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第3章

第470話 フィンリー・バイデン伯爵令息

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 僕はそれを握りしめつつ、バイデン伯爵家の前に降り立った。うわあ……、おっきな家だなあ。キャベンディッシュ侯爵家ほどじゃないけど、伯爵家としたら大きいほうだ。

 それに見た感じ、建物自体がとても新しい気がするね。現在のご当主がかなりやり手なのかな?珍しい鉱物を発見したらしいし。

 リシャーラ王国同様、海のない国で、地図でいうとリシャーラ王国の左隣に位置する、山を越えた向こう側の国だ。

 塩戦争の時に共闘して以来の友好国で、貴族同士の交流会が定期的にある国だね。キャベンディッシュ侯爵家は直接の取引がないから、お家事情にあまり詳しくないけど。

 鉱山が多くて住める土地の少ないリシャーラ王国と違って、作物の輸出で生計をたてている国だから、珍しい鉱物がナドミン王国で見つかったっていうはかなり驚きだよ。
 リシャーラ王国でも見つからないのにね。

 鉱物の内容次第では、リシャーラ王国の輸出事情が変わってくるかも?実用化に向けてアイザック・タンザビアさんに武器を作ってみてもらおうとしているのかな?

 門の前には門番が1人立っていた。僕は門番にバイデン伯爵令息から渡されたカフスを手渡して、バイデン伯爵令息に取り次いで欲しいということと、自分の名前を名乗った。

 門番がお待ち下さいと言って一度引っ込むと、侍女が現れて、ご案内致します、と僕たちをうながした。門番は僕にお辞儀をして、再び元の位置に戻って警護を始めた。

 良かった、バイデン伯爵令息は、家にいたみたいだ。いなかったら一度戻るか、ナドミン王国に泊まることになったからね。

 応接室に案内されて、侍女が部屋を出て行くと、今度はメイドがやって来て、テーブルに僕とキリカの分のお茶を置いて出て行く。
 しばらく待っていると、

「やあやあやあ!キャベンディッシュ侯爵令息じゃないか!ようやくこの僕をたずねてくれたんだね!君にはこの僕の命を救ってくれたお礼をしなくてはと思っていたのだよ!」

「お、お久しぶりです、お変わりなさそうでなによりです、バイデン伯爵令息……。」
 胸に左手を当てて、右手を広げてオーバーなポーズを取りながら部屋に入ってきたバイデン伯爵令息に、僕は思わず引き気味になりながら、立ち上がって挨拶をする。

 貴族の礼儀もへったくれもない人だけど、これがバイデン伯爵令息という人なんだ。
 悪い人ではないんだけどね。よく悪くも変わった人だと思う。

 よく来てくれたね、と差し出された手を握り返すと、キリカが横でカーテシーをしていた。バイデン伯爵令息は、そこで初めてキリカの存在に気付いたみたいだ。

「はて?この美しいお嬢さんは?」
「お初にお目にかかります、フィンリー・バイデン伯爵令息。アレックス・ラウマンの妹、キリカ・ラウマンにございます。」

「ラウマン?」
 バイデン伯爵令息は、僕の名字が気になったみたいだ。門番に名前は伝えさせてもらったんだけど、伝わってなかったのかな。

「はい、実は先日後継者の立場を弟に譲りまして。今は平民で商人をやっております。」
「そうだったのだね。まさかキャベンディッシュ侯爵令息が後継者から降りるとは。」

 そうとだけ言って、バイデン伯爵令息は特に詳しい事情を聞いてこなかった。普通の貴族なら、あれこれ探るように聞いてくるものだけど、こういう人の事情に深入りするようなことは、聞いてこない人なんだよね。

 だからちょっと変わってるけど、とても品のある人だなって思うよ。
「それにしても、君にこんな美しい妹君がいらっしゃったとはね!弟君にお会いしたことはあるが。どこに隠していたんだい?」

「は、ははは……。妹は体が弱くて……。」
 リアムはまだ幼いから、滅多に大人のいる外国の貴族との夜会に参加したことがないのに、会ったことがあったんだ!

 そこで紹介されなければ、僕に妹がいることは違和感だよね。女の子にしか興味のない人だから、僕の家族のことなんて覚えていないだろうと思っていたんだけど……。

 逆に、妹がいれば当然覚えているってことでもあるよね。失敗したなあ……。
 僕の家族構成を知っている人には、キリカは会わせないようにしてたんだけど。

 リアムのことを覚えていたのは、女の子みたいな顔した僕のことを覚えていたからなのかな?僕の家族だからってことで。

「美しいお嬢さん、ぜひ今度私と2人きりでゆっくりお茶でもいかがですか?」
 バイデン伯爵令息が、さっそく美しいキリカを口説き始めている。臆さない人だなあ。

「考えておきますわ。こう見えても兄は大変ヤキモチ焼きですので、殿方と2人っきりという状況には、随分と心配致しますの。」
 キリカがそれをクールな表情で一蹴する。

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