上 下
362 / 486
第3章

第416話 周囲を見渡せば

しおりを挟む
「な……なんだ、その、貴族にあって平民にない習慣っていうのは。」
「──さっきのあんたの行動よ。」

 自分たちが貴族と丸わかりの行動をしていたと言われて、さすがに少し驚いた様子のサイラスが、ヒルデに質問すると、ヒルデが腰に手を当てて前かがみになりながら答える。

「こ、行動?なんのだ?」
「無防備に財布を出したでしょ。
 肉の焼串を買うのに。」
「出すだろう!買い物をするんだぞ!?」

「──出さないのよ。」
「は?」
「平民は財布を出さないの。というか、そもそも持ってないことがほとんどなの。」

「ど……どういうことだ?」
 え?僕もわかんない。どういうこと?
「平民は物々交換が基本なんですよ……。」
 と、ポーリンさんが教えてくれる。

「子どもがお使いに出る時もね、財布なんか当然持って行かない。銅貨だけを握りしめて行くのさ。まず子どもで銀貨を持っている子自体が珍しいんだよ、平民だとね。」

「さっき、みんなの分の肉の焼串代を、格好つけて、あんたまとめて支払ったわよね。
 無防備に取り出した財布から、金貨をつまんで。そこに下げてるカバンから出して。」

「か、格好つけてなんか……。
 別に……その……。」
 うん、いいとこ見せたかったんだね、サイラスの性格なら、そうしただろうね。

「その時点でそれを見ていた全員に、あんたが貴族だってことはバレてるわよ。あんたさっきぶつかってきた男に、財布をすられそうになったのにも、気付いてないんでしょ。」

「な……なんだと……。」
 ラナおばさんの言葉に、僕もサイラスも、他の貴族の子どもたちも呆然とする。貴族だとバレた途端そんなすぐに狙われるなんて。

「ジョージさんたちから離れて、あんた1人で買いに行ったものね。そこでジョージさんたちは、あんたの護衛じゃないとわかった。
 護衛のいない貴族の子どもなんて、怖くもなんともないもの。狙われたのよ。」

「あれはお見事でしたね。ぶつかった隙にカバンの蓋を開けた男の手をひねりあげて、財布から手を離させてましたね。」
「さすが私たちの弟子だ。」

「あ……ありがとうございます、師匠。」
 グレースさんとジャックさんにそれぞれ褒められて、ヒルではとても嬉しそうにしていた。ヒルデは気が付いて止めに入ったのか。

 平民はそもそも財布を持たない……。
 そんなこと、僕もサイラスも、当然他の貴族の子どもたちだって、いや、貴族は全員知らないことだった。

 ということは、財布を持っている時点である程度お金を持っているか、お金のある家の子だってことがバレてしまうんだ。

 人前で財布なんか出している無防備な子どもは、犯罪者や他の平民たちにそれがバレていることも知らずに、襲われてしまうんだ。

「それにカバンだ。カバンを持っている平民の子どもは、そこに仕事道具を入れている、商人か職人の仕事についているんだ。」

「でも、貴族は冒険者になる前から、みーんなカバンを持っているわよね。従者に持たせるのが当たり前だから、気が付かないんだろうけど、あたりを見渡して御覧なさいよ。」

「あ……あたり?」
 ヒルデの言葉に、サイラスも、少し離れたところでみんなの様子を見ていた僕も、思わず周囲をキョロキョロと見回してしまう。

「カバン、持ってないでしょ。普通の人は。持っているのは職人か商人。服装や手についた汚れなんかで、そうとわかるでしょ。」

 言われてよく見れば、カバンを肩からかけているのは、油まみれの指先をした人や、前掛けをした人たちばかりだった。

 露天をひやかしている人たちは、みんなカバンなんて持っていなかった。マジックバッグとわかる物を持ち歩いている人たちは、みな革鎧を身にまとった冒険者ばかりだ。

 ち……違う。僕の考えていた平民とは、まるで違う。これじゃこの中に僕が紛れようとしてもすぐに毛色が違うとわかってしまう。

 一時期毎日たくさんのお客さんたちを目にしていたのに、全然それに気が付かなかったよ。今のサイラスや他の貴族の子たちと同様に、違和感にも感じなかった。

 確かに目の回るような忙しさではあったけど、カバンも持っていなければ、財布も出してなかったなんて気が付かなかった。

「カバンに仕事道具が入っていなくて、そこから財布を取り出す、妙に小綺麗で汚い服を着た子ども──放逐された元貴族だとな。」
 それ、まんま家を出た時の僕だよ!

 というか、今でも普通に財布出して買い物しちゃってるよ!レンジアがいたから、襲われなかっただけなのかな?
 ……これからは気を付けよう。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。