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第3章
第416話 周囲を見渡せば
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「な……なんだ、その、貴族にあって平民にない習慣っていうのは。」
「──さっきのあんたの行動よ。」
自分たちが貴族と丸わかりの行動をしていたと言われて、さすがに少し驚いた様子のサイラスが、ヒルデに質問すると、ヒルデが腰に手を当てて前かがみになりながら答える。
「こ、行動?なんのだ?」
「無防備に財布を出したでしょ。
肉の焼串を買うのに。」
「出すだろう!買い物をするんだぞ!?」
「──出さないのよ。」
「は?」
「平民は財布を出さないの。というか、そもそも持ってないことがほとんどなの。」
「ど……どういうことだ?」
え?僕もわかんない。どういうこと?
「平民は物々交換が基本なんですよ……。」
と、ポーリンさんが教えてくれる。
「子どもがお使いに出る時もね、財布なんか当然持って行かない。銅貨だけを握りしめて行くのさ。まず子どもで銀貨を持っている子自体が珍しいんだよ、平民だとね。」
「さっき、みんなの分の肉の焼串代を、格好つけて、あんたまとめて支払ったわよね。
無防備に取り出した財布から、金貨をつまんで。そこに下げてるカバンから出して。」
「か、格好つけてなんか……。
別に……その……。」
うん、いいとこ見せたかったんだね、サイラスの性格なら、そうしただろうね。
「その時点でそれを見ていた全員に、あんたが貴族だってことはバレてるわよ。あんたさっきぶつかってきた男に、財布をすられそうになったのにも、気付いてないんでしょ。」
「な……なんだと……。」
ラナおばさんの言葉に、僕もサイラスも、他の貴族の子どもたちも呆然とする。貴族だとバレた途端そんなすぐに狙われるなんて。
「ジョージさんたちから離れて、あんた1人で買いに行ったものね。そこでジョージさんたちは、あんたの護衛じゃないとわかった。
護衛のいない貴族の子どもなんて、怖くもなんともないもの。狙われたのよ。」
「あれはお見事でしたね。ぶつかった隙にカバンの蓋を開けた男の手をひねりあげて、財布から手を離させてましたね。」
「さすが私たちの弟子だ。」
「あ……ありがとうございます、師匠。」
グレースさんとジャックさんにそれぞれ褒められて、ヒルではとても嬉しそうにしていた。ヒルデは気が付いて止めに入ったのか。
平民はそもそも財布を持たない……。
そんなこと、僕もサイラスも、当然他の貴族の子どもたちだって、いや、貴族は全員知らないことだった。
ということは、財布を持っている時点である程度お金を持っているか、お金のある家の子だってことがバレてしまうんだ。
人前で財布なんか出している無防備な子どもは、犯罪者や他の平民たちにそれがバレていることも知らずに、襲われてしまうんだ。
「それにカバンだ。カバンを持っている平民の子どもは、そこに仕事道具を入れている、商人か職人の仕事についているんだ。」
「でも、貴族は冒険者になる前から、みーんなカバンを持っているわよね。従者に持たせるのが当たり前だから、気が付かないんだろうけど、あたりを見渡して御覧なさいよ。」
「あ……あたり?」
ヒルデの言葉に、サイラスも、少し離れたところでみんなの様子を見ていた僕も、思わず周囲をキョロキョロと見回してしまう。
「カバン、持ってないでしょ。普通の人は。持っているのは職人か商人。服装や手についた汚れなんかで、そうとわかるでしょ。」
言われてよく見れば、カバンを肩からかけているのは、油まみれの指先をした人や、前掛けをした人たちばかりだった。
露天をひやかしている人たちは、みんなカバンなんて持っていなかった。マジックバッグとわかる物を持ち歩いている人たちは、みな革鎧を身にまとった冒険者ばかりだ。
ち……違う。僕の考えていた平民とは、まるで違う。これじゃこの中に僕が紛れようとしてもすぐに毛色が違うとわかってしまう。
一時期毎日たくさんのお客さんたちを目にしていたのに、全然それに気が付かなかったよ。今のサイラスや他の貴族の子たちと同様に、違和感にも感じなかった。
確かに目の回るような忙しさではあったけど、カバンも持っていなければ、財布も出してなかったなんて気が付かなかった。
「カバンに仕事道具が入っていなくて、そこから財布を取り出す、妙に小綺麗で汚い服を着た子ども──放逐された元貴族だとな。」
それ、まんま家を出た時の僕だよ!
というか、今でも普通に財布出して買い物しちゃってるよ!レンジアがいたから、襲われなかっただけなのかな?
……これからは気を付けよう。
────────────────────
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「──さっきのあんたの行動よ。」
自分たちが貴族と丸わかりの行動をしていたと言われて、さすがに少し驚いた様子のサイラスが、ヒルデに質問すると、ヒルデが腰に手を当てて前かがみになりながら答える。
「こ、行動?なんのだ?」
「無防備に財布を出したでしょ。
肉の焼串を買うのに。」
「出すだろう!買い物をするんだぞ!?」
「──出さないのよ。」
「は?」
「平民は財布を出さないの。というか、そもそも持ってないことがほとんどなの。」
「ど……どういうことだ?」
え?僕もわかんない。どういうこと?
「平民は物々交換が基本なんですよ……。」
と、ポーリンさんが教えてくれる。
「子どもがお使いに出る時もね、財布なんか当然持って行かない。銅貨だけを握りしめて行くのさ。まず子どもで銀貨を持っている子自体が珍しいんだよ、平民だとね。」
「さっき、みんなの分の肉の焼串代を、格好つけて、あんたまとめて支払ったわよね。
無防備に取り出した財布から、金貨をつまんで。そこに下げてるカバンから出して。」
「か、格好つけてなんか……。
別に……その……。」
うん、いいとこ見せたかったんだね、サイラスの性格なら、そうしただろうね。
「その時点でそれを見ていた全員に、あんたが貴族だってことはバレてるわよ。あんたさっきぶつかってきた男に、財布をすられそうになったのにも、気付いてないんでしょ。」
「な……なんだと……。」
ラナおばさんの言葉に、僕もサイラスも、他の貴族の子どもたちも呆然とする。貴族だとバレた途端そんなすぐに狙われるなんて。
「ジョージさんたちから離れて、あんた1人で買いに行ったものね。そこでジョージさんたちは、あんたの護衛じゃないとわかった。
護衛のいない貴族の子どもなんて、怖くもなんともないもの。狙われたのよ。」
「あれはお見事でしたね。ぶつかった隙にカバンの蓋を開けた男の手をひねりあげて、財布から手を離させてましたね。」
「さすが私たちの弟子だ。」
「あ……ありがとうございます、師匠。」
グレースさんとジャックさんにそれぞれ褒められて、ヒルではとても嬉しそうにしていた。ヒルデは気が付いて止めに入ったのか。
平民はそもそも財布を持たない……。
そんなこと、僕もサイラスも、当然他の貴族の子どもたちだって、いや、貴族は全員知らないことだった。
ということは、財布を持っている時点である程度お金を持っているか、お金のある家の子だってことがバレてしまうんだ。
人前で財布なんか出している無防備な子どもは、犯罪者や他の平民たちにそれがバレていることも知らずに、襲われてしまうんだ。
「それにカバンだ。カバンを持っている平民の子どもは、そこに仕事道具を入れている、商人か職人の仕事についているんだ。」
「でも、貴族は冒険者になる前から、みーんなカバンを持っているわよね。従者に持たせるのが当たり前だから、気が付かないんだろうけど、あたりを見渡して御覧なさいよ。」
「あ……あたり?」
ヒルデの言葉に、サイラスも、少し離れたところでみんなの様子を見ていた僕も、思わず周囲をキョロキョロと見回してしまう。
「カバン、持ってないでしょ。普通の人は。持っているのは職人か商人。服装や手についた汚れなんかで、そうとわかるでしょ。」
言われてよく見れば、カバンを肩からかけているのは、油まみれの指先をした人や、前掛けをした人たちばかりだった。
露天をひやかしている人たちは、みんなカバンなんて持っていなかった。マジックバッグとわかる物を持ち歩いている人たちは、みな革鎧を身にまとった冒険者ばかりだ。
ち……違う。僕の考えていた平民とは、まるで違う。これじゃこの中に僕が紛れようとしてもすぐに毛色が違うとわかってしまう。
一時期毎日たくさんのお客さんたちを目にしていたのに、全然それに気が付かなかったよ。今のサイラスや他の貴族の子たちと同様に、違和感にも感じなかった。
確かに目の回るような忙しさではあったけど、カバンも持っていなければ、財布も出してなかったなんて気が付かなかった。
「カバンに仕事道具が入っていなくて、そこから財布を取り出す、妙に小綺麗で汚い服を着た子ども──放逐された元貴族だとな。」
それ、まんま家を出た時の僕だよ!
というか、今でも普通に財布出して買い物しちゃってるよ!レンジアがいたから、襲われなかっただけなのかな?
……これからは気を付けよう。
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