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第23話 天ぷらと、ヌルチガ(鮭)とジカル(キャベツ)とチーク茸の塩昆布の重ね蒸しと、白子のソテー②
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「いいなこれ、どこで売ってるんだ?」
「売ってはないが……。必要ならいくつか渡そうか?」
「売ってないのか?売り物にすればいいのに。今後も自由に買えたほうが助かる。」
「うーん……。じゃあ、あとで商人ギルドに登録しておくか。」
「そうしてくれ。
そういや、この間、新しく食器洗浄機が職場に来たんだが、あれ、開発したのお前だってな?名前を聞いて驚いたぜ。」
「早速入れたのか、高かったろうに。」
「俺が入れたわけじゃないから値段はわからんが、あれ便利だな。前に立ってなくていいし。」
「だろう、うちにもあるぜ。」
「ああ、これか!
業務用を家に置いているのか?」
「たまに近くの村に大量におすそ分けをするもんでな。
デカい鍋を洗いたかったんだ。」
「なるほどな。
家庭用の小さいのを、今度開発してくれないか?うちにも欲しいんだ。」
「ああ……。工房と相談してみるよ。」
話しながら、ロンメルはオリーブオイルをしいたフライパンの上で、中火で小麦粉をまぶした白子をソテーしている。2分火を入れて、ひっくり返して1分で火を止めたあと、キッチンペーパーに乗せて油を切っていた。
俺は200ミリリットルに測った水に、300ミリリットルになるまで氷を加え、薄力粉200グラムに対し、片栗粉を大さじ2、塩をひとつまみ入れて、氷水に加えてざっくりと混ぜて衣を作った。氷水でないと絶対にサクッと揚がることはない。
うちの母がこれを知らず、子どもの頃は天ぷらの衣といえば、ベタッとした分厚いもので、俺は天ぷらが嫌いな料理の1つだった。
某天丼チェーンで初めてハマり、店長にバイトにスカウトされる程、一時期通い詰めたくらいには、今は天ぷらが好きである。
混ぜすぎると粘り気が出るので、ダマが残ってるくらいがちょうどいい。
打ち粉をふるっておいた食材を、さっと衣にくぐらせる。打ち粉をしておくことで、衣が必要以上につかなくなり、薄く綺麗な状態で仕上がる。
俺は180度に熱した油に、1つずつ衣をつけた野菜を入れていく。とんかつを作る時など、普段は少ししか油を使わないが、天ぷらだけはタップリと使うことにしている。温度が下がるので1つずつ入れて、温度が戻るのを待って次を入れる。
タネを1つずつ入れて、衣が固まるまでは触らず、じっくりと揚げていく。火が通りにくいものは薄く切ってあるが、それでも火が通らなければひっくり返して両面揚げ色がつくまで揚げてゆく。勢いよく泡が出ていれば順調に揚がっているサインだ。
白子も揚げて、キッチンペーパーで油を吸い取ってやる。
「出来たぞ。」
「こっちも完成だ。」
俺たちはテーブルに料理を並べて、茶碗に米をよそい、ワクワクと椅子に座った。
今日は天ぷらと、ヌルチガ(鮭)とジカル(キャベツ)とチーク茸の塩昆布の重ね蒸しと、白子のソテーだ。
「──いただきます。」
俺が手を合わせる仕草を、ロンメルが不思議そうに見る。
「お前のところの神への祈りはそうなのか?」
「俺の世界は八百万の神と言ってな、食材すべてと、人もまた神だ。食材と、作ってくれた人に、感謝の祈りを捧げる言葉だ。」
「なるほどな、いただきます。」
ロンメルが、俺と同じように手を合わせてくれる。
「──それはなんだ?」
「箸だ。俺の地元では、これで料理を食べるんだ。お前の分は、ナイフとフォークとスプーンを置いてあるぞ。」
「俺も使ってみてもいいか?」
「構わんよ。」
俺は箸を出してロンメルに渡してやる。
「う、う~ん、これは難しいな。
すぐには無理そうだ。やっぱりナイフとフォークを使おう、すまん。」
「謝ることはない。俺たちも子どもの頃はすぐに使えずに、スプーンを使うんだ。
練習が必要なのさ。」
なるほどな、とロンメルがうなずく。
「白子だけは塩で、あとはこれにつけて食べてみてくれ。」
俺はめんつゆをお湯で薄めたものを、天つゆとしてロンメルに手渡す。
「うん!うまいな!このライスとやらに凄く合うよ!」
「ジカルもほんのり苦味があるのが、またうまいな!」
「そいつは良かった。」
「天ぷらは残しておいて、酒のツマミにしようと思うんだが……。
お前、……いけるクチか?」
「もちろんだ。」
ロンメルがニヤリとする。
「天ぷらは何にでも合う万能のツマミさ。
白ワインもいいが……。
日本酒なんてどうだ?」
「ニホンシュ?」
「俺の地元の酒だ。」
「いいな!飲もう!」
天つゆで食べているから、さっぱりした淡麗がいいな。俺は純米大吟醸越路吹雪を出した。
塩で食べるなら辛口でもいいんだが。
俺はロンメルのグラスに酒をついでやる。
ロンメルはワクワクと目を輝かせていた。
「──うまいな!さっぱりとした後味だ。」
「気に入って貰えて何よりだよ。」
「村同士の命運をかけた料理対決だなんて言われた時は、俺もどうしたものか困ったが、おかげでこうしてジョージと知り合えた。運命とは分からないものだな。」
「ああ。俺もそれが、あの対決の一番の収穫だと思ってる。」
俺たちは互いにニヤリとし、グビリと酒をあおった。
昼から飲み始めた酒が止まらず、追加で天ぷらを揚げては飲んで、気がつけば、俺たちは1つのベッドで、互いに狭い思いをしながら、朝を迎えたのだった。
「売ってはないが……。必要ならいくつか渡そうか?」
「売ってないのか?売り物にすればいいのに。今後も自由に買えたほうが助かる。」
「うーん……。じゃあ、あとで商人ギルドに登録しておくか。」
「そうしてくれ。
そういや、この間、新しく食器洗浄機が職場に来たんだが、あれ、開発したのお前だってな?名前を聞いて驚いたぜ。」
「早速入れたのか、高かったろうに。」
「俺が入れたわけじゃないから値段はわからんが、あれ便利だな。前に立ってなくていいし。」
「だろう、うちにもあるぜ。」
「ああ、これか!
業務用を家に置いているのか?」
「たまに近くの村に大量におすそ分けをするもんでな。
デカい鍋を洗いたかったんだ。」
「なるほどな。
家庭用の小さいのを、今度開発してくれないか?うちにも欲しいんだ。」
「ああ……。工房と相談してみるよ。」
話しながら、ロンメルはオリーブオイルをしいたフライパンの上で、中火で小麦粉をまぶした白子をソテーしている。2分火を入れて、ひっくり返して1分で火を止めたあと、キッチンペーパーに乗せて油を切っていた。
俺は200ミリリットルに測った水に、300ミリリットルになるまで氷を加え、薄力粉200グラムに対し、片栗粉を大さじ2、塩をひとつまみ入れて、氷水に加えてざっくりと混ぜて衣を作った。氷水でないと絶対にサクッと揚がることはない。
うちの母がこれを知らず、子どもの頃は天ぷらの衣といえば、ベタッとした分厚いもので、俺は天ぷらが嫌いな料理の1つだった。
某天丼チェーンで初めてハマり、店長にバイトにスカウトされる程、一時期通い詰めたくらいには、今は天ぷらが好きである。
混ぜすぎると粘り気が出るので、ダマが残ってるくらいがちょうどいい。
打ち粉をふるっておいた食材を、さっと衣にくぐらせる。打ち粉をしておくことで、衣が必要以上につかなくなり、薄く綺麗な状態で仕上がる。
俺は180度に熱した油に、1つずつ衣をつけた野菜を入れていく。とんかつを作る時など、普段は少ししか油を使わないが、天ぷらだけはタップリと使うことにしている。温度が下がるので1つずつ入れて、温度が戻るのを待って次を入れる。
タネを1つずつ入れて、衣が固まるまでは触らず、じっくりと揚げていく。火が通りにくいものは薄く切ってあるが、それでも火が通らなければひっくり返して両面揚げ色がつくまで揚げてゆく。勢いよく泡が出ていれば順調に揚がっているサインだ。
白子も揚げて、キッチンペーパーで油を吸い取ってやる。
「出来たぞ。」
「こっちも完成だ。」
俺たちはテーブルに料理を並べて、茶碗に米をよそい、ワクワクと椅子に座った。
今日は天ぷらと、ヌルチガ(鮭)とジカル(キャベツ)とチーク茸の塩昆布の重ね蒸しと、白子のソテーだ。
「──いただきます。」
俺が手を合わせる仕草を、ロンメルが不思議そうに見る。
「お前のところの神への祈りはそうなのか?」
「俺の世界は八百万の神と言ってな、食材すべてと、人もまた神だ。食材と、作ってくれた人に、感謝の祈りを捧げる言葉だ。」
「なるほどな、いただきます。」
ロンメルが、俺と同じように手を合わせてくれる。
「──それはなんだ?」
「箸だ。俺の地元では、これで料理を食べるんだ。お前の分は、ナイフとフォークとスプーンを置いてあるぞ。」
「俺も使ってみてもいいか?」
「構わんよ。」
俺は箸を出してロンメルに渡してやる。
「う、う~ん、これは難しいな。
すぐには無理そうだ。やっぱりナイフとフォークを使おう、すまん。」
「謝ることはない。俺たちも子どもの頃はすぐに使えずに、スプーンを使うんだ。
練習が必要なのさ。」
なるほどな、とロンメルがうなずく。
「白子だけは塩で、あとはこれにつけて食べてみてくれ。」
俺はめんつゆをお湯で薄めたものを、天つゆとしてロンメルに手渡す。
「うん!うまいな!このライスとやらに凄く合うよ!」
「ジカルもほんのり苦味があるのが、またうまいな!」
「そいつは良かった。」
「天ぷらは残しておいて、酒のツマミにしようと思うんだが……。
お前、……いけるクチか?」
「もちろんだ。」
ロンメルがニヤリとする。
「天ぷらは何にでも合う万能のツマミさ。
白ワインもいいが……。
日本酒なんてどうだ?」
「ニホンシュ?」
「俺の地元の酒だ。」
「いいな!飲もう!」
天つゆで食べているから、さっぱりした淡麗がいいな。俺は純米大吟醸越路吹雪を出した。
塩で食べるなら辛口でもいいんだが。
俺はロンメルのグラスに酒をついでやる。
ロンメルはワクワクと目を輝かせていた。
「──うまいな!さっぱりとした後味だ。」
「気に入って貰えて何よりだよ。」
「村同士の命運をかけた料理対決だなんて言われた時は、俺もどうしたものか困ったが、おかげでこうしてジョージと知り合えた。運命とは分からないものだな。」
「ああ。俺もそれが、あの対決の一番の収穫だと思ってる。」
俺たちは互いにニヤリとし、グビリと酒をあおった。
昼から飲み始めた酒が止まらず、追加で天ぷらを揚げては飲んで、気がつけば、俺たちは1つのベッドで、互いに狭い思いをしながら、朝を迎えたのだった。
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