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第21話 フライドオニオンとブラックペッパーのクッキー(酒のツマミ)②

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「ラッキーだったのかな……?」
 俺は独り言を言った。
 ドロップ品を拾う俺の目線の端に、何やら動くものがかすめた。
 あの大きさなら動物か小さな魔物だろう。一応いないわけではなかったようだ。

 トレントの脅威から身を隠していたのかも知れない。
 俺はドロップ品をしまい終えると、動いたものを目線で追った。
「え?」
 それはとても小さなトレントの子どもだった。木の陰に、まるで腕のように枝を添えて、こわごわとこちらを覗いている。

 なるほど、番いであれば子どもがいても不思議ではないが、木であっても、魔物であれば、こんな風に子どもを作るのか。
 先程のおっかない見た目の両親と違って、目がくりっとしていて、妙に愛くるしい。
 トレント退治に来ているわけだから、これも倒さないと駄目だよなあ……。

 俺は盾をアイテムボックスに入れて、トレントの子どもへと近付いた。
 それに気付いてササササッとトレントの子どもが逃げる。
 だが、親同様動きが鈍く、すぐに俺の足に追いつかれてしまう。

 他の木を背にして、泣きながらこちらを見ている。
 困ったな……。
 こんなの殺せないぞ。
 俺はそっとトレントの子どもを抱き上げてみた。
 嫌がる子猫のように、小さな力で枝が押し返してくるが、まるで抵抗になっていない。その愛らしさに思わず吹き出してしまう。

 連れて帰るか。
 もともと1体だと聞いていたし、子どもがいることは知られていない。
 魔物だからいずれは凶暴化する可能性があるが、その時考えればいい。
 俺はトレントの子どもをアイテムバッグに入れると、乗合馬車を待って元の町へと戻った。

 俺はトレント討伐の証拠の枝を2体分と、ドロップ品を冒険者ギルドのカウンターに並べようとしたが、とても乗り切らなかった。
 すぐに慌てて裏に通される。
 ギルド長は不在だったが。副ギルド長がギルド長の部屋に通してくれた。

 俺は番いでいたことを告げ、すべてのドロップ品を机の上に並べた。
 ドロップ品は全部で247もあった。
 過去最大記録だと言われた。
 まあ、8~30が基本で、1体で最大54と聞いていたから、相当多いのは俺でも分かる。

 となると、あれはかなりレベルが高かったということだろう。聞いていたレベルでは絶対にない。
 副ギルド長から、トレントはレベルが高くないと繁殖することはなく、番いになることはないのだと説明された。

 森に他の動物や魔物が一切いなかったことを話すと、それらを食べて一気に大きくなったのだろうと言われた。
 肉食なのか、木なのに。
 やられていたら、俺も食われていたのかも知れない。くわばらくわばら。

 ステータスを上げる実の他に、魔石が2つと、討伐証明の為の枝が2つ。
 それらをすべて買い取って貰うことにしたのだが、一番多い実が知力の実だったらしく、すぐにお金を用意出来ない為、後日改めて来て欲しいと言われた。

 冒険者1人につき現代の価値で言うと、一千万単位をすぐに支払える冒険者ギルドが、お金を用意する時間が欲しいというのは、いったいいくらになるというのか。
 このクエストは受けて正解だったな、と俺は思った。

 予定がだいぶ早く終わったので、俺は村に立ち寄って、アーリーちゃんの家を尋ねることにした。
 お菓子作りの約束を果たす為だ。
 家に迎えに行くと、御祖父母とともに、祖母のスカートを掴んで、後ろから恥ずかしそうに顔を出してくる、アーリーちゃんが出迎えてくれた。

 だいぶ仲良くなれたとは言っても、まだまだ恥ずかしがり屋さんなのは変わらないようだ。
 お菓子作りの話は以前からしてあったし、そのことは事前に御祖父母も了承済みなので、今日時間が出来たので一緒にしたい旨を告げると、喜んで送り出してくれた。

 アーリーちゃんが自分の足で歩きたがったので、手をつないでゆっくりと俺の家へと向かう。
 まだヨチヨチ歩きほどではないが、頭が体に比べて大きくてバランスの悪い年齢なので、気をつけないとすぐコケる。

 なにもないところでつまずいて、地面にしゃがみそうになったところを、力を入れて持ち上げて立たせてやる。
 痛かったな?と心配したが、大丈夫そうで、そのまま少しでも早く歩こうと、またトコトコ早足で歩き出す。
 ゆっくりと時間をかけて、俺たちは家にたどり着いた。
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