人になる気はないと伺ってはいるが、改めて尋ねたい。
 本当に、ここで働く気はないかね?」

「もったいないお言葉ですが、俺は趣味で料理をしているだけなので……。
 今回は人助けもあって、店でしばらく料理する予定ではおりますが、本来料理を仕事にするつもりはありませんので……。」
「そうか、非常にもったいないが、君がそういう気持ちであるのなら尊重しよう。」

 それを聞いたハイマーさんが、また舌打ちしながら睨んでくる。最後まであの調子か。
「ロンメル、そういえば、エドモンドさんと連絡はついたか?
 それと、マイヤーさんにも。」
 連絡もなしに突然放って来てしまったエドモンドさんと、カイアのことが気になった。

「ああ、使いをやって、ちょうど戻って来たところに出くわしたと言ってたよ。
 ちゃんと伝えておいたそうだ。驚いていたみたいだがね。」
 まあ、そうだろうな。
「お前の子どもを預けてるという、マイヤーさんのところには、別の使いに行ってもらってるが、まだ報告に戻ってきてないな。」

「子ども?君には子どもがいたのかね。
 人に預けているということは、奥方は?」
「いえ、俺は独身です。」
「そうか……それは心配だろう。
 急に連れて来てしまって済まなかった。」
 料理長があまりに申し訳無さそうにしているので、実の子どころか、人間ですらないことを言い出せなくなってしまった。

「本当に申し訳ない。
 もうお前のところに戻る馬車はないから、今日は俺のところに泊まっていってくれ。」
「えっ。ないのか?」
 ロンメルの言葉に俺が驚く。

「ああ、田舎だからな。乗合馬車は明るい時間にたどり着けるところまでしか行かないんだ。だから今の時間はもうないのさ。」
 急に呼びたてたのだから、王宮側で馬車くらい用意してくれても良さそうなものだが。

「間に合わないと分かっていたから、早めに使いを出したんだ。本当にすまん。
 まさか子どもを待たせているとは思っていなかったよ。心配だよな……。」
「預かってくれるだろうからそこは問題ないんだが、うちの子は他所様の家にお泊りが初めてなもんでな。そこは心配だ……。
 けど、まあ仕方がない、ないものは。」
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