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第30話 再びコボルトの集落へ③
しおりを挟むオンスリーさんの家は、集落のはずれにあり、小さいながらも頑丈な作りの木の家だった。薪割りの途中だったのか、庭に木にささった斧が見える。
「どうぞ。熱いのでお気をつけて。」
「ありがとうございます。」
オンスリーさんの差し出してくれたお茶をそっと受け取る。
〈オンバ茶〉
オンの若葉を煮出してオンの蜜を垂らしたもの。若返りの効果がある。
若返りか、元の世界にもアンチエイジングに効果のある食べ物とかあったけど、そんな感じなんだろうか。
「……!!うまい!」
甘すぎない爽やかな蜜が、薫り高い葉にコクを増している。熱いのもうまいが、冷やして飲んだら夏にピッタリだな。
「お気に召して何よりです。」
オンスリーさんが微笑む。
「お聞きになりたいのは、我々が瘴気から逃れた術について、でしたね?」
「はい、ご存知でしょうか?」
「ええ。その時に立会いましたので。
あの時、瘴気がかなり強くなり、我らを守護するドライアド様の子株も、それにやられてしまったのです。」
「こちらにいるドライアドも、子株ということですか?」
「はい、子株というには、既にかなり大きいですが、本体は別のところにあります。
我らのところに、ある日勇者一行が立ち寄りました。暴れる我らを抑える為です。」
オンスリーさんは恥ずかしそうに言った。
「ドライアド様が日に日に瘴気にやられてしまい、我々も守護の力が弱まったことで、瘴気にやられてしまったのです。
それはもう酷い有様でした……。まともな意識を保っているのはわずかで……。私も必死に皆を説得しましたが、皆、話が聞ける状態ではありませんでした。」
オンスリーさんは目線を落とす。
「その時集落にいらした、勇者様に同行していらした聖女様が、ドライアド様の瘴気を払い、ドライアド様の力を強める神の守護を与えて下さいました。
それにより、ドライアド様に守護されている我々は、それ以降、瘴気にやられなくなったのです。そのことに感謝をし、私は勇者様一行に同行することにしたのです。」
「なるほど……。魔物だけが瘴気にやられる理由というのは、何なのでしょうか?」
「魔力の強さの問題だと思います。
人は魔力が弱いですから、影響を受けにくいのでしょう。
ですが、人間がまったく影響を受けないかというと、そういうわけでもないのです。」
「というと?」
「病人や、悪しき心を持つ者、心の弱い人間なども影響を受けるようです。
瘴気が強くなると、犯罪が多発したり、病気が悪化して死ぬことがあるようです。」
なるほど……。そうなる前に勇者の出現が求められているんだな。
「それで……一番肝心なことなのですが、この子を……、カイアを瘴気の影響から守るには、どうしたらよいのでしょうか?
以前こちらのドライアドの子株がそうであったように、精霊も瘴気の影響を受けるのですよね?」
カイアは話の深刻さが分からず、俺の手にしたオンバ茶を飲みたがったので、熱いから少しずつ飲むんだぞ、と言って、息を吹きかけて少しさましてやってから、それを飲ませてやると、目を輝かせてちびちび飲んで、ニッコリと俺を見上げて微笑んだ。
「はい、その通りです。瘴気はすべてを飲み込みます。この小ささであれば、影響を受ける可能性は大きいかと。」
「やはりそうですか……。」
心配そうにカイアを見下ろす俺に、カイアが心配げな目で見上げる。
「我らのドライアド様の時のように、聖なる加護を与えて貰うしかないのですが、今この世に聖女様はおりません。
……既に先日、お亡くなりになられてしまいましたので。」
タイミングの悪いと言っては失礼かも知れないが、どうしてもそう感じずには居られなかった。
「つまり今、この子を守る術は……。」
「残念ながら、ないとしか……。」
俺はがっかりした。ここまで来て、出来ないということを知るだけになるとは。
「ですが、有事の際、必ず神は勇者と聖女を遣わして下さいました。
希望を忘れないようにしていれば、きっとまた神が救いの手を差し伸べて下さいますことでしょう。」
その勇者の体を、現時点で俺が貰ってしまったことを考えると、果たしてそれがいつになるのだろうかと、めまいがしそうだった。
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