こじらせ中年の深夜の異世界転生飯テロ探訪記

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

文字の大きさ
上 下
41 / 470

第16話 サラマンダーのスープ、ケルピーの雑炊、ケルピーの馬刺しと刺し身、ワイバーンの唐揚げ、サラマンダーの旨辛炒め③

しおりを挟む
「釘の頭に凹みがあって、それを回すと外せるものです。留め外しが出来ますから、ネジを使えば、何も解体しなくとも……。」
「そんなようなものは、聞いたことがないですね。」

 なんと。この世界にはネジがないのか。
 魔道具なんてものがあるのに、便利なようで不便な世界だな。
 まあ、誰かが発明しなきゃ、存在しないわけだが、ちょっと釘の頭に切り込みを入れる程度のことを、考える人間が今までいなかったのか。

 これは購入するより、ネジを使った食器洗浄機を、工房で新しく作って貰った方がいいな。いちいち電池が切れるたびに新しいものを買うようなものだ。
 電池を交換出来る蓋を作って貰おう。

 俺はそう考えながら料理の続きを始めた。
 ワイバーン肉は以前作った、時短の味付けで漬け込んだものを、唐揚げにしてゆく。
 ケルピーは馬刺しと刺し身にした。
 馬刺しはにんにくと生姜をつけて。魚の部分はフグのような味だったので、小ねぎと紅葉おろしを巻いてポン酢で食べて貰う。

 ケルピーの魚の部分の骨に近い部分の身は雑炊にして溶き卵を加えた。
 1時間ともなると作れるのはこんな程度だ。完全に食材の力に頼ったが、生で食材を食べる習慣がないというこの世界の人たちに、受け入れられるかが勝負の鍵だ。

 審査員の前に料理が並ぶ。まずはロンメルさんの、マンドラゴラの炒めものと、ミノタウロスの柔らかステーキ、クラーケンの親子和えだ。かなりの高級食材らしく、審査員がおお、と唸る。

 特にマンドラゴラが珍しいらしく、審査員のうち男性2人は初めて食べるらしい。
 審査員と一緒に俺もご相伴に預からせて貰う。ワクワクしながら食べると、一見太い切り干し大根にしか見えないマンドラゴラからしみ出す旨味に驚く。

 まるでタンを噛みちぎっているかのような歯ごたえ、なのに味付けをすべて吸い込んだ吸収力、ほんのりとした酸味と甘味に、少し強い塩気がたまらなくて酒が飲みたくなってくる。
 これが植物の魔物だって?とんでもないな!

 あっという間にマンドラゴラを食べてしまい、ミノタウロスに取り掛かると、唇で切れる程に柔らかい。これを短時間で仕上げたのか。圧力鍋のようなものがあったとしても、この柔らかさは普通の鍋で4日は煮ないと出せない。カレーに入れたら美味いだろうな。

 クラーケンの親子あえは、クラーケンの卵と肉を湯引きして、火を通し過ぎずに食感を活かしたことで、卵はポリポリ、肉はプリプリと、違った食感が楽しめる。クラーケンはイカのような味だが、船で捌いたイカ刺しのような、柔らかすぎない、ちゃんと歯ごたえのあるところが最高だった。

 続いて俺の番になり、サラマンダーのスープ、ケルピーの雑炊、ケルピーの馬刺しと刺し身、ワイバーンの唐揚げ、サラマンダーの旨辛炒めの順で出した。単に味の濃さの順だが、喜んで食べていた審査員の手が、馬刺しと刺し身で止まった。

 やはり生は抵抗があるのだろうか……?
 だが、ロンメルさんが美味そうに食べているのを見て、恐る恐る口に運んだ途端、審査員の目が丸くなり、バクバクと一気に食べだし、俺はほっと胸を撫で下ろした。

 審査員が1度控室に戻ると、ロンメルさんが俺に小声で話しかけてきた。
「料理はどちらで学ばれたのですか?」
「両親が主ですが……、あとは前の職場の人たちや、行きつけの店だったり、色々ですね。」
 それを聞いたロンメルさんが驚く。

「料理人でもない人たちが、あれだけのレシピを考えられたのですか?」
 俺の世界ではよく食べられているものばかりで、特に珍しくもない。そうですね、と頷くと、あなたの故郷の方たちは、皆さんとても料理がお好きなのですね、と微笑んだ。

 そうして審査を待っている間に、俺とロンメルさんは互いのレシピを教え合い、すっかり仲良くなった。
 審査員が戻って来てテーブルに付き直すと、俺とロンメルさんは背筋を伸ばして審査結果が告げられるのを待った。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

処理中です...