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第3章
第428話 罠には罠を。
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ルーデンス王太子たちが校門前に到着する少し前に、文官科の出発が発表される。
みんな一斉に走り出した。僕は少しスピードを緩めて、みんなに遅れて走り出した。
文官科の先頭集団はさすがにまだまだスタミナが有り余っているから、ここまで走り続けて来たルーデンス王太子たちに、すぐに追いつかれるようなことはない。
まあどうせそのうち追い越されるのだけれど、教師の見ているところでのんびり走っていると、手を抜いていると思われるからね。
僕も遅いと言われない程度に、だけどみんなの最後尾につくように、あえてのんびりと走った。だいぶスタミナが付いてきたから、この速度なら疲れることもない。
校舎からだいぶ離れて、教師の目も届かなくなった頃。みんなとも離れて最後尾を走る僕は、生徒たちの視界からも消えた。
誰もいなくなったところで、あえて足を引っ掛けて転ばせて来たように、この状況を見れば、ルーデンス王太子はまた僕に仕掛けてくることだろう。
なんでかわからないけど、嫌われてるみたいだし。いつもはルーデンス王太子が1人で先頭を走っていたけど、今日は全員身体能力向上の薬を飲んでいるからか、ルーデンス王太子を先頭に、まとまって走っている。
そうか。今日は全員でやるつもりなんだ。
だからルーデンス王太子に追いつけるように、薬を飲んだってことなんだな、きっと。
──来る。
後方から一気に距離を詰めてくる気配がする。ニヤニヤと笑う顔を隠しもしないで、僕にピタッと並んでみせたのは、防衛大臣の息子、ベンジャミン・グリフィスだ。
「ようやく1人になったようだな。」
「文官科が僕らを抜いてトップ層で毎回ゴールインするとか、生意気過ぎだよねえ。」
「魔法も使えない名門一家の落ちこぼれが、ちょっと平民として成り上がったからって、あんまり調子にのるなよ?」
なるほど、これが彼らの本音なんだね。
近接職の名門、グリフィス侯爵家と肩を並べる、魔法職の名門、キャベンディッシュ侯爵家。その後継者として期待をされてた僕。
だから昔はなんどか彼らに、声をかけられたことがあったっけな。キャベンディッシュ侯爵家の人間なら、こっちに来いよって。
小さい頃の上級貴族以上の集まりで、最初は彼らも、僕を仲間に入れようとしていたけれど、僕がかたくなに仲間に加わろうとしなかったことで、面白くなかったんだろうね。
その頃からきっと僕は彼らに嫌われていたのかも知れない。ひょっとしたら魔法スキルを得て、父さまの後継者として王宮に入っても、僕と一線を引いたかも知れないね。
そう考えると、リシャーラ王国の魔法師団長を目指せなくなって、逆に正解だったかも知れないな。僕は馬鹿正直で、そういう人たちをうまいこといなすことが出来ないから。
「おい、何無視してんだよ。」
考え事をして黙ってしまった僕にいらだったのか、グリフィス侯爵令息が、ニヤニヤ顔をやめて僕を睨んでくる。
「──殿下、なにかズルされてますよね。」
「スル?それはどういう意味かな?」
代わりにルーデンス王太子が、ニコニコしながら僕に並走してくる。
「普段の殿下たちなら、ここまで早くはない筈です。いつも先頭で走っているヒルデ・ガルドさんを抜いて、ルーデンス王太子だけならまだしも、他の人たちまで文官科に追いつくなんて。ありえないですよね。」
「それって俺らのことを馬鹿にしてんのか?
たかが平民の女が、俺らの前を走っているのがそもそもおかしいんだよ!」
ヒルデに対抗意識を燃やしているのか、グリフィス侯爵令息が気に入らなげにそう叫んだ。顔に唾飛ばさないでよ!
実際普段は、いくら冒険者で鍛えているとはいえ、魔法科のオフィーリア嬢にまで抜かされているのだから、彼のスタミナは、騎士科としてはかなりないほうだと言える。
「一体それがどんな手段なのかはわかりませんが、無理矢理に上げた力は、衰えるのも急激ですよ。そろそろきついのでは?」
「そう思うかい?まだまだ余裕だよ。」
「いえ、おそらくそろそろ限界ですよ。
……──血の海。」
「ギャアッ!?」
「か、体が痛い!!」
ルーデンス王太子たちは、僕の血の海にスタミナやHPを奪われて、同時に痛みも与えられて地面に転がった。
僕の血の海は、現在半径1アガの対象に対し、ステータスHPおよびMPおよびSTにおける、50%の固定ダメージを与える。
僕を取り囲むようにしてくれないと、全員に同時にかけられないから、ずっと僕に近付くこのタイミングを待っていたんだ。
────────────────────
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みんな一斉に走り出した。僕は少しスピードを緩めて、みんなに遅れて走り出した。
文官科の先頭集団はさすがにまだまだスタミナが有り余っているから、ここまで走り続けて来たルーデンス王太子たちに、すぐに追いつかれるようなことはない。
まあどうせそのうち追い越されるのだけれど、教師の見ているところでのんびり走っていると、手を抜いていると思われるからね。
僕も遅いと言われない程度に、だけどみんなの最後尾につくように、あえてのんびりと走った。だいぶスタミナが付いてきたから、この速度なら疲れることもない。
校舎からだいぶ離れて、教師の目も届かなくなった頃。みんなとも離れて最後尾を走る僕は、生徒たちの視界からも消えた。
誰もいなくなったところで、あえて足を引っ掛けて転ばせて来たように、この状況を見れば、ルーデンス王太子はまた僕に仕掛けてくることだろう。
なんでかわからないけど、嫌われてるみたいだし。いつもはルーデンス王太子が1人で先頭を走っていたけど、今日は全員身体能力向上の薬を飲んでいるからか、ルーデンス王太子を先頭に、まとまって走っている。
そうか。今日は全員でやるつもりなんだ。
だからルーデンス王太子に追いつけるように、薬を飲んだってことなんだな、きっと。
──来る。
後方から一気に距離を詰めてくる気配がする。ニヤニヤと笑う顔を隠しもしないで、僕にピタッと並んでみせたのは、防衛大臣の息子、ベンジャミン・グリフィスだ。
「ようやく1人になったようだな。」
「文官科が僕らを抜いてトップ層で毎回ゴールインするとか、生意気過ぎだよねえ。」
「魔法も使えない名門一家の落ちこぼれが、ちょっと平民として成り上がったからって、あんまり調子にのるなよ?」
なるほど、これが彼らの本音なんだね。
近接職の名門、グリフィス侯爵家と肩を並べる、魔法職の名門、キャベンディッシュ侯爵家。その後継者として期待をされてた僕。
だから昔はなんどか彼らに、声をかけられたことがあったっけな。キャベンディッシュ侯爵家の人間なら、こっちに来いよって。
小さい頃の上級貴族以上の集まりで、最初は彼らも、僕を仲間に入れようとしていたけれど、僕がかたくなに仲間に加わろうとしなかったことで、面白くなかったんだろうね。
その頃からきっと僕は彼らに嫌われていたのかも知れない。ひょっとしたら魔法スキルを得て、父さまの後継者として王宮に入っても、僕と一線を引いたかも知れないね。
そう考えると、リシャーラ王国の魔法師団長を目指せなくなって、逆に正解だったかも知れないな。僕は馬鹿正直で、そういう人たちをうまいこといなすことが出来ないから。
「おい、何無視してんだよ。」
考え事をして黙ってしまった僕にいらだったのか、グリフィス侯爵令息が、ニヤニヤ顔をやめて僕を睨んでくる。
「──殿下、なにかズルされてますよね。」
「スル?それはどういう意味かな?」
代わりにルーデンス王太子が、ニコニコしながら僕に並走してくる。
「普段の殿下たちなら、ここまで早くはない筈です。いつも先頭で走っているヒルデ・ガルドさんを抜いて、ルーデンス王太子だけならまだしも、他の人たちまで文官科に追いつくなんて。ありえないですよね。」
「それって俺らのことを馬鹿にしてんのか?
たかが平民の女が、俺らの前を走っているのがそもそもおかしいんだよ!」
ヒルデに対抗意識を燃やしているのか、グリフィス侯爵令息が気に入らなげにそう叫んだ。顔に唾飛ばさないでよ!
実際普段は、いくら冒険者で鍛えているとはいえ、魔法科のオフィーリア嬢にまで抜かされているのだから、彼のスタミナは、騎士科としてはかなりないほうだと言える。
「一体それがどんな手段なのかはわかりませんが、無理矢理に上げた力は、衰えるのも急激ですよ。そろそろきついのでは?」
「そう思うかい?まだまだ余裕だよ。」
「いえ、おそらくそろそろ限界ですよ。
……──血の海。」
「ギャアッ!?」
「か、体が痛い!!」
ルーデンス王太子たちは、僕の血の海にスタミナやHPを奪われて、同時に痛みも与えられて地面に転がった。
僕の血の海は、現在半径1アガの対象に対し、ステータスHPおよびMPおよびSTにおける、50%の固定ダメージを与える。
僕を取り囲むようにしてくれないと、全員に同時にかけられないから、ずっと僕に近付くこのタイミングを待っていたんだ。
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