上 下
42 / 431

第16話 サラマンダーのスープ、ケルピーの雑炊、ケルピーの馬刺しと刺し身、ワイバーンの唐揚げ、サラマンダーの旨辛炒め④

しおりを挟む
「今回の勝者は……、ジョージ・エイトさんとします。」
 ラグナス村長たちが、さすがジョージだ!と、わっと小躍りする。
 それを驚愕の眼差しで見ている隣村のスパイク村長。

「──決め手はケルピーの刺し身という料理でした。
 肉や魚を生で食べる美味しさという、新しい発見をジョージは我々にもたらしてくれました。ぜひジョージも宮廷料理人に迎えたいと我々は考えています。」

「いや……、俺は趣味で料理をしているだけなので、仕事でやるつもりはありません。
 せっかくですが、お断りさせてください。」
 俺がそういうと、審査員たちは酷くガッカリした顔をした。

「あなたはどこかに店を持っていないのですか?」
「ええ、たまにおすそ分けする程度で、自分が食べる分を作るだけです。」
 それを言うとますますガッカリした顔をする。

「ジョージ、君の家に、今度遊びに行ってもいいかい?
 ぜひ、またお互いのレシピを交換しよう。」
 ロンメルさんが笑顔でそう提案してくる。俺はもちろんだと答えた。俺たちは勝ち負けなど気にせず、とても和やかなムードだった。

 だが穏やかでないのは隣村のスパイク村長だ。
「分かっているだろうな?スパイク。
 わざわざ王宮勤めの方々を審査員に招いて負けたんだ。
 ちゃんと謝罪してもらおうか。
 それと、向こう1年間の収穫半分だ。
 お前が提案したんだからな?
 きっちり守って貰おうか。」

 そう言うラグナス村長に、青ざめた表情になるスパイク村長。
「……本当に申し訳なかった。
 このとおりだ。
 だが、収穫は勘弁して欲しい。
 村が死んでしまう。」

 スパイク村長は泣きそうになっていたが、ラグナス村長は駄目だ、と突っぱねる。
 まあ、こちらが負けたら奪う気でいたのだから、当然といえば当然だが。
「許してやって下さいラグナス村長。
 そのかわり、2度と村に絡んで来ない約束をさせるということでどうですか。」

 俺の提案にも、ラグナス村長はまだ渋っていた。恨みが相当根深いんだろうな。
「……認めていただけないのであれば、俺が食材をスパイク村長の村に届けますよ?
 俺に負けたせいで隣村の人たちが死んだ、なんて、寝覚めが悪すぎますからね。」

「ま……、まさか、ジョージ、スパイクの村に料理を?」
「……まあ、それもあるかも知れませんが。」
 スパイク村長の村人たちが、互いに顔を見合わせながら、むしろその方がいいんじゃ?とざわつき出す。

「だ、駄目だ!
 ……分かった。
 ゆるそう。
 だが、2度と我々の村に関わらないで欲しい。子どもの頃から本当にうっとうしかったんだ。お前の顔なんて、2度と見たくないよ。」

 ラグナス村長は腕組みしながらため息をついた。
「分かった……。
 ありがとう、すまない。」
 スパイク村長はついに泣き出してしまった。

「あなたはとても若いのに、こんなにハンサムで、料理の腕も凄くて、おまけに人間が出来ているのですね。
 本当に感心するわ。」
 審査員長の女性が微笑みながら俺にそう言った。

「──ハンサム?誰がだ?」
 俺が首をかしげると、呆れたようにロンメルさんが、
「ジョージ、お前だよ。」
 と言った。

「ちょっと、誰か鏡を貸してくれないか?」
 俺は自分の顔を見てみたくなった。
「……まさか、自分の顔を見たことがないのか?」
 その場にいた全員が驚愕の表情で俺を見てくる。

 俺の家には確かに鏡がなかった。
 この体は女性ホルモンが多いのか、ヒゲが伸びてこないので、見る必要がなかったのだ。
 以前の体の時も、ヒゲを剃るときくらいしか鏡なんて見なかったし、俺は自分の顔をマジマジ確認する習慣がない。

 シャツの襟首と袖口が汚れてなくて、ヒゲがそってあれば、そんなに鏡を見る中年男性は存在しないと思うんだがな。
 ……なんだこの顔は。
 俺は鏡を貸して貰うと、女性陣がジロジロ見てきた理由を、ようやく理解したのだった。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...